第4話 異常な学校


 あんなことがあった翌日だから、今日からの学生生活はそれなりに気まずいかな、と思ったけれど、周囲の人たちが守ってくれるからまったく気にならなかった。

 昨日追いかけて来てくれた三人の令嬢はそれぞれ六条ノ護ろくじょうのご八条ノ護はちじょうのごの分家のお嬢さんたちで天ヶ崎彩芽あまがさきあやめさん、八ノ城梢はちじょうこずえさん、八越陽子はちごえようこさん。

 八越さんは俺がよく座学の勉強を教えていた。

 八ノ城さんはゴシップ好きのお喋りさんで、八越さんの親戚。

 天ヶ崎さんは二人の友人。

 特にこの三人が徹底的に俺を守ってくれた。

 噂は全否定、パーティーに参加していたほとんどの女生徒が白窪結菜が悪い、と断言。

 男子生徒はスカポンタンの噂を信じて声をかけようとしてくるが、三人が「あんな噂を鵜呑みになさったの?」「結城坂様に成績で勝てないからって流された、不埒なデマですわよ」と笑顔で全否定してくれたので、にやにやキモイ顔していた男子生徒は口端をひくつかせながら退散していく。

 それがなんともスカッとしたし、おかげで快適。

 しかし、スカポンタンに興味なさ過ぎたのと霊術を学ぶのが楽しすぎてあまり学内の人間関係を探ったりしてこなかったけれど……今の学内は白窪結菜によって、混沌としていた。

 基本的に高等学校に入学する歳に婚約者を作るのが一般的。

 俺も入学と同時に本家から有栖川宮家の条件が俺に当てはまったから、と決まった。

 まあ、基本そういうもん。

 本人同士の気持ちとかは、家同士の条件が合えば許されるって感じ。

 俺の場合は女として生まれた時から可愛い女の子と結婚する未来は途絶えたわけなんだけれど。

 もう結婚なんて虚無虚無。

 人生の墓場よ、どうでもいいわ。

 しかし、普通の央族の令嬢は婚約者と仲良くしていきたい、結婚後でも旦那様に愛されたいと考える。

 お互いに愛人を作り合うような、ただれた結婚生活よりもお互いを一途に思い合うような仲睦まじい結婚生活を夢見るもの。

 まあなー、俺も奥さんに愛人を作られるよりはそういう結婚生活が理想だわ。

 俺の実母みたいなのはクソ中のクソ女だ。

 家の金を全部持ち逃げするどころか、借金まで押しつけて使用人と逃げるなんて男女関係なくクズの所業。

 身内にそんなクソ女がいたので、令嬢が憧れる結婚生活には俺も憧れるんだけれど、まあ無理だしね。

 っていうかそんな夫婦仲睦まじい結婚生活のために、央族の男女は婚約者を大切にする傾向が強い。

 浮気はクズの極み。

 異性と遊ぶのは配偶者への裏切りとされ、現在の校内事情……白窪結菜がありとあらゆる男子生徒に声をかけ、仲良くしているの“異常”ってこと。

 前世のマンガでよく見た、かわい子ぶりっこして男に媚びまくり、ちやほやされるっていうアレ。

 俺だけじゃなく八ノ城さんの婚約者もあの女の毒牙にかかり、婚約破棄の申し込みがあったらしい。

 八ノ城さんだけでなく、他にも数人……婚約破棄の話が進んでいる人がいるとか。

 おかげで学年関係なく白窪結菜+男子生徒VS女子生徒みたいな構図になっている。

 そのくらい、白窪結菜は典型的な横取り女。

 現実にあんな横取り女、いるなんて思わなかった。

 俺も前世の――男のままだったら騙されていたんだろうか?

 女の身になるとそれなりに「美少女萌~! 優しくした~い!」と思うけれど、白窪結菜を可愛いとは思わないんだよなぁ。

 なんだろうな、これ。生理的嫌悪感?

 実際今の校内を見回すと白窪結菜に心酔する男子生徒を軽蔑する女生徒たち、というギスギスした空気。

 ……霊術の勉強が楽しくてマジに気づかなかったわ。

 しかしその中でも、パーティーで婚約破棄を言い出したあのスカポンタンは頭がお花畑になっている。

 完全にとち狂ってるよ、俺たちの婚約は家同士の取り決め。

 親父も言っていたが、奴らが俺を「男遊びを繰り返す淫乱女」的な噂を流し始めたことは、家同士の関係に亀裂を与える。

 それは本家同士にも影響を与えかねない。

 もうそうなったらマージで最悪。

 スカポンタンどもは果たしてそこまで考えて…………ないんだろうなぁ。

 そんな状況を作り出している白窪結菜は、自分を「みんなが私を奪い合うし、女どもは嫉妬に狂う、わたしってば罪な女♡」とか言っているらしから手に負えない。

 あの女、自分の家が下の中って自覚ないんじゃないの。

 デカい家――守護十戒の本家、あるいはその上である宗家の男に手を出したりなんかしたら……。

 まあ、軽くそういう地獄に片足突っ込んでるし、あとは勝手に自滅しそうだよなぁ。

 前世のマンガではだいたいそういう流れでザマアされるし。

 でも、そうなったら俺も玉の輿に乗っちゃうんだろうか?

 いやー、男と結婚するつもりないし、俺はそういうのいいや。

 俺は仕事っていうか、霊術の研究に生きてぇ~~~~。

 

「まったく! あんな馬鹿げた噂を鵜呑みにした方があんなに多いなんて!」

「白窪様のせいですわね。大丈夫ですか、結城坂様」

「はい、皆様のおかげでなにも問題ございません」

「婚約破棄について、有栖川宮家の方とのお話し合いはいつ頃されますの?」

「さあ……? お父様は午前中に本家に報告に行くとおっしゃっていましたから、そのあとになるのではと思います」

「そうなのですわね。本家が出てくるなんて……やはり今回の件、本家も重く受け止めておられるのかも」

「複数の家が婚約破棄で混乱状態になっていると思います。各本家は情報を共有しているでしょうから、現状を重く受け止める家も出てくるかと」

 

 お嬢様方が頷き合う。

 その真剣な眼差しに、多分俺だけが「あれ、俺が思っているよりあのスカポンタンどもザマアが早くくる?」とちょっと期待しちゃったよ。

 我ながら性格悪。


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