「こんな横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で横取り女の被害に遭ったけど、新しい婚約者が最高すぎた。

古森きり@『不遇王子が冷酷復讐者』配信中

第1話 令嬢転生


 なんか臭い。

 一人暮らしの小汚い部屋。

 万年床の布団で寝ていると、奇妙な匂いと変な明るさで目が覚める。

 気がつくと目の前が炎で包まれていた。

 しがない社畜系サラリーマンの俺は、スマホでいわゆる『女性向けザマア』のマンガを読んで寝落ちてしまったらしい。

 現代の仕事もしている主婦が主人公で、夫は残業と偽り不倫。

 相手の女を妊娠させて慰謝料の存在を知らずに離婚に応じて不倫相手と再婚。

 不倫相手が出産後、元妻となった主人公が証拠を揃えて大勢の前で慰謝料請求。

 しかし、いくつか読んだがどれも夫と不倫相手がバカすぎる!

 こんなバカな男や、こんな典型的な横取り女現実にいるわけないじゃん。

 俺の周りにもここまでのバカ見たことないわ。

 ――と、爆笑していたんだが、俺はこのマンガの夫と不倫相手よりもバカだった。

 タコ足配線とサボりまくった掃除により溜まった埃が臨界点突破したらしい。

 テレビの後ろが激しく燃え上がっているのが見えて、悟った。

 起き上がって逃げようとしても、強烈な吐き気と眩暈、頭痛で体が動かない。

 まずい、まずい、寝ている間に吐いてる。

 吐瀉物と熱で呼吸が上手くできない。

 死ぬ、嫌だ、熱い、ひどい、ひどすぎる。

 俺、こんなに惨い死に方しなきゃならないほど……悪いことしたか……!?

 

 ぶつん。

 という音のあとあれほど熱かったのになにも感じなくなった。

 ああ、これは死んだな、と理解してしまう。

 直後、透明な自分の体を下から伸びてきた木の枝に絡まれる。

 なんだ? これは? 白く薄っすら光る木の枝?

 グン、と引っ張られ、声を出せないのに悲鳴を上げた。

 なんだ、こいつは、俺をどこへ連れて行こうってんだ!?

 体が――霧のように分解されていく……!!

 

 

 

 

 ――十七年後。

 

結城坂ゆうきざかまい! お前のような貞操観念のない女と結婚などできん! 今日限りで婚約を解消させてもらう!」

「ごめんなさい、結城坂お姉様。でも、有栖川宮ありすがわみやかなめ様は貞淑な淑女がお好きだそうですから……諦めてくださいませね」

「………………っ」

 

 この世界、万星バンセイの東の島国、天道国。

 龍脈の中心部にある封印の都、央都おうとの南部にあるダンスホールで行われた”俺”の婚約者、有栖川宮ありすがわみやかなめの誕生日パーティーでことは起こった。

 ”俺”の名前は結城坂ゆうきざかまい

 家は九条ノ護くじょうのご家の分家で、たった今、婚約破棄を突きつけてきた有栖川宮要の家は十条ノ護じゅうじょうのご家の分家。

 本家のお家のは地位は”同等”だけれど、有栖川家は小領地を持つ小大名家なので家の力はあのスカポンタンの家の方が上。

 っていうか、あのスカポンタンの隣でしくしく泣き真似をしている顔の可愛い女――白窪結菜しらくぼゆいなは領地もない、うちや有栖川家みたいに守護十戒しゅごじゅっかいの本家があるわけでもない、”央族おうぞく”の中でも雑魚じゃん……!!

 っていうか、この展開……パーティーで浮気男から婚約破棄をされる中途半端な地位の家の令嬢とか、”前世”で読んだなろう系マンガかよぉぉぉぉ!?

 

「なにいつまでも黙って突っ立っているんだよ。未練がましい! お前のような性悪な浮気女、僕の誕生日に相応しくないね! さっさと田舎の、あの貧乏くさい家に帰れ!」

「要様ったらぁ、言いすぎですよぉ……。可哀想じゃないですかぁ、本当のことを言ったらぁ……クスクス……」

 

 ムッカーーーー!

 と、したがここで声を荒げて反論したら、あのスカポンタンのために嫉妬してるみたいだからやめよう。

 あんなスカポンタン、欲しいなら熨斗つけてくれてやるわ! お中元でな!!

 

「かしこまりました。本日はもう帰らせていただきます。ごきげんよう」

「フン、すました顔をしやがって。しょせん蛙の子は蛙だ」

「ッ……」

 

 定型挨拶とお辞儀をかましてやってから、会場を出る。

 数人の同級生のご令嬢が追いかけてきて、声をかけてくれた。

 

「お待ちください、結城坂様」

「大丈夫ですか?」

「あんな人前で信じられませんわ。しかも堂々と白窪様の肩を抱いて……」

「有栖川宮様があんな常識知らずな方だったなんて、驚きましたわ」

「皆様……ありがとうございます」

 

 高等学校で一緒の女生徒たちが、口々に怒りの言葉を口にしてくれる。可愛い。

 前世では無縁だった女の子たちだが、央族という貴族の女の子は基本的にザ・お嬢様。

 俺も物心つく前からいわゆる淑女教育や央族教養を受けてきた。

 前世の中学で教わるような内容を小学校で学び、中学ではこの国の歴史から央族の子女の役割、嫁いだあとの仕事のやり方を学ぶ。

 だからまあ、このように皆さん大変お上品。

 

「心配なさらないでくださいませね、結城坂様。誰も結城坂様が殿方と遊びに行かれていたなんて信じている方はおりませんから!」

「ええ、ええ! どの口が、と思ってみておりましたから!」

「白窪様、どういうおつもりなのかしら? 六条ノ護ろくじょうのご小百合さゆり様の婚約者、四条ノ護しじょうのご大樹たいき様にも馴れ馴れしくしておいでよね」

「そうそう、この間も観劇をご一緒しておられたわ」

「殿方と頻繁にお出かけしておられるのは、白窪様の方ではないの。殿方たちにはわからないのかしら……!」

 

 俺そっちのけで盛り上がっていくお嬢様方。

 さらに追加でお二人のご令嬢が合流してきて、計六人のご令嬢が白窪結菜への丁寧で優しいオブラートに包んだお上品な愚痴を重ねていく。

 

「皆様、怒ってくださりありがとうございます。ですが婚約破棄について、両親に報告しなければいけませんから……わたくし、そろそろ……」

「あ、そうですわね。どうか気を落とさないでくださいませね」

「そうですわ。きっと有栖川宮様よりも素敵な方と結婚できますわよ!」

「ええ、ええ!結城坂様は霊力の扱いに長けておりますもの!もしかしたら『守護十戒しゅごじゅっかい』の本家や宗家の方に見初めていただけますわ!」

「あ、ありがとうございます」


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