第016話 続く守りの時間
まずは1人確実に抑える。
ストレートかツーシーム 、将又あまり見せていないフォークか。
どれを投げても良いので最初はストライクを取りたい。
相手が打席に立ったのを確認して、1球目を投げた。
かなり際どい場所にストレートが投げ込まれる。
それでも
しかし、タイミングがあっておらず空振り。
これは
確かに球速は遅いけれど、そんな簡単には点は渡せない。
2球目は低めいっぱいに投げられたボールゾーンに逃げるフォーク。
これにも思わず手が出る相手の打者。
簡単に2ストライクと追い込んでいく。
ここはアレを出すか。
出し惜しみ出来るような実力でも無いので、確実なアウトが欲しい。
投げられた3球目。
この球を見て打者は驚いた。
ただでさえストレートが120キロもないのに、それよりももっと遅い球。
これも師匠直伝の変化球、チェンジアップだ。
全くタイミングが合わない打者は空振り三振に終わった。
打たせて取るのだけが、
こうやって投手自らの力でアウトを取るのも役目だ。
「ワンナウトー!」
人差し指を天に突き上げた。
アウトを重ねる毎に気合いが入る。
残り2アウトで交代だ。
なるべく最短の人数で交代して、こっちの流れを作り攻撃に移りたい。
6番打者は俺を睨み付けながら打席に入った。
彼なりの威嚇なのだろうか。
でも、怯む必要はない。
初球は制球が乱れ高めに外してボール。
2球目も低めを大きく外したボールとなった。
威嚇の効果では無く、そもそもの制球力が原因で乱れているだけ。
そうだとしても、連続してボールなのは俺にとってかなり痛い。
3球目で低めに落ちるフォークを投げた時だった。
これは遊撃手である
それならせめてシングルヒットで止まってくれと願った。
「俺の跳躍力舐めんなよ!」
高身長と長い腕、それに組み合わせられた跳躍力によって常人では到底掴めない鋭い打球を取る。
正しくファインプレーだった。
盛り上がる守備陣とガッツポーズをする御手洗。
これによって、2アウトまでカウントを進めた。
そして、7番打者は3球とも見送りでアウト。
俺の制球が悪いのを見て、フォアボールを狙ったようだ。
だけど、忘れてはならないのが
これに助けられてストライク判定を稼いだ。
結果的にはこの回1失点で抑えた。
試合は拮抗した勝負になっている。
次は俺達の攻撃だ。
ここでもう1度リードしてしまえば、相手に大きなプレッシャーを与えられるだろう。
打順は1周回って1番打者から始まる。
先程の打席では見事に三振をしてしまいアピールは失敗している。
今回は監督へのアピールは忘れ、チーム一丸となって点数を取るという気持ちになっているだろうけど、それでも打てるかどうかは別問題だ。
駒場はマウンドに上がると、軽く体を動かして気合いを入れる。
これはまずいな。
折り返しに入った駒場のギアが1段階上がったように感じる。
「俺、今最高に楽しいぜ」
それは勘違いであって欲しかったけれど、どうやら勘違いでは無いらしい。
まずはテンポ良く1人目を三振に抑えた。
そして、2人目は凡打。
球を打てた所までは良かったが、相手の守備が堅く結局はアウトという結果だ。
3人目の打者もこれといった見せ場は作れず、見逃しの三振で終わる。
「そんなの有りかよ」
俺と違って危な気が一切無い。
1軍の投手を任せるなら俺では無く、断然駒場だと考え無くても分かる。
しかし、それは現状の話だ。
この試合を乗り切って駒場と同じ1軍の土俵に立てば、すぐにでも追いつける。
「守備に行きますよ」
「まだまだ元気そうだな竜田」
「ここを無失点で抑えてくれたら、また僕がチャンスを作ります。今度はエラーなんかじゃなくて実力で」
気合いの入っている竜田が、小走りで守備位置についた。
他の7人も同じように気合いが入っている。
まだ誰1人として諦めた奴はいないようだ。
3回の裏は、8番打者との対決から始まる。
お互いに見つめ合ってたっぷりと間を使う。
そして、放つ1球目。
高めのストレート。
ここは様子を見て来たので、ストライクになる。
折角、稼いだストライクを無駄にしない様慎重に投げる2球目。
相手のタイミングをズラすチェンジアップを低めの外角へ投げる。
「下位打線だからって舐めんな!」
これに反応して打ち返す8番打者。
一塁方向へ打球は飛んでいく。
カバーに入った
しかし、無失点を誓った矢先に出塁を許してしまうとは。
相手はチャンスを作るべく勢い付いている。
9番打者が打席に入る前に、ブンブンとバットを素振りをしてみせた。
絶対俺から打ってやるという意識が伝わる。
相手が準備出来た段階で投げる1球。
低めにいっぱいのツーシーム 。
相手は反応していたが敢えてスイングして来なかった。
狙いはストレート1本と言った所だろう。
ストライクに続く2球目。
ここは迷いなく投げるチェンジアップ。
しかし、相手はバントの構えだ。
走り出す
早くバントを処理して進塁を阻止したいが、球が遅いので確実に二塁を目指す走者はセーフだろう。
落ち着いて打者をアウトにして、アウトカウントを増やす。
1アウトで走者は二塁。
得点圏に走者がいるのは嫌な感じだが、落ち着いて残りのアウトを取れば良い。
そうすれば点を取られず、打順が駒場達に回る事も無い。
あちらも打順が1周して1番打者に戻ってくる。
1度目はなんとか通用したが、2度目も通用するか不安だ。
「さっきは小細工にやられたけど、2度も通用しないからな」
アレがまぐれだと思っている1番打者は俺に嫌味を言って打席についた。
こういうタイプの打者は打ち取りやすい。
慢心している選手は、こちらの誘い球に狙い通り手を出してくれるからな。
1球目ど真ん中に敢えて投げた球。
これを見逃すはずも無く、見事に手を出す。
「クソッ!ツーシームかよ!」
いきなりど真ん中ストレートで勝負する訳ないだろ、主人公じゃあるまいし。
芯のズレた当たりは三塁方向へ転がる。
それを綺麗に捌いてアウト。
二塁にいた走者も三塁側に転がった事で、進塁出来ずその場に待機。
最高の結果でアウトカウントをまた増やした。
続いて2番打者。
「来いよ、もう油断はしねぇ。お前を強いと認めた上で打つ」
「それはどうも」
この場面では嬉しくない事だ。
頼むから油断してくれ。
最初は敢えて大きく外したストレートで様子見。
しかし、これには反応しない。
2球目は、ストライクゾーンからボールゾーンへ逃げる内角のフォーク。
これも無反応。
3球目、外角の高めに入ったストレート。
「ここしかねーよなー!」
まさか、外角に球が来るのを最初から待っていたのか。
力一杯のスイングは俺の投げた球を外野まで運んでいる。
入るかどうか怪しい打球。
必死に追う
フェンスの手前で落ちる打球を橋渡がぶつかりながら補球したように見える。
衝撃で倒れ込む。
橋渡の安否も勿論気になるが、球を落としていないかも気になる。
外野陣が駆け寄って体調を心配するが、自らの足で立ち上がった。
そして、グラブから球を取り出してアピールした。
「「「おっしゃーーー!!!」」」
「かっけーぞ!橋渡!」
誰もが興奮する。
このプレーによって3アウト。
外野から戻って来た橋渡をみんなで褒めながらベンチに戻る。
そして同点のまま、終盤の4回表が始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます