第019話 可愛いあの子は誰だ
入学式の翌日。
つまり、あの敗北した試合の次の日。
俺はD組の教室へと向かっていた。
色んな意味で足取りは重い。
誰が同じクラスなのかは
それに昨日同じチームだった野球部員が居れば、落ち込んだ姿を見られているので正直気まずい。
「あっ!いたいた!探したんだよ大杉くん!」
俺の姿を見つけて走って近寄ってくるのは、|竜田『たつた》
昨日、バッテリーを組んだ仲だ。
探していたと言っていたが、昨日の件で何か伝えたい事でもあったのだろうか。
「昨日は大丈夫だった?」
「大丈夫と言うと?」
分かっているけど、知らない振りをする。
あの落ち込みを思い出すと、顔が真っ赤になりそうなくらい恥ずかしい。
「みんな心配してんだから。特に
「本当かな?御手洗はギリギリ分からなくもないけど、橋渡は人の心配をする様な奴には見えないけど。」
「悪かったな。人の心配なんか全くしない性悪外野手で。」
「げっ、居たのかよ。」
まさか本人がいるとは思わなかった。
影口を言ったつもりは無いので本人に聞かれてまずい事は無いけど、気まずいのに変わりない。
「おはよう、橋渡くん!今日から一緒のクラスだねー。」
「そうだな。俺的には誰がクラスメイトでも良かったけど、竜田は人当たり良いし結構当たりな部類だ。」
「いやー、お褒めに預かり光栄です。」
頭の後ろを撫でる動作で照れる竜田。
ちょっと仕草が古臭くはないだろうか。
「それで大杉、お前のクラスはどこなんだよ?」
「あぁ、俺か?俺はD組だよ。昨日のホームルームには色々合って出られなかったけど。」
「D組なのー!?僕達と一緒じゃん!」
ここでまさかの情報が出た。
クラスメイトには竜田と橋渡がいるらしい。
複雑な気持ちでいっぱいだ。
話せる相手がいるのを喜びたい気持ちもあるけれど、やっぱり昨日の事が尾を引く。
「よっ!おはよう!昨日はよく眠れたか?」
もう1人、俺達のグループに合流する。
話に出ていた男である御手洗だった。
余り睡眠時間が足りていないらしく、大きな欠伸をしての登場だ。
「あっ、聞いてよ。実はさ、大杉くんも同じD組だったよ!奇跡的だよね!」
「マジかっ!大杉もD組とかこれは神のイタズラじゃないか?」
「アホ。大杉は別としても、俺と竜田と御手洗は、同じクラスだからチームも同じになる様にしただろ。」
なるほど、これは作られた偶然だった訳か。
一気に3人も同じチームだった奴がいるのはおかしいと思ったんだ。
それにしても賑やかなクラスになりそうな予感がする。
空気作りの竜田、ボケ担当の御手洗、ツッコミ担当の橋渡。
完璧の布陣じゃないか。
・・・ってこれだと、俺が要らないのでは。
「そう言えばさ、昨日試合惜しかったよなー!あんなに気持ちが乗った試合始めてだぜ。中学の時は弱者だったからさ、俺。・・・って、やばっ。」
「ダメだよ御手洗くん!それ今は禁句だから!」
本人を目の前にしてオロオロとする竜田と御手洗。
そして、橋渡が見ていられないと顔を背けている。
なんか腫れ物を扱われているみたいだ。
まぁ、自分からそうなる様な行動をしたから仕方ないけど。
ここはしっかり訂正して良好な関係を築きたい。
「昨日は俺もショックを受けていたけど、立ち直ったから大丈夫だよ。レギュラーになれるかどうかは分からないけど、3年間一緒にやる仲間なんだし頑張ろう。」
「そうだよな!頑張ろぜ3年間!良いこと言うなー大杉!」
「ビシビシと肩を叩き過ぎだ御手洗。お前も嫌ならそう言え大杉。」
「まぁまぁ、良いじゃん橋渡くん。これも彼なりの友情表情なんだよ。」
そんな感じで普通の高校生の会話に混じる。
昔は1人教室の隅で本を読む様なタイプだったので、この状況が新鮮だ。
昔は得られなかった青春を取り戻しているのを実感していた。
