[総ルビ]異世界転生スラム街からの成り上がり ～採取や猟をしてご飯食べてスローライフするんだ～(web版)

５３．トマト料理

■５３．トマト料理（りょうり）

　お昼（ひる）を過（す）ぎて、午後（ごご）もいろいろしていると夕方（ゆうがた）になる。

　待（ま）ちに待（ま）った夕（ゆう）ご飯（はん）の準備（じゅんび）としよう。

　今日（きょう）のお昼過（ひるす）ぎから、トマトをつぶして鍋（なべ）にぶち込（こ）んだ。

　そこに塩（しお）、すりつぶしたタマネギなどを投入（とうにゅう）して、かなり煮（に）た。

　もうおわかりだろう。

　――トマトケチャップ。

　地球（ちきゅう）の偉大（いだい）な発明（はつめい）の一（ひと）つだ。

　そして我々（われわれ）はすでにエッグバードの卵（たまご）の節約（せつやく）により、鶏卵（けいらん）もどきを手（て）に入（はい）れている。

　いくつかはミーニャの「かきたまにしたいよぉ」という請願（せいがん）のもと、スープに何回（なんかい）か入（い）れてしまった。

　それでも卵（たまご）はまだ残（のこ）っている。

　塩（しお）とオリーブオイルと卵（たまご）を溶（と）いたものを使（つか）って、フライパンで焼（や）いたそれは、プレーンオムレツだ。

　オムライスは米（こめ）がないので当分（とうぶん）出番（でばん）はない。

「黄色（きいろ）いの塊（かたまり）になった！」

「ああ、これがオムレツ」

「オムレツ！」

　人数（にんずう）分（ぶん）オムレツにする。

　かきたま妖精（ようせい）となったミーニャを何回（なんかい）か断（ことわ）って、卵（たまご）を温存（おんぞん）してきた甲斐（かい）があるものだ。

　そして先（さき）ほど作（つく）ったトマトケチャップ。

　実（じつ）を言（い）えばトマトソースにしか見（み）えない、んだけど素人（しろうと）作成（さくせい）なので。

　今（いま）はこのトマトソースをオムレツに掛（か）ける。

「すごい！　黄色（きいろ）に赤（あか）で美味（おい）しそう！」

「素敵（すてき）ですね」

　まだ残（のこ）っているラニアも感心（かんしん）してくれる。

　さてこうしてオムレツは完成（かんせい）した。

　でもこれだけではない。

　味（あじ）は多少（たしょう）似（に）てしまうかもしれない。

　でも食（た）べたかった。

　夕方（ゆうがた）、トマトソースを煮（に）ている間（あいだ）に、ちまちまと作業（さぎょう）をした。

　小麦粉（こむぎこ）を贅沢（ぜいたく）に使（つか）い水（みず）で練（ね）ったものを、小（ちい）さく3センチぐらいずつにちぎって簡単（かんたん）に丸（まる）める。

　パスタマシーンなどという文明（ぶんめい）の利器（りき）はないので、家庭（かてい）の味（あじ）、マカロニで代用（だいよう）しようと思（おも）った。

　マカロニにはシェル型（がた）や筒状（つつじょう）のものなどがある。

　これは筒状（つつじょう）の穴（あな）のないような形（かたち）のものだ。

　えっと一番（いちばん）近（ちか）いのはニョッキかな。

　トマトケチャップにイノシシ肉（にく）を小（ちい）さく切（き）ったもの、あと干（ほ）し肉（にく）も入（い）れて、さらにタマネギとキクラゲを追加（ついか）して、こちらは本当（ほんとう）にトマトソースにする。

