第6話 現実で生きている
守護十戒内地ってつまり
しかもその本家、またはその上の宗家!?
伝手なら同級生の
婚約破棄されたばかりの俺が話しかけるにはハードルが高すぎるし、小百合さんには話しかけたことすらねぇよ!
小百合さんってあれだよ、クールビューティーで同性にも塩対応なんだよ!
シンプルに怖い!!
でも背に腹は代えられないか?
明日論文と霊符の実物持って話しかけてみて研究の理解を訴えてみるか……?
いや、でも霊術の勉強していた俺に聞こえるよう、わざと「花嫁修業もしないで」って嫌味言ってたしなー!
実際花嫁修業サボって霊術と霊符の勉強してたしなー!
「少なくともわしや
「は、はい。わかりました。書いてみます」
「お前を大学に通わせる力は、わしにはない。在学中に伝手を作るしかない」
「……はい」
自分の力不足を娘に向かって認めるのは、さぞ悔しかったんだろう。
親父が組んだ腕に、指先が食い込むのを見ないふりをした。
わざわざ言わせて申し訳がない。
今回の婚約破棄で支払われる慰謝料は、俺を大学に通わせるられるほどあるわけじゃないってことだ。
多分本家から借りている、高等学校の学費の返済でなくなるんだろう。
「あの、家は……引き払うのですか?」
「そうなる。話し合いのおかげで引き続きお前の卒業までは……という話は継続したが正直なところわしは要殿がもうなにもしてこないとは思っておらん。なにが起こるかわからん以上、荷物はまとめておいて損はあるまい。今回の賠償が入っても、本家に返済せねばならん借金はその倍ある。お前の母が残した借金を代理で弁済してもらっているからな」
「いくら残っているのでしょうか?」
「お前の婚約破棄の慰謝料を全額返済に充てれば半分、といったところか。この家を本家に売れば完済。小さな家を借りる頭金くらいにはなるだろうな」
「そうなのですね……」
そうか、親父は俺が嫁入りしたらこの家を売って借金完済。
本家の世話になって一人暮らし用の家に移るつもりだったんだ。
有栖川宮家は金ならあるしな、援助ももらえる予定だったんだろう。
そんな人生設計を台無しにされた。
俺はスカポンタンと結婚しなくて済んだから、それはある意味超ラッキーだったわけだけど。
でも俺の『生活に役立つ霊術や霊符』の研究は今のままでは続けられない……!
クソババアが駆け落ちの時にこさえた借金が、俺の入学費と学費の倍くらいあるってのも腹立たしくてめちゃくちゃピキる。
あいつ家の金も持ち逃げして家具も売り払った上に借金って、そんだけの金必要か?
家でも買うの?
それでも多いと思うけど。
今頃家買って幸せに暮らしてたら千回ぶっ飛ばしてもぶっ飛ばし足りなくね?
クソババアが出て行ってから、俺も親父も新しい草履も着物の一つも買ってないのに。
「わしもお前の研究になにか意味があるのかわからん、古い考えの人間だ。それでもお前が正しいと思って勉学に励むことを否定はしない。ただ、現状お前の思い通りに望むことはさせてられん。その力はわしにはない。それだけは頭の片隅に置いておけ」
「はい。……わかっております」
夢を諦めるしかない、その覚悟をしておけ、現実的な将来を考えろ。
親父の言葉は厳しいけれど、俺も前世社会人やってたからよくわかる。
やりたいこととできることはイコールじゃない。
好きなことだけやっていられたら、そんな幸せなことないけど現実は好きなことだけじゃ生きていけないから。
我を押し通すには金も時間も立場もなにもかも、うちにはないのだ。
大丈夫、そんなことわかってる。
わかっていたから、俺はあのスカポンタンとの婚約を受け入れたのだ。
だから今更だよ、親父。
そんなの、ちゃんとわかっているんだ。
無表情なのに、しょんぼりとした表情の親を見るのはつらい。
肩を叩いて「大丈夫大丈夫〜!」と声をかけるほど気安い関係じゃないから、とにかく笑顔で「私は大丈夫ですわ」と言ってみるけれどそれが余計に親父の眉間の皺を深くしてしまった。
気丈に振る舞っているように見えてしまってるのかも?
人生二周目だし、記憶と心は男のまま結城坂家のご令嬢として振る舞ってきて今更なんだよなぁ。
でも、そうなるとやっぱり結界管理局への就職が現実的なのかねぇ?
少し調べてみるか。
明日、図書館で。
それとも、やっぱり小百合様にワンチャン賭けてみる?
ま、できることはやるだけやってみてからでもいいか。
護身用の霊符を作ってみて、明日小百合様に直談判してみよう。
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