第002話 ゲームの知識で無双する方法
頭が混乱しているが、今はとにかく情報が欲しい。
俺の事を呼んでいた恐らく母親だろうという人物に会うべくして、部屋を飛び出して階段を降りる。
知らない家の廊下を歩くのはいけない事をしているみたいで怖い。
それでも、恐る恐る進む。
少し進むとテレビの音が漏れる部屋があった。
間違いなくここがリビングだろう。
女性がテレビに向かって独り言を言っているのも聞こえる。
変な緊張もあるが、思い切って扉を開けた。
「わぁー!!?なによーもー!扉を勢い良く開けないでよ。壊れちゃうでしょ。」
大きな音が鳴ってしまい母親に怒られてしまった。
見た目はかなり若い女性だった20代後半から30代前半と言われても信じるレベル。
息子の俺が中学生か高校生ぐらいと考えると少なくとも30代後半だろうけど。
洗濯物を畳みながら撮り溜めたドラマを見ている様だ。
家事の邪魔にならない様に長い髪を束ねているのが母親らしい。
「おはよう、母さん。」
挨拶をしないのも不自然だと思い、とりあえず無難に挨拶をしておく。
「え?今なんて。」
何の変哲もない挨拶だったにも関わらず、目を丸くして驚く母。
中身が
全身から嫌な汗がダラダラと。
「なにー!今まではママとか言ってたのにキャラチェン?高校デビューってやつだ!可愛いわねー!」
そんな事に引っ掛かったのか。
呼び方が変わった事が気になるのは、親ならではの観点だな。
でも、これは良い教訓だ。
あくまでも今の俺は学生であり、お金を稼ぐ為だけに生きていたサラリーマンの時とは違う。
どうやったら元の姿に戻れるかも分からないし、ここがそもそも前にいた世界と同じなのかも分からない。
なら、
「そういえば、
『ダイヤモンドベースボール』でも、同じ名前のヒロイン候補がいたな。
主人公の駒場とは一歳年上の先輩マネージャーである
外ではしっかり者な反面、主人公だけに見せる甘えん坊な姿にギャップを感じ、多くのプレイヤーの心を掴んだ。
「私は起きてるよお母さん。部屋で勉強してただけ。」
リビングに入ってくる1人の少女。
「えぇーー!!!」
俺は思わず声を出してしまった。
「どうしたの二郎、いきなり私の顔見て叫び出して。失礼じゃない。」
「二郎ちゃんは今日ちょっと様子がおかしいのよ。でも、思春期だしそんな時もあるわよ。そっとしておきましょう。」
凛とした出立ちに、青色の長髪、そして母親譲りの整った容姿。
透き通る程白い肌は雪の様だ。
間違いない。
何度も何度も見て来た
あれだけプレイして来た俺が言うのだから間違いない。
でも、真奈に弟がいたなんて情報は無かったぞ。
朝から頭がパンクしそうだ。
いや、確実な情報がある。
ここは『ダイヤモンドベースボール』の世界。
そして俺は、登場人物の中の何者でもないモブキャラだと言う事。
自分がプレイしていたゲームの世界に転生。
そう言われてもあまり実感が湧かない。
朝食を食べている最中、母や真奈が話し掛けて来ていたが、心ここに在らず。
全て右から左へと流れてしまっていた。
「ご馳走様。」
それだけ言い残して自分の部屋へと戻る。
部屋に戻るとすぐにふかふかなベッドへダイブして、思考する事を放棄しようとした。
何を考えても、何をやってもこれは俺の人生では無い。
どう足掻いても意味など無い。
これは主人公の為の世界。
俺には『ダイヤモンドベースボール』の知識しかない。
・・・いや、待てよ。
主人公の
では、この世界の駒場はどうだ。
誰も関与していない、ただの女好きなのでは無いだろうか。
そうだ、そうに違いない。
なら、俺がこの世界の主人公になれば良い。
その為の知識は全て揃っている。
例え、可愛い女の子とイチャイチャ出来なくても
まだ、考えないといけない事は多いけれど、目を背けるのも精神的には大事な事だ。
今は目標に向かって、動き出すのみ。
「さて、まず最初に確認するのは俺のステータスからだよな。
ポジション・
称号・完全クリアを成し遂げた男
球速・90キロ
制球・20 (MAX100・プロ平均70)
持久・10 (MAX100・プロ平均70)
幸運・???
変化球・無し
スキル・適応力D (A.B.C.Dの4段階評価)
ゲームと同じステータス画面がVRの様に目の前に浮かび上がる。
不思議な感覚ではあるけれど、何度も見て来たゲームシステムを見ると何故だか安心する。
「本当に見れたのも驚きだけど、弱すぎないか?」
主人公のステータスと比べると酷い。
だけど、伸び代があると思う事にしよう。
ここから俺の手腕でどこまで伸ばせるのか楽しみになって来た。
それにしても幸運というステータスの項目は見たことが無い。
新たに追加された要素なのだろうけど、良い方に転んでくれるかは謎だ。
野手ステータスは、野手適正が無いと見れないというクソ設定なので分からない。
だけど、俺が元々野球をした事が無いのが反映されているなら期待出来ないだろう。
「まずはあれから買いに行くか。」
俺が野球で無双する為にはまず下準備が必要だ。
しかも、普通に準備していては遅い。
本来起こるシナリオよりも早く、主人公よりも早く先を走らないといけない。
とある物を買う為には全部で10万円が必要だ。
学生にとっての10万は大金だけど、何とかなるだろ。
〜〜10分後
「意外と持ってるな俺。」
財布や貯金箱の中を探したら10万円は余裕であった。
ゲームの中の世界だから紙幣価値も違うのだろう。
主人公が高校生ながらに100万円とか平気で持てたのも、そのおかげか。
財布の中に10万円を詰め込んで、外出する支度をする。
本当であれば、春休みの段