　食事（しょくじ）前（まえ）の時間（じかん）になったら、マカロニもどきを茹（ゆ）でる。

　茹（ゆ）でたマカロニにトマトソースを掛（か）けて完成（かんせい）。

　トマトケチャップのプレーンオムレツ。

　マカロニのイノシシ肉（にく）のトマトソース掛（が）け。

　以上（いじょう）、なんちゃってイタリアンが完成（かんせい）した。

「エド君（くん）。今日（きょう）はまた、ずいぶんと凝（こ）っているね」

「そうね。私（わたし）もなんだかうれしくなっちゃうわ」

　メルンさんとギードさんもその鮮（あざ）やかな見（み）た目（め）に舌（した）を巻（ま）く。

「食（た）べていい？　食（た）べていいよね？」

　腹（はら）ペコエルフのミーニャちゃんが耳（みみ）をぴくぴくさせながらお腹（なか）をさすっている。かわいい。

「ああ、完成（かんせい）だ。熱（あつ）いうちに召（め）し上（あ）がれ」

「ラファリエール様（さま）に感謝（かんしゃ）して、いただきます」

「「いただきまーす」」

　スプーンとフォークを両（りょう）手掴（てづか）みして、ぎこちないながら口（くち）に運（はこ）ぶ。

「んんっ、おいしいぃいい」

「はい。美味（おい）しいです」

　うむ。トマトって日本（にほん）にいるとあんまり気（き）にしないかもしれないけど「旨味（うまみ）」が出（で）る。

　トマトラーメンとかもあるくらいだし。

　ある種（しゅ）の出汁（だし）みたいな濃厚（のうこう）な味（あじ）は、美味（おい）しい。

　豆（まめ）の味（あじ）しか知（し）らない民（たみ）に、このトマトの旨味（うまみ）はかなり凶暴（きょうぼう）だ。

「うまい、うまい。エド君（くん）、おいしいよ」

「おいしい」

　メルンさんとギードさんも満足（まんぞく）、満足（まんぞく）。

　こうしてトマト料理（りょうり）はうちの味（あじ）の一（ひと）つの仲間入（なかまい）りをして、また一（ひと）つ食材（しょくざい）が豊（ゆた）かになった。

　トマトは森（もり）よりはよく太陽（たいよう）が当（あ）たる乾燥（かんそう）した土地（とち）が適（てき）しているらしい。

　よく思（おも）い出（だ）してみれば、トマトが生（は）えていたあたりはたまたま高（たか）い木（き）が少（すく）なく、低木（ていぼく）もまばらだったから、よく陽（ひ）が差（さ）したのだろう。

　なるほど、よく自分（じぶん）に合（あ）った土地（とち）を見（み）つけるものだ。

　トマトの種（たね）を切（き）り株（かぶ）の平原（へいげん）に植（う）えまくったら、大量（たいりょう）に繁殖（はんしょく）して大儲（おおもう）けできそう。

　さて、どうしようか。

　実際（じっさい）にやるとなると種（たね）がないな、うん。

　今日（きょう）の分（ぶん）は種（たね）の部分（ぶぶん）は前世（ぜんせ）の雰囲気（ふんいき）で捨（す）ててゴミ壺（つぼ）行（い）きにしてしまった。

　ちなみにこの有機物（ゆうきぶつ）しかないゴミ壺（つぼ）は定期的（ていきてき）にスライムトイレに投（な）げ入（い）れられて捨（す）てられる。

　プラスチックゴミとかがない中世（ちゅうせい）風（ふう）世界（せかい）だからできる芸当（げいとう）ともいう。

　そのぶん透明（とうめい）な袋（ふくろ）とかなくて不便（ふべん）だけど、まあなにごとも慣（な）れてくる。

　ミーニャとラニアの一張羅（いっちょうら）のワンピースにトマトケチャップが飛（と）び散（ち）っていないか、注意深（ちゅういぶか）く観察（かんさつ）する。

「うん、トマトは飛（と）んでないみたい。これからも気（き）をつけてね」

「あ、え、うん。わかった」

　さてラニアを送（おく）っていこう。

「そういえばラニアさ、トマト持（も）ってく？」

「あ、いいの？」

「うん」

　トマトはたまにちらっと見（み）る市場（いちば）でも流通（りゅうつう）量（りょう）が少（すく）ないと思（おも）う。

　というかあまり街（まち）の市場（いちば）を見（み）ないので確信（かくしん）はないけど、高級（こうきゅう）野菜（やさい）だと思（おも）う。

　トマトを籠（かご）に入（い）れてラニアに持（も）たせる。

　ちょっとバッグに突（つ）っ込（こ）むとつぶれないか心配（しんぱい）だ。

　大丈夫（だいじょうぶ）だとは思（おも）っても、油断（ゆだん）は禁物（きんもつ）だ。

　ケチャップも量（りょう）を少（すこ）し多（おお）めに作（つく）ったので残（のこ）りをビン詰（づ）めにして渡（わた）した。

「お邪魔（じゃま）しました」

　ラニアをおうちまで送（おく）る。

　トマト籠（かご）と杖（つえ）をなんとか片手（かたて）に持（も）って、反対（はんたい）側（がわ）の手（て）で俺（おれ）の手（て）をつかんでくる。

　そうすると俺（おれ）の反対（はんたい）側（がわ）はもちろんミーニャが手（て）を握（にぎ）ってくる。

　普段（ふだん）はそれほど手（て）をつないだりしないのに、こういうときは別（べつ）だ。

「ふふふ、今日（きょう）はトマト貰（もら）っちゃいました」

「ああ、でもどうやって料理（りょうり）したらいいか、わからんかもしれないね」

「そうですね。薄切（うすぎ）りにして塩（しお）とオリーブオイルのドレッシングで食（た）べても美味（おい）しいんですよね？」

「うん。タマネギスライスなんかも一緒（いっしょ）にしてもいい」

「わかったわ」

　トマトのサラダも悪（わる）くない。

　プチトマトなら生（なま）のまま、丸（まる）で食（た）べてもいいし。

　これは少（すこ）しそれより大（おお）きいけど。

　森（もり）の中（なか）で育（そだ）った割（わり）には、イメージと違（ちが）ってちゃんと赤（あか）い。

　立派（りっぱ）なトマトだ。

　ナメクジとかにやられていなくてよかった。

　というかナメクジいるのかな。

　よくわからないが、この世界（せかい）では害虫（がいちゅう）などと言（い）われる虫（むし）が全体的（ぜんたいてき）に少（すく）ない。

　地球（ちきゅう）だとカラスノエンドウにもアブラムシがよくつくが、この世界（せかい）で同様（どうよう）の状態（じょうたい）を見（み）たことがない。

　ああいうのは一部（いちぶ）、結構（けっこう）見（み）るのもダメという人（ひと）がいるので、ありがたい。