第27話 デェト(3)


 と、いう感じで結局やり手の呉服屋さんにコロコロ手のひらの上で転がされ、俺は五着もお着物の反物を選ばされてしまった。

 滉雅さんも店主に反物を数枚買わされ、私服の袴を仕立てることになった模様。

 お互いドンマイ。

 採寸もされ、店主の娘さんに満面の笑顔で「ご婚約おめでとうございます!」と言われてしまい、変に笑いながら「ありがとうございます」と返すしかない。

 しかし、一応しっかりとカフェの場所は聞くことができた。


「ふんふん〜♪ カ・フェ♪ カ・フェ♪ オッムライス♪ オッムライス♪」


 呉服屋さんから三分ほど歩いた先にある、大きな赤い看板のお店が流行りの洋服メニューを出すお店……『カフェ ケェイク』。

 多分、ケーキって意味だ。

 いいねぇ〜なんか洋物かぶれっぽくて〜。

 なんかこう、前世の感覚がまだ抜けてなくて、一瞬左から読みそうになるけれど右から読むのが正解なんだよな、この時代……いや、この世界。

 カタカナで書いてあると余計にわかりづれぇなぁ。


『けぇ、いく? なんのことだ?』

「料理の名前でしょうかね?」


 ケーキっぽいニュアンスだけど、俺も確信は持てない。

 滉雅さんも首を傾げつつ、目的地ではあるから扉を開けて入店。

 メイド服の店員が「いらっしゃいませー、二名様ですか?」と声をかけてくる。

 へー、接客ってこの時代から変わっていないんだな。

 いや、滉雅さんが軍服だから声をかけてきたのかも?

 滉雅さん、高身長の強面系イケメンだしな。

 店内は女子学生――うちの学校では見ない顔が多いから、他校の女学生だろう――が多い。

 入店してきた軍服の高身長イケメンに視線が集中して、ちょっとビクッとした。

 天道国軍人って言えばそれだけで高給取り確実。

 男の平均身長が165センチ前後のこの国で、身長185以上の滉雅さんはまあ、そりゃあ超目立つ。

 今店の扉を潜ったのも見えちゃって、日時生活も大変そうだなぁ、とか思っちゃった。

 それにしても、流行っている、と言われていた割にお客さんは多いが空席もあるな?

 てっきり待ち時間とかあるものだと思っていたら……。


「こちらのお席をご利用ください。ご注文はこちらのお品書きからお選びください。ご注文がお決まりになりましたら、お声がけください」


 滉雅さんのイケメン顔と高身長にガチガチに固まったメイドさんが、声を震わせながらお品書き表を手渡してくる。

 いい和紙使ってんなぁ、と思いつつ、メニューを覗き込む。

 そして、値段を見て納得。

 しっかり高い。

 カフェとは思えない値段だが、央族の女学生なら払える、か。

 普通の平民は誕生日とか、特別な日にしかこれなさそうな値段だな。

 なるほど、これは来る人間を選ぶ値段だ。

 以前の倹約生活の俺なら一生来れない。


「あ、ありましたよ、オムライスっ!」

『俺はこぉひぃ、というものでいい』

「え、それだけでいいんですか?」

『霊力が込められていない食べ物を食べる必要性を感じないので、君は気にせずに頼めばいい』

「そう、ですか?」


 というか、そんなことすら『思考共有』で共有してくるとか、この人どんだけ喋るの苦手なんだよ。

 もはや喋るの面倒くさくなってない?

 いや、いいんだけど。

 多分喋ってたらもっと短く「コーヒーでいい」の一言になりそうだったし。

 活用してくれてるのなら、まあいいか。


「それじゃあ頼みますね。すみませーん!」

「はぁーい」

「その前に……このお店って量を減らせたりとかしますか?」

「え? いえ、そういうことは難しいですね」

「やっぱりそうですよね。わかりました。それじゃあオムライスとプリン、牛乳とコーヒーを一つずつお願いします」

「オムライスお一つ、プリンお一つ、牛乳お一つ、コーヒーお一つ。以上でよろしいですか?」

「はい」

「しばらくお待ちください」


 メモをしていく店員さん、メイドさんかわいい。

 はあー、それにしても惜しい。

 量が減らせたならもう一品くらい頼みたかったんだけど……。


『なにか他に食べたいものでもあったのか? 気にせずに注文していい』

「あ、いえ。実はパフェもあったので食べてみたかったのですが、絶対お腹いっぱいになってしまうと思いまして」

『残るようなら俺が食べるが?』

「え! 本当ですか!? じゃ、じゃあ……頼んじゃおうかな……!?」


 こくり、と滉雅さんが頷いてくれたので、わあー! っという気持ちになりつつもう一度店員さんを呼んでパフェを追加オーダー!

 うおおお、マジかー! アッチー!

 それにしても、お品書きを見るとビビり散らかすな。

 プリン、パフェ以外にも『サンデー』『プリンアラモード』『フルーツポンチ』『ビーフステーキ』『カツカレー』『サイダー』とか、前世にもあるメニューがたくさんある。

 もしかしたら前世の“大正時代”もこんな感じだったのかな〜。


「お品書きを見ているだけで楽しいですね! 滉雅様は食べてみたいメニューなどありますか? 上手く再現できるかわかりませんが、食べてみて作れそうなら作ってみたいです」

『再現ができるのか?』


 少しして先にプリンとパフェが運ばれてきた。

 スッゲー! 前世のプリンやパフェに比べても見た目は遜色ない!

 絶対美味しい、間違いない!


「可愛いですねっ! あの、あの、食べてもいいでしょうか?」


 こくり、と頷いてくれる滉雅さんに気持ちが先走りそうになりつつ、ちゃんと手を合わせて「いただきます」をして早速プリンにスプーンを突き刺す。

 ぱくり……もぐもぐ……。

 ん………………んんんんんん〜〜〜〜〜! プリン〜〜〜〜!

 前世に食べた手作りプリンの味、間違いなくー!

 なんで素晴らしい……プリンとは現代に通ずる変わらぬ味わいだったのか……!


「おいひぃいいいっ! すごいです、ぷるぷるのふわふわのツルツルです! 噛まなくてもとぅるんっと口の中でとろけてしまいました!」


 再びこくり、と滉雅さんが頷いて、そして優しげに目を細める。

 その様子に、プリンを食べた時とはまた違った喜びが胸に広がった。



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