第12話 一条ノ護滉雅との出会い(2)
「申し訳ない! 口下手なやつで!」
すぐに副隊長さんからフォローが入る。
あ、やっぱり極度の口下手か。
女相手にお喋りができないシャイな男もこの世には存在するしな。
まあ、前世の童貞丸出しな俺の同僚のことなんだけど!
俺が顔を見ていると目が合い、隊長さんが慌てて目を逸らす。
ほ、ほぉーーー! 本物じゃーーーん!
しかも今の俺、まだ十七の生娘に過ぎんぜ?
仕事人間すぎて女免疫ゼロって感じ?
か、可愛い人じゃーーーん!
なんか偉い人なのに好感度爆上がりしてきた。
「ほら。お礼を言うと言い出したのは自分だろう? 頑張れ」
「……わ、わかっている。……舞殿、この度は部下の命を救っていただき、ありがとうございました」
「っ……と、とんでもございません! お役に立てたのでしたら幸いに存じます!」
めっちゃ丁寧ー!
俺みたいな分家の末端も末端の家の小娘にわざわざ会いに来て、頭まで下げる。
……スカポンタンの対極に位置する人だな……。
「………………」
「…………?」
そのまま口をパク……とする。
なんだ? まだなにか言うことが……?
少し待つが、目を背けて口をキュッと結んでしまう。
え、なに……? 気になるんだが?
「滉雅」
「あ……。……質問が……」
「はい? え? 私にですか?」
聞き返すと、また口を少し開いてから閉じてしまう。
非常に慎重に言葉を選んでいるのだろう。
俺なんかにそこまで気を遣うことないのに、なにか言葉にして相手を傷つけてしまった経験でもあるのだろうか?
それなら――
「あの、一条ノ護隊長様はお忙しいとは思いますが、もしもお言葉にするのが苦手なようでしたらお手紙でも構いませんわ。本日もお忙しい時間を縫ってわざわざ来ていただいて、申し訳がないと思っておりましたし」
こういう口下手キャラは手紙の方が雄弁ってのが定番。
そう思っての提案だが、目を見開いて強くコクリと頷いた。
「ありがたい。後日質問をまとめてお送りさせていただく」
「はい。お待ちしております」
事務的な話は普通にできるってところも、いかにもって感じだな。
可愛いやつだな~、この人。
意外だが副隊長もなにか嬉しそうな表情。
やっぱ口下手さんは色々苦労しているんだろうな。
ま! 俺も前世は男だ! 男心はそれなりにわかるぜ! 任せな!
「そういうことでしたら本日はここで失礼いたします。急いては事を仕損じるとも申しますしね」
「……? はい……? そうですね……?」
なにを言っとる、副隊長?
首を傾げたいのを我慢しつつ生返事をする。
結局お二人はそのままお茶を一杯だけ飲んで帰って行った。
親父と二人、
「はあああ……緊張いたしました。本家の方がつき添ってくださればよかったのに……粗相していないか不安です」
「致し方あるまい。一条ノ護家の滉雅様は、非常に人を苦手とする方だそうだからな。実際にお会いしてみると、想像以上に口下手な方であったし」
「そうですね、お父様より喋るのが苦手そうでした」
と、言うとものすごく複雑そうな表情をされる。
そういう顔をするってことは、多少自覚があるんだろう。
仏頂面のまま「家に戻るぞ」と言われて後ろについていく。
「もしかしたら気に入られたかもしれんな」
「え?」
「まさかお前が
「そ、それは申し訳ありません……。自分ではよくわからなくて」
「そうだな。一言相談してほしかった」
「うっ」
しっかり意趣返ししてきやがって。
「しかし、霊力が多いことは結婚に有利だ。もう無理だと思っていたが、もしかしたらお前の霊力を目当てに良縁に恵まれるかもしれん。一度現在の霊力量を正確に測ってもらった方がいいかもしれんな」
「小学校の時に一度測ったきりでしたものね……」
「お前はそもそも生まれつき人よりも霊力量が多かった。だから有栖川宮家の要殿との婚約の時に話が来たのだ。しかし――内地の
マジか……!?
霊力の保有量ってそんなに人生左右するほど重要だったんだ!?
親父の表情から、ひしひしと「有栖川宮家のアホのもとへ嫁に行くことにならなくてよかった」という安堵が伝わってくるのがヤバい。
「では、わしはこのまま本家に先ほどのことを報告に行く。お前は着替えて戸締りをしっかりとしていなさい。結界が張れるのなら結界を張ってもよい」
「え? あ、は、はい……」
今までそんなこと言われたことなかったのに、と思ったが、親父の目がマジだ。
一条ノ護家、そして鈴流木家の人が来客としてほんの数十分滞在しただけでこれほど警戒しなければならないなんて。
親父に言われた通り、家の四カ所に護りの霊符を張り巡らせて四角形の結界を張る。
親父だけが通れるように、霊符を門扉に張って“結城坂家”の人間に限定しておけば問題なし。
あ、あと伊藤さんの名前も追加で霊符に刻めば……よし、おっけおっけ~。
「それにしても……久しぶりの新しい着物、上がるわ~~~~」
お洒落なんて前世じゃあ大して面白くもなかったけれど、女の子っていいよな~。
柄といい形といい、小物の組み合わせ、アクセサリーの種類、色……要素がたくさんあるから、自分を聞かざる楽しさってのが段違い!
化粧やネイル……まあこの時代感覚だと色爪なんて呼ばれているけれど、そういうのも興味あるんだよ。
あとは髪型!
髪を伸ばすのは手間がかかるけれど、親父に誕生日プレゼントしてもらったリボンを使って色んな髪型にするのが結構楽しい。
まあ、普段は学校じゃあ一つの三つ編みって校則で定められているんだけどさ。
しかし、髪については長いと手入れが面倒くさい。
前世の短い髪に慣れていたから、最初の頃はかったるくて仕方なかった。
しかも髪を切りたい、と床屋で告げると「では毛先を少し切って整えますね」という自動変換。
女は髪を切ってはいけないらしい。
こういうところにも、男尊女卑というか……“男”が“女”に“女であること”を求めているのが透けて見える。
あらゆる女に“男の理想の女像”を求めるというか。
楽しいんだけれど、でも、どこか息苦しさを感じる。
それは別に、俺が前世男だから感じるってわけじゃないと思う。
「はあ……その観点から見るとあの股ゆる女は生きるの楽しそうだよなぁ。そこだけは羨ましいかも」
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