第39話 四季結界補修の日(2)
「はい! 質問があります!」
挙手して声を上げたのは
いや、まあ、ともかくあの股ゆる女がなにを言い出すのか、見守るしかないか。
俺と同じ学校の令嬢たちは、俺と同じくヒヤヒヤした表情。
つーか、あの女なんで参加してんの?
しかも俺が小百合さんに派手な服装は控えてほしいって伝えてもらったはずなのに、ド派手なピンクの生地に赤い鯉柄の着物着てきちゃってさぁ。
まあ、普通にはぶられてるから、聞いてなかったんだろうけど。
小百合さんと顔を見合わせるが、さすがの小百合さんもあの女がなんで参加しているのかはわからない模様。
まあね。四季結界補修に参加する人間はなんぼおっても困らんって言われてたからね。
股ゆる女であってもいないよりは霊力の足しになるからいいんじゃないって感じだけどね?
「
嘘だろあの女。
ご令嬢たちのドン引きした表情、ガチ嫌悪の表情の中、きゅるるん顔でなんてことを聞いてんの。
っていうか、
お前の家柄で釣り合うわきゃねぇだろおおおお!
俺の場合は霊力が多いからっていう特殊な理由があって初めてお会いできたんだぞ!?
こいつどんだけやべーんだよ!?
身の程って単語、辞書から抜け落ちてない!?
「うちの長男? 滉雅のことどすか?」
「はい! はい! そうです!」
「今日はお屋敷の周辺の警備やってはりますから、皆さんとお会いすることはありまへん。せっかくおめかししてはったみたいやけど、無駄やね」
ほほほ、と上品に笑う美澄様に、白窪は苦虫を噛み潰した顔を向ける。
ふ、不敬不敬。
「なんでですかぁ!? もしかして、わたしが可愛いから、嫉妬してるんですかぁ!?」
マジでこいつなに言ってるのぉ……?
俺以外の人間も、みんな宇宙猫みたいに目を見開いて「こいつなに言ってる?」って顔になってるよ。
人の男を奪う横取り女って、マジで「わたしが可愛いからわたしに不都合なことを言う相手は全員わたしに嫉妬してる」って思ってんだぁ?
そんなこと前世の漫画の中だけだと思ってたぁ。
あまりの現実に無意識に体がガクガク震え始めてしまう。
漫画ってバカにできないんだなぁ……っていうか、漫画の中の登場人物の思考ってちゃんと現実を基に描かれてたのかよ……。
知りたくなかった。
女に生まれ変わってから前世に抱いていた女のイメージと現実の差に何度も打ちのめされたけれど、横取り女の生態がここまでガチだったなんて……。
「嫉妬? うち、あんさんにやきもち妬くほど困ってへんよ。一緒に歳取ってこうなぁ、言うてくれる旦那はんもおるし、生活にも困ってへんし。そんなことより、結界補修についてなにか質問ある人、おる?」
さらりと股ゆる女を躱して、他のメンバーの顔を見渡す美澄様。
白窪はまだ「結菜が若いから嫉妬してる!」「無視しないでよ!」と叫んでいるが、この場所にはお前ご自慢の美貌で騙せる男はいないよー。
「ひどい……結菜の話、全然聞いてくれなぁい……うえええぇん……!」
ええぇえぇえ…………。
全員ドン引き。
泣き真似し始めたぞ、こいつ。
なにが怖いってちゃんと涙が出ているのが怖い。
でも絶対嘘泣きだろ。
怖……。
「ほな、特に質問もないみたいやし――」
「あ! も、申し訳ありません、美澄様。よろしいでしょうか?」
「はぁい? なんや質問?」
いかんいかん、白窪がヤバすぎて忘れるところだった。
俺が挙手して駆け寄ると、美澄様が優しく小首を傾げる。
「
「まあ! 舞はんが作って霊力を込めてくれはったの? これはありがたいわぁ。一応毒味だけさせてもらってから、この辺りを警護してくれてる討伐部隊の子らに渡させてもらうけどええ?」
「はい、もちろんです」
そりゃあ、討伐部隊の人たちは央族の中でもいいところの令息だもんなー。
毒味、どうぞどうぞ。
「そっちのお弁当は?」
「あ、これは自分用です。霊力を使うのなら、と思いまして」
「気合い十分やねぇ。頼り甲斐があるわぁ。ほな、他にあります? あらへん? 始めますで?」
三段重箱のおはぎ入りお弁当を包んだ風呂敷を、使用人に手渡す。
差し入れを見送ってから美澄様が泣きじゃくる白窪を完全スルーで補修作業を開始した。
さすがだ。
せっかくなので水晶をチラリと眺めておくと、水晶の真下に大きめな霊符が複数貼りつけてあった。
なるほど、あの霊符が水晶を入り口にして、注がれる霊力を集めて補修箇所に転送するのか。
くぅ〜〜〜! もう少しじっくり見てみてぇ〜〜〜!
これが終わったらじっくり見せてもらおう。
プロの作った霊符って見たことないから、興味めっちゃある。
「初夏の霊力よ、百の結界を再び強く、輝くように捧げましょう」
簡易な祝詞を水晶に唱え、ふう、と息と共に霊力を含ませて流し込むと霊符が起動する。
すげぇ、小さく見えてかなり大がかりな霊符だ。
霊術と併用することで、効果を相乗効果で倍以上に強化しているのか。
こんなこともできるんだな……! 勉強になる!
「汚い女」
「っ」
急に真後ろから声が聞こえて肩が跳ねる。
恐る恐る振り返ると、白窪が俺をじとりと睨み上げていた。
小柄で可愛らしい容姿なのに、俺を睨むその表情はマジで鬼女そのもの。
前世なら絶対に騙されていた。
これが横取り女の本性……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます