書きたがり作家の文字数削減術
真野魚尾
本編
1. 書きたがり作家の文字数削減術
真野魚尾(まの・うおお)です。小説を書いています。
真野は頭の中に映像が流れるのを書き下していくタイプです。それゆえ、ついついキャラの一挙手一投足を
結果、場面は間延びし、物語のテンポは損なわれ、文字数は無駄に増え……と悪い事ずくめ。長編をメインに手掛ける者としては深刻な悪癖です。
これではいけない、と思い立った真野は、それまでほとんど書くことのなかった短編作品を何作か仕上げながら、文章のダイエットを試みたのでした。
その過程から経験的に見出した方法のいくつかを、以下に書き記そうと思います。
◆接続詞・修飾語を削る
最も基本的で手間要らずな解決法です。
接続詞は「そして」「だから」などの順接はなくても意味が伝わる場合が多いですし、「だが」「しかし」などの逆接も不要な場面が意外と多いものです。
形容詞や副詞などの修飾語も同様です。
単にリズムを整えるとか、結論を勿体ぶるだけが目的なら、修飾語をばっさり削ったとしても、文章から受ける印象は大して変わりません。
書いた文を見直しながら、最低限読者に伝えたい意味やニュアンスだけを残すよう心がけるとよいでしょう。行き詰まりを感じたら、類語を探ったり、文章の視点や言い回し自体を変えることも有効です。
◆情報は描写の中に忍ばせる
キャラの外見や性格などの特徴は、なるべく直接説明するのを避けます。
こんな髪型で、◯◯のような服装で……などと、いちいち言い及んでいては話が進みません。
「ポニーテールを揺らしながら」「ワンピースの裾を風になびかせて」などのように、行動や描写の中へ盛り込むのがスマートなやり方です。
そのうえで、シナリオ上必要な情報は直接説明してもいいし、シナリオに影響しない情報ならば省略して読者の想像に任せるのもよいでしょう。
内面に関しても「◯◯は穏やかな性格で~」と明言するよりは、話を進める中で「頼み事をされても嫌な顔一つしなかった」と間接的に示す方が、読者は自然に受け取れるはずです。
◆一つの文章に複数の役割を持たせる
キャラの人となりを見せつつ、同時に状況説明も兼ねる応用法です。
【例文1】
窓から差し込む西日に〇〇はレンズの奥の目を細めた。テーブルを横切るウェイターも四往復目だ。コーヒーの温さも良い塩梅になった。
〈主な情報〉
・時間帯は夕方、〇〇は眼鏡をかけた人物
・テーブルとウェイター→飲食店か喫茶店のような場所
・〇〇はコーヒー好きだが猫舌、冷めるまでそれなりの時間を過ごしている、人の動きを気にする→神経質もしくは職業病
人物の情報やロケーションなどをそのつど説明しなくても、描写の中に詰め込めるという一例です。
場合によっては、ついでに伏線を仕込んでおくのもよいかもしれません。
例えば、このときのウェイターが実は〇〇を付け狙うスパイだった、とか。その際は、後々思い返せるよう、印象に残る出来事とセットにしておくことも重要です。
【例文2】
「あー、このままじゃBと同級生になっちゃうよー」
「甘えたこと言わないで、A。それともキスのごほうびが必要? 受験のときみたいに」
〈主な情報〉
・AとBは恋人かそれに近い関係、BがAをリードしている
・二人とも学生、AはBより一学年上
・Aは勉強が苦手で留年しそう、でもBのごほうびがあれば頑張れるだけの学力はある
会話文でも同様のやり方が通用します。ダラダラと行数を費やすことなく、少ないやり取りでキャラの性格や関係性を示すことができます。
手慣れた作家様の文章を見ると、これらのことがごく自然に行われているのが分かるはずです。勿論、真野の
以上を意識したうえで、あえて書き足す自由も作者には
結果的に文字数が盛り返したとしても内容はスカスカにはならず、中身の充実したお話になるはずです。字数削減はあくまで表面上の問題であって、小説としては情報の凝縮こそが本質なのですから。
なお、本稿はエンタメ系ライトノベルにおける方法論であり、文芸や純文学はこの限りではありません。
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