本当だったらあり得ない状況に少しだけ悪い事をしている気持ちになる。
そうしている間にもD組の教室へ到着した。
扉はまだ開けていないのだが、何やら中が騒がしい。
入学式して次の日というのにこうも騒がしくなれるのかと不思議に思う。
大体、1週間くらいはクラスメイトとの腹の探り合いみたいな時間があるものだけどな。
スライド式の扉を開けた瞬間、俺達の方へ視線が集まるがすぐに興味を失ったようだ。
みんなが見ている視線の先には、1人の少女がいた。
誰と喋る訳でも無しに、ただ姿勢を正して座っている。
「おい、あんな子昨日いたか?」
「いやー、昨日はいなかったはずだけど。」
昨日いなかったという事は、彼女は
だけど、後ろから見たら眼鏡を掛けている様には見えないし、昨日の髪型と違い編み込みのハーフアップになっている。
どうやら俺の席と近いみたいなので近付いてみて、直接確認してみる事に。
「おはよう。」
「あっ!お、おはようございます大杉くん。」
「やっぱり、青屋さんだよね。コンタクトになってるし、雰囲気がガラッと変わって別人かと思ったよ。」
「ちょっとだけ頑張ってみました。どこもおかしく無いですかね。」
「似合「すげー可愛いよ!だよな大杉!てか、こんなに可愛い子と知り合いなの黙ってるなんてズルいだろ!」
話に割って入って来たのは御手洗だった。
青屋の可愛さにテンションが上がっている。
でも、初対面の相手にここまでガツガツ行けるのは尊敬に値するな。
青屋本人は少し動揺してるけど。
「駄目だよ御手洗くん。彼女も困ってるから。」
「空気読めない奴は嫌われるぞ。」
流石に青屋が可哀想だと思った竜田と橋渡が止めに入る。
「大杉くん、もうお友達が出来たんですね。」
「3人とは同じ野球部に入るんだ。」
「そうそう!俺が御手洗で、このぶっきらぼうな顔した奴が橋渡、そんでこの優しそうな男が竜田。よろしくな!」
「よ、よろしくお願いします。」
これで一気に3人も知り合いが増えた訳だ。
友達になるのが男ばかりというのは一定の層から反感を買いそうだが、俺が紹介出来るのは男友達くらいなので勘弁して欲しい。
もしも、同性の友達が欲しいなら自ら1歩を踏み出す他ない。
「そうだ大杉くん。私、野球部のマネージャーになる事にしたの。これから部活の方でもお世話になるね。」
「どちらかと言うとマネージャーがお世話してくれる方だけどね。それ置いておいて、青屋さんがマネージャーになってくるのは嬉しいよ。」
「本当!?」
「勿論。それに俺の横にいる奴見てみろよ。嬉しくてテンションがおかしくなってる。」
御手洗は可愛い子がマネージャーになった事実に喜び過ぎて、ダンスを踊り始めていた。
クラスでそんな事したら俺達まで目立つからやめてほしい。
「それなら1年の練習は明日からだから、それに合わせて来ると良いよ。」
「うん、分かった。それで、大杉くんは今日の放課後は自主練するの?」
「一応、そのつもりだけど。」
「いやいや、折角の休みだぜ?今日は青屋ちゃんマネージャー就任祝いに遊び行こうぜ!」
「それ良いね!僕、放課後に友達と遊ぶの夢だったんだよ。あ、もちろん橋渡くんも強制参加ね。」
「お、俺もか。」
まだ青屋が返事していないのに勝手に進んでいく。
でも、嫌そうでは無いので問題ないだろう。
「ちょっと待ったーー!聞かせてもらったよ、その話!」
次から次へと騒がしい学年だな1年生は。
突如として現れたのは、小鳥遊とその後ろに駒場と堀枝。
クラスが違うのに何故いるのだろうか。
そして、小鳥遊が何を言い出すのか。
俺達D組の5人は注目していた。
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