真相

平 一

真相

表紙:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093082244682855


悪魔学デモノロジーを研究している私は、

物好きがこうじて止まらず、

とうとう一番簡単そうな召喚しょうかんの儀式を行ってみたら、

本当に悪魔が出てきてしまった。


魔王プルソンは近頃の流行に合わせてか(笑)、

可愛いライオンのようなケモ耳をつけ、

天使のように白い翼と衣装が美しい、

ボーイッシュな女の子の姿をしていた。


イラスト1:プルソン

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093082217560925


しかし彼女はやっぱり悪魔らしく、

私が口を開く前から、心の内を読んで答えた。

『ほほう……なぜ悪魔には物事の過去・現在・

未来を教える者が多いのか、ですって?』


自分で呼び出しておいて言うのも何だが、

いきなり機先きせんを制された私は言葉に詰まり、

『え? いや、あの……はい』と、

間の抜けた返答しかできなかった。


すると彼女はすぐに、こう答えた。

『知性、すなわち知的生命活動能力っていうのは、

過去の出来事できごとから〝ああいう時はああなる、

こうすればこうできる〟という因果法則を発見し、

現在いまある物事に働きかけることで、

未来の生存に役立つ結果を得る能力だからよ。 

知性による人類の発展こそが神の御心みこころであり、

私達、悪役を演じる天使の真の使命でもあるのです』


イラスト2:人類

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093082217696242


驚き恐れた私はそれでも何とか、

動揺のあまり回らぬ舌で、聞き返そうとした。

『あ、悪役を演じる……? それは初耳です。

でも、だとすると、どうして……』


彼女はまたもや、先回りをして答えた。

『どうしてわざわざ悪魔に教えさせるなんて、

ひねくれた方法をとるのか、ということね?

……知性や人間性というものには、

もしまだ知らない事情があったら?とか、

おそわった通りじゃなかったら?とか、

あれもしたいがこれもしたい!

決めごとに従うだけじゃつまらない!といった、

限りない想像力と欲求がつきものでしょう?

そもそも知恵ある生き物は、好奇心旺盛おうせいで、

天邪鬼あまのじゃくなものだからですよ!』


イラスト3:好奇心

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093082217810559


『現にこうして、知識を得るだけのために、

危険を冒してまで魔王を呼び出そうとする、

貴方のような人もいる。

これこそまさに、その証拠ではなくて?』

『ああ、ジャガイモの話……』


『そう! よく御存知ね。 昔、ある王様が

ジャガイモ栽培を普及しようとしたんだけど、

国民は馴染なじみがないので嫌がった。

でも、わざとこっそり王宮の庭で育てていたら、

いつの間にか広まっていた……それと同じね』


私は何とか、口をはさんだ。

『すると、もしかしてエデンの園も……』


イラスト3-2:エデンの真実

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093082247775125


『よくできました、まさにその通り!

実は人間には、元から知恵が備わっていた。

私達が厳しい〝楽園追放〟の物語を広めたのも、

人類が自らの努力と責任でその知恵を活かし、

健全に文明を発展させていけるよう、

助けるための親心だったのよ。

言うなれば……獅子の子落とし、というやつね』

ライオンの耳をつけた悪魔はそこでにやりと

得意げに、会心かいしんの笑みを浮かべた。


イラスト4:ヴェネツィアの獅子

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093082218405783


『知性によって自然がどうなっているかを知り、

働きかける技術が進むと、経済・社会生活が豊かになる。

しかし一方、生活が豊かになると人々の欲求も

多様化して、色々な利害が衝突するようになる。

すると、何が必要になるでしょう?』

『えっ? う~ん、利害……の、調整?』


『そう! 富を生み出す技術は善悪両用に使えるから、

悪用・誤用や副作用を防ぎつつ導入しないといけない。

得られた富を生産投資や互助活動に配分したり、

それを行う人間自身を向上・活用するのも大事。

そのために、何が社会にとって善いか悪いかを判断し、

自分達がどうすべきかを決めていくことも必要になる』


イラスト5:人間・文明相関図

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093082220916005


『皆がどうするべきかを決める……政策?』

『大当たり! 〝技術なくして文明発展なく、

政策なくして健全発展なし〟ってこと!

今ある技術のもとでの紛争予防・解決だけでなく、

その限界を越える新技術の導入も含めた、利害調整ね。

これこそが〝知恵の実を食べると神に近づき、

善悪を知る〟という神の御言葉みことばの真意であり、

文明発展の基礎知識なのです』


『〝知性は罪だ〟といましめる教えは、

要するに〝頭の使い道には気をつけなさい〟

〝技術を正しく活かす政策も不可欠です〟

という意味なのよ!』

そう語る彼女の瞳は微笑みながらも、

私をひたと見据みすえていた。


イラスト6:白い獅子

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093082218556474


『は、はあ……なるほど』

一度に色々と考えさせる話を聞いた私は、

何とかそれをまとめて覚えようと、

頭がいっぱいになった。


『今回は、悪意を持つ人じゃなくてよかった。

力の悪用が大きいほど、代償も高くつきます。

貴方は本当に、命拾いをしましたね……』

彼女はそこで突然、というかようやく、

悪魔らしい凶悪そうな笑みを浮かべて、

私の背筋を冷やし、現実に引き戻した。


イラスト7:死神

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093082221173110


『……それでは貴方の未来に、

神の御加護ごかごがあらんことを!』

しかし、次の瞬間には明るい笑顔に戻り、

魔王から聞くとは予想もしなかった言葉を

言い終えるとすぐ、彼女は消えた。


……私は夢でも見ているのか!?

あまりにも突然の展開に呆然ぼうぜんとした私は、

その後しばらく考え込んでしまった。

ずいぶん論理的で科学的な奴だったが、

そもそも神や悪魔や天使とは、

いったい何だったのだろう?

大昔から人類の文明化を見守る異星種族がいる、

などという〝古代の宇宙人〟説も思い出かんだ。


イラスト8:宇宙船

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093082221308292


……まあ、召喚術も略式だったし、

彼女達が何者であれ、

まだ言えないこともあるのかもしれない。

とりあえず存在だけは確認できたし、

その呼び出しには危険も伴うのだとすると、

しばらくは資料分析に専念した方がいいだろう。


この次に、どうしても知りたいことが

できるまでは……ね。


イラスト9:プルソンちゃん

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093082221381433


プルソン:

ソロモン王が使役した、72大悪魔の中の一柱ひとはしら

過去・現在・未来について語り、

地上の秘密や隠し財宝、天界の事柄を教える能力がある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

真相 平 一 @tairahajime

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