蟲毒の箱庭
上面
壱
白い地面に赤い花がいくつか咲いている。俺が歩く度に、白い地面に赤い花が咲いていく。
樺太島は三月を迎えても未だ氷点下だった。夜の暗闇の中に街灯がぼんやりと光っている。
肺に穴が開いたのか、呼吸が苦しい。滑り止めのある靴を履いてき、防寒具は着込んでいるが、それでも寒い。血を流しすぎたか。
空港からタクシーを拾うまでは良かったが、ホテルの前に着くと良くなかった。
無愛想なホテルだった。だいぶ昔から建っている建物のようで、陰鬱な雰囲気を感じる。そのホテルの入り口付近に、俺の首を狙う刺客が学校の一クラスほどの数で待っていた。
なかなかやる連中だったので、良い攻撃をいくつか受けてしまった。
それよりもチェックインしなければ。俺は約束の時間を守る男。約束時間守りマン。頭が回らないが、しょうもないことを考えている。
視界が傾き、地面が目の前にあった。
夢を見ている。風景が雪景色から緑豊かな草原に変わっているため、ここが現在ではないことが分かる。いずれの帝、将軍の御治世であったのかはすぐには思い出せない。
時刻は夜のように思う。月と星が明るい夜だ。
俺は弓を持ち、矢を番えている。狙うのは一人。
上等な着物を着た女。貴族の姫君のような黒く艶やかな髪が長い。
眼差しの鋭きに俺はたじろぐ。目と目があった。
星明かりの草原の上、俺と女の射線上には何もありはしない。
俺は矢を射なければならない。
目を覚ますと知らない天井があった。
病院ではないように思う。
「おはよう。気分はどうじゃ?」
パンツルックの服装に身を包んだホテルの従業員と思しき女が、ベッド横の椅子に座っていた。初めて会ったはずだが、初めて会った気がしなかった。
何処かで見たような長い黒髪をポニーテールで纏めクソデカい紫色のリボンを付けている、何処かで見たような
だが、恐らくこの女は表情を変えずに平然と人を殺すだろう。
「語尾がのじゃの女、まさか実在したのか」
俺はこれまでの長くも無い人生で、のじゃが語尾に付く女と出会ったことは無かった。ちなみにツチノコやチュパカブラや河童は見た。
「大谷翔平や
大谷翔平は誰でも知っている。帝国の至宝と呼ばれた名誉を捨て、
「大谷翔平とのじゃの女は同列に比較されるものなのか?あと
かなり話が脱線し、
俺がホテルの前で倒れていたので、治療後ホテルの客室に放り込んだらしい。
「身分証を勝手に見た。申し訳ない。死にかけから助けたのでちゃらにしてくれぬか」
「ああ」
「返事は『はい』か『いいえ』、はっきりせんか!!」
「はい!」
返事をはっきりしろと怒鳴られ、反射的に大声で答えてしまう。
「
薄暗がりばかりの俺の人生は、このときをずっと待っていたようにも思った。
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