第36話 二度目のお食事会(1)


 まあ、俺家電芸人ばりに家電好きってわけじゃないから電子レンジが対象物の水分を振動により加熱するとかなんとか……そんくらいしか知らんから上手くいくかは微妙なんだけど……。

 それならそれで試行錯誤すりゃあいいからいいや、ってわけで――。

 まずはほうれん草を試しに仮想電子レンジで温めてみる……か。どれどれ……。


「上手くいきますように!」


 そんな祈りを込めながら、蓋を閉める。

 これが上手くいけばくりや革命が起こるぜ――!



 ◇◆◇◆◇



「滉雅さん! いらっしゃいませ!」

「……邪魔をする」

「どうぞどうぞ!」


 週末、滉雅さんがやって来た。

 いつも親父と二人きりで静かな結城坂家が、九条ノ護くじょうのご家から使用人さんがやって来て、珍しく賑やかになる日。

 滉雅さんの声がして、嬉しくなってついついダッシュで玄関まで行っちゃった。

 あとで怒られそうだけど、玄関扉を開けて迎え入れると一瞬驚いた顔をしてから目を細めてわかりづらく微笑まれる。


「こんにちは」

「エッ!? …………えっと、こ、こんにちは……」


 てっきり滉雅さんお一人だと思ったら、後ろからもう一人の声。

 聞いたことのある声に目が丸くなる。

 滉雅さんが体を傾けて後ろに立つ人を見せてくれたが、この人はアレだ。


「副隊長様」


 滉雅さんの後ろにいたのは、鈴流木紅雨すずるぎこううさん。

 滉雅さんの部隊の副隊長で、この国の守護者ともいうべき伝統的な最強の武家、鈴流木の剣士。

 爽やかなイケメンだけど、確か滉雅さんの部下、だよな?

 ええ? 連絡なかったですけど。


「はい。お久しぶりです。なにも言わずについて来てしまい、申し訳ありません」

「いえいえ……。ええと、ご一緒に……?」

「さすがにご連絡もなくついて来てしまったので、どうかお構いなく。すぐに帰りますから」


 一緒に来た、ということは食事会に一席増やすべき?

 いや、お構いなくと言われても、それは普通に無理でしょうよ。

 振り返るとすぐに九条ノ護くじょうのご家のお手伝いさんが厨房と茶の間にそれぞれ移動して行ってくれた。

 ともかく、二人を茶の間へと案内する。

 連絡もなく来るなんて、どういうつもりなのだろう?

 茶の間に通すとすぐに親父が自室から対応に出て来た。

 連絡もなく来た鈴流木副隊長に目を丸くしたが、頭を下げて「来週の四季結界補修の件で、いくつかお話をしたく同行いたした次第です。それが終われば職務に戻りますので」とだけ言う。

 滉雅さんの方を見ると、こくりと頷かれた。

 そういうことなら、と親父の隣に座る。


「ではまず自分の方から四季結界補修についていくつか注意点をお伝えいたします。まず、今回舞様に来ていただくのは外地第五十番の結界の下に集合いただきます。基本的にお迎えはなく、現地集合とのこと。大丈夫でしょうか?」

「第五十番の結界の下、ですね。その、どうやっていけばよいのでしょうか?」

「央都の三番駅から当日専用の乗合馬車が出ておりますので、それをご利用ください。そこまでの道は送迎馬車を依頼していただくのが安全かと。馬車の費用は経費申請していただければお支払いしますので」


 え、マジで!? そうなんだ! じゃあ馬車呼ぼう!


「当日の持ち物は特にございません。手ぶらで来ていただいて問題ございません。ただ、時折過度に着飾って来る方がおられるのでそういうのは控えていただけますと……。その、今回は舞様の通われている学校からも女生徒が参加すると聞き及んでおりまして」

「あ、ああ、はい。婚約破棄されたご令嬢が多いので……その……」


 禍妖かよう討伐部隊の軍人さんとのご縁があれば、という話を小百合さんとしていた記憶も新しく……。

 だが、ご令嬢の話をしたら鈴流木さんがわかりやすく眉尻を下げられた。

 もうそれだけで、察した。

 ああ、それが余計なことってことかぁ。

 まあ、命懸けで護衛してくれる討伐部隊の軍人さんに対して色目を使う女学生がわんさか来るのは……そりゃあ気が散るよなぁ。

 そうか。

 仕事の邪魔になりそうだから、事前に俺に会ってクラスメイトに釘だけ刺してほしいってことか。

 それはそう。


「ですが、着飾って向かうのは遠慮していただくようにお話しいたします。私含め初めて参加する方が多く、わからないことばかりでしたので。他に気をつけることなどございますか?」

「ありがとうございます。そうですね、そのー……確かに未婚の隊員も少なくはありませんので、一条ノ護いちじょうのごご当主様が後日無事の結界補修を祝い、礼も兼ねて交流会を企画してくださるそうなので、その時ご存分に着飾って来ていただければと……」

「わかりました。ではその時にお気に入りを取っておくよう、皆さんにお伝えいたします」

「ええ、ぜひ」


 それは確かにちゃんと伝えに来ないとだなぁ。

 そっかぁ、よかったよかった。

 お見合いパーティーみたいなのを、後日にやってくれるんだな。

 胸を撫で下ろすと「その時にお二人の婚約を正式に公表されるのだと思います」とつけ加えられてゲフって変な咳が出た。

 出席しないとダメなのかぁ、俺も〜。


「その後にでも、自分の方から婚約のお祝いを贈らせていただきますね」

「お前がそんなことをする必要は――」

「いやいや、一応親戚なのだから。まして、長い間まともに婚約者もできなかった滉雅にようやく決まった婚約者殿なのだから。先程わざわざお出迎えに来てくれた舞様の姿は、まさに新妻」

「おい」

「あ……あははは……っ」


 に、新妻……。

 やば、なんか新妻という単語にめちゃくちゃ照れる。


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