第35話 小百合さんと友達になろう!(2)
「……っ!? それって、結界補修に行くのは、私たちだけではないということですか?」
「ええ。実際霊力はいくらあっても困りませんもの。
「それは……」
確かに……。
クソくだらねぇ理由で婚約破棄をされた健気なお嬢さんたちを見ているから、あの子たちの婚期が遅れるのは俺も可哀想だと思う。
俺みたいに“次”がこんなにすぐに見つかったのはマジで奇跡だ。
普通の家の令嬢は基本的に家格の釣り合う家同士で婚姻関係を結ぶ。
嫁に行かない娘たちに結界補修を手伝わせるという実績を作らせれば、多少家格がずれていても貰い手が現れるかも知れない。
できれば、相手の年齢は近ければ近いほどいいし。
「そういう場であなたを吊し上げよう、という魂胆かも知れませんわ。一人だけ抜け駆けして、素敵な新しい婚約者を得たあなたを妬むような不義理な方は、わたくしたちの学校にはいないと思いますけれど……」
「そ、そうですよね」
いや、いるんかい! そういう女!
霊符を配ってはいるけど、婚約破棄された令嬢全員が『自動防御』の霊符を貰いにきているわけではない。
頭お花畑化していても、元鞘に戻ろうってバカ男ばかりではないんだな、と安心していたが……そっちの可能性もあるのかぁー!
め、めんどうくせええええ!
「それに、婚約破棄された令嬢たちからすると
「討伐部隊の……軍人の方がいらっしゃるのですか?」
「ええ、もちろん。結界の補修中に
「百鬼夜行……っていうと……数十年に一度起こる
「ええ、そうですわ。周期的にそろそろだと、うちの親も言っておりました。だから余計に、念には念を、と」
なるほど、そりゃあ念には念を入れていただかねぇと困るわな。
そういえば滉雅さんの部隊におにぎりの差し入れをした理由も、伊藤さんが「大きいのが出た」から。
滉雅さん、俺のご飯食べに来たいっていうくらいには大変そうだし。
今週の食事会は明後日。
「じゃあ、明後日ご飯を食べに来るそうなので気合いを入れて作らなければいけませんわね!」
「まあ、お食事会?」
「はい。霊力の補充というか?」
「そうなのですね。妻となる者の勤めですから、励んでくださいませ。では、わたくしはそろそろ迎えが来ますから失礼いたしますわ。結界補修の日はよろしくお願いしますわね」
「はい。色々お気遣いいただき、ありがとうございます!」
婚約者が
家格で態度を変えてくるっていうのは……まあ、そういう人間はいなくもない。
央族の中ではむしろ一般的。
だから
あくまでも外地は平等で、不平不満はないような形にしつつ、内地は競わせ、序列を作って統率を取るという。
でも、外地の五家は分家やその分家の“その他大勢”に対しては“格下”として見下す。
俺はそういうの、できそうにない。
だって性別ですらそういうのがあるんだ。
俺くらいはそういうのやらない人間が一人くらいいたっていいよな?
「よし! そんなことより、材料を買い込んで下準備をやろう! 明後日に滉雅さんが来るけど……お米とか野菜とか味噌とかは今のうちに買い込んでおきたいしね。そうだ。それと――あれも試してみよう」
と、いうことで
そんな中でも鉄製の金庫を二つも購入したことに、下男下女不思議そうに首を傾げる。
しかもその二つを厨房に置いてくれ、と頼んだから余計に訳がわからないだろう。
下男下女には
結城坂家の狭い厨房の一画に二つの金庫。
そのうちの一つに霊符を貼りつける。
「これでしばらく放置して……もう一つの鉄製金庫にはこちら」
もう一枚の霊符を張る。
よし、完成!
上手く機能すればいいんだけど……。
「これが上手くいけば時代が変わるぜ。じゃ、早速お野菜をカットしていくとしようか」
野菜は今のうちに煮ちゃうと悪くなる。
なにしろもう来週には八月。
気温も上がり続けているから、夏は特に食中毒に気をつけなければならない。
そこで俺が買ってきた金庫の出番よ。
一応しっかりと掃除したあと、切った野菜を陶器の入れ物に入れて中にしまっていく。
この金庫に貼りつけた霊符の効果は『冷却』である。
そう! 俺が金庫を冷蔵庫に変えてみたのだ!
まあ、上手くいくかはまだわからない。
でも、上手くいけば家庭事情は爆発的に変わるぜ。
金庫にしたのは、自分ではどう頑張ってもこの大きさの鉄製の箱を手に入れることができそうになかったから。
そしてその上にある小さめの金庫は『電子レンジ』! ……に、なる予定のもの。
霊符には『加熱』の命令が入っており、一応内部だけ温かくする、とか色々書き足してあるから安全のはず。
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