[総ルビ]異世界転生スラム街からの成り上がり ～採取や猟をしてご飯食べてスローライフするんだ～(web版)

５７．平原のキノコ探索

■５７．平原（へいげん）のキノコ探索（たんさく）

　午後（ごご）は予定（よてい）の通（とお）り、四（よ）人（にん）で切（き）り株（かぶ）の平原（へいげん）探索（たんさく）をしよう。

　特（とく）に狙（ねら）いはキノコだ。

　指導（しどう）は目（め）が笑（わら）っていないラニアだ。

　装備（そうび）は念（ねん）には念（ねん）のため剣（けん）も杖（つえ）も持（も）ってきている。

　万（まん）が一（いち）、ゴブリンやウルフが群（む）れで出（で）てきたら困（こま）る。

　ないとは思（おも）うが塀（へい）の外（そと）である以上（いじょう）、絶対（ぜったい）はない。

「シエルちゃん、切（き）り株（かぶ）や地面（じめん）にキノコが生（は）えていることがあるの」

「うん」

「サルノコシカケって知（し）ってる？」

「わかるみゃう」

「そう、そのサルノコシカケ以外（いがい）のキノコを探（さが）してほしいのです。あったらエド君（くん）にいえば種類（しゅるい）を教（おし）えてくれるから」

「エド君（くん）は詳（くわ）しいみゃう？」

　おっと視線（しせん）がこっちを向（む）いている。

「えっ、ああ。母（かあ）ちゃんに昔（むかし）少（すこ）し仕込（しこ）まれたから、これくらいなら」

「ふぅん」

　ちょっとあまり信用（しんよう）していない視線（しせん）を向（む）けてくるシエルちゃん。

　最初（さいしょ）のラニアも何（なに）だろうって顔（かお）してたな。

「シエルちゃんはキノコ詳（くわ）しいの？」

「ううん。知（し）ってるキノコはあるけど、判定（はんてい）までは無理（むり）で。似（に）てるキノコがあるって知（し）ってるからみゃう」

「だいぶ詳（くわ）しいみたいだね。こりゃ頼（たよ）りにしてる」

「そんな、ちょっと詳（くわ）しいだけ、みゃう」

　シエルちゃんは褒（ほ）められると顔（かお）を赤（あか）くしてブンブンと振（ふ）った。

　こういうのもかわいい。

　食（た）べられるキノコを知（し）ってるのは素人（しろうと）でもそうだ。

　問題（もんだい）は似（に）た毒（どく）キノコがあることも知（し）ってるってことだ。

　そうなると逆（ぎゃく）に慎重（しんちょう）になる。

　素人（しろうと）のほうが食（た）べられるって言（い）って食（た）べてしまうのだ。

　だから怖（こわ）い。

　詳（くわ）しいじゃなくて鑑定（かんてい）だからこれはチートと呼（よ）んで差（さ）し支（つか）えないだろう。

『ラファリエール様（さま）、転生（てんせい）神（しん）さま、鑑定（かんてい）とアイテムボックス、ありがとうございます。それから仲間（なかま）も』

　俺（おれ）は一人（ひとり）ではない。

　みんながいて、それで成（な）り立（た）っている。

　前世（ぜんせ）では寂（さび）しいやつだったが今（いま）はこうして女（おんな）の子（こ）に囲（かこ）まれている。

　また増（ふ）えてしまった、いや増（ふ）やしてしまったけど。

「キノコ見（み）つけた！　でもこれ、紫色（むらさきいろ）で」

　そう報告（ほうこく）に来（き）たのは、シエルちゃんだった。

　急（いそ）いでシエルちゃんの所（ところ）へ向（む）かう。

　この辺（へん）は平（たい）らで木（き）が低（ひく）いので相手（あいて）がほぼ見（み）える。助（たす）かる。

「知（し）らないキノコ？」

「見（み）たことはあるけど、こんな色（いろ）でたぶん食（た）べられないみゃうね？」

「これすごく美味（おい）しいんだ。めちゃくちゃ美味（おい）しい」

「うっそっ」

「嘘（うそ）ついてどうするよ。自分（じぶん）まで死（し）んじゃうだろ」

「そうみゃう。ってことは、これ美味（おい）しいんだ」

　ごくりと喉（のど）を鳴（な）らす。

　わかるよ。

　とりあえず、これは必須（ひっす）だ鑑定（かんてい）。

【ムラサキメルリアタケ　キノコ　食用（しょくよう）可（か）(美味（びみ）)】

　本物（ほんもの）だ。

「さて、ミーニャ、ラニア！　ムラサキキノコ、本物（ほんもの）」

　大（おお）きい声（こえ）で呼（よ）び出（だ）す。

「えー、ほんとー？」

「今（いま）、今（いま）、行（い）きます」

　二人（ふたり）も飛（と）んでくる。

　正確（せいかく）には走（はし）ってくる。もちろん空（そら）を飛（と）んできたりはしない。

「わぁ、すごい、久（ひさ）しぶり」

「これ、金貨（きんか）、ですよね。何枚（なんまい）くらいですかね」

「さぁ、俺（おれ）も知（し）らない」

「えっ、金貨（きんか）みゃ？」

　どこかで見（み）たような光景（こうけい）だが。再現（さいげん）だ。

　シエルちゃんはキノコと金貨（きんか）のイメージが結（むす）びつかないらしい。

「これ、知（し）ってる人（ひと）なら金貨（きんか）で買（か）い取（と）ってくれそうなんだ」

「そうなんだ。知（し）らなかったみゃう！　知（し）ってたら村（むら）の周（まわ）りの草原（そうげん）でだって！」

「村（むら）の周（まわ）り？」

「うん。何回（なんかい）も、何回（なんかい）も、見（み）たことあるみゃう……」

　急（きゅう）にしょんぼりしてしまう。

　もう泣（な）きそうだ。

「これ……こんなキノコが売（う）れるわけないみゃう。売（う）れるなら私（わたし）だって売（う）られないよ」

「えっ」

「「んっ」」

　一瞬（いっしゅん）口走（くちばし）っただけだけど、なんとなく想像（そうぞう）する。

　キノコではなく、私（わたし）だって売（う）られないって。

　人身売買（じんしんばいばい）は基本（きほん）違法（いほう）だが、奴隷（どれい）として売買（ばいばい）する分（ぶん）には合法（ごうほう）なのだ。

　つまり彼女（かのじょ）は親（おや）に奴隷（どれい）として売（う）られてしまったのか、されそうになって逃（に）げてきたということなのかな。

「あっ、ちが、ちがくて、その……」

　さすがにシエルちゃんが言（い）いよどんで、口（くち）をパクパクさせる。

　俺（おれ）たちは状況（じょうきょう）を理解（りかい）して黙（だま）って見守（みまも）った。

「――私（わたし）、脱走（だっそう）奴隷（どれい）なんかじゃ」

「いや、別（べつ）に気（き）にしてないから。俺（おれ）たちには関係（かんけい）のないことだ。突（つ）き出（だ）したりしないし」

「そっ、そっか。ごめん、ありがとう」

「それに首輪（くびわ）がないから逃走（とうそう）奴隷（どれい）ではないよ、まさか引（ひ）きちぎったりしてないよね」

「そんな馬鹿力（ばかぢから）、あるわけないみゃう」

「だよね」

「信（しん）じてくれるみゃう」

「当（あ）たり前（まえ）だろ。こんな小（ちい）さい子（こ）が『獣人（じゅうじん）だから怪力（かいりき）で首輪（くびわ）をちぎったんだ』とか、ホラを吹（ふ）くならもっとましなホラを」

「それが、それ、信（しん）じてる人（ひと）がいて……酷（ひど）い目（め）に遭（あ）ったみゃう」

「そうか、なんだか、ごめん」

「ううん。エド君（くん）だちは優（やさ）しくしてくれたから……好（す）きみゃうよ」

「お、おう」

　半泣（はんな）き、半笑（はんわら）いだ。

　なんだか少（すこ）しだけ気（き）を許（ゆる）してくれた気（き）がしてうれしくなってくる。

　奴隷（どれい）はそういう身分（みぶん）なので逃走（とうそう）すればそれなりに問題（もんだい）になる。

　脱走兵（だっそうへい）が銃殺刑（じゅうさつけい）なように、逃走（とうそう）奴隷（どれい）は重罪（じゅうざい）だ。

　ただし正式（せいしき）な奴隷（どれい）なら首輪（くびわ）をしているはずだ。

　少（すこ）しその辺（へん）の事情（じじょう）は気（き）になる。

　可能性（かのうせい）としては、奴隷（どれい）化（か）前（まえ）だった。よくあるやつだ。

　直前（ちょくぜん）で気（き）が付（つ）いて、必死（ひっし）に逃（に）げてきたパターン。

　奴隷（どれい）化（か）前（まえ）であればセーフである。一応（いちおう）、法律（ほうりつ）上（じょう）は。

　金銭（きんせん）の売買（ばいばい）は奴隷（どれい）化（か）と等価（とうか）交換（こうかん）が多（おお）いので、お金（かね）は渡（わた）されていない。

　両親（りょうしん）は貧乏（びんぼう）生活（せいかつ）が続（つづ）くかもしれない。

　もう一（ひと）つは、あまり考（かんが）えたくはないが違法（いほう）奴隷（どれい）の類（るい）。

　可能性（かのうせい）は低（ひく）そうだけど、たまにある。

　正式（せいしき）な奴隷（どれい）商（しょう）には免許（めんきょ）があり、それを受（う）けていない違法（いほう）奴隷（どれい）商（しょう）が存在（そんざい）する。

　決（けっ）して関（かか）わり合（あ）いになりたくない種類（しゅるい）の人間（にんげん）であるのは間違（まちが）いない。

　そして奴隷（どれい）狩（が）りはこっちのパターンだ。

　逃走（とうそう）した違法（いほう）奴隷（どれい）は当（あ）たり前（まえ）だけど罪（つみ）にはならない。

　保護（ほご）されるはずなのだけど、世（よ）の中（なか）が性善（せいぜん）説（せつ）で回（まわ）っていればの話（はなし）だ。

　怖（こわ）い世界（せかい）はある。

「さ、キノコ。残念（ざんねん）だけどムラサキキノコは冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドに出（だ）すって決（き）めてたんだ」

「そうなんだ、残念（ざんねん）みゃう」

　シエルちゃんはまだ半笑（はんわら）いだ。とぼけたように残念（ざんねん）と口（くち）にする。

　きっと、いや、かなり、いい子（こ）なのだろう。

　親思（おやおも）いで、もしかしたら下（した）の子（こ）や兄弟（きょうだい）が間違（まちが）いなくいるんだろう。

「ご飯（はん）用（よう）に他（ほか）のキノコも探（さが）そう。次（つぎ）のムラサキキノコは食事（しょくじ）用（よう）にしてもいいし」

「そうだね。次（つぎ）のムラサキは食事（しょくじ）用（よう）。言質（げんち）とった。にゃ！」

　キノコ探（さが）しが一斉（いっせい）に再開（さいかい）される。

　戦果（せんか）は上々（じょうじょう）だった。

　エルダタケが4株（かぶ）見（み）つかった。

　そして、ムラサキキノコも1株（かぶ）、追加（ついか）で見（み）つかった。

　毒（どく）キノコのドクエルダタケモドキも2株（かぶ）発見（はっけん）した。

　鑑定（かんてい）がないとエルダタケを食（た）べるのは怖（こわ）い。

　ミーニャはもうヨダレが垂（た）れそうになっている。

「では、冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドに向（む）かいます」

「「「おぉ！」」」

　みんなでこぶしを振（ふ）り上（あ）げて、キノコパレードをして冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドに向（む）かう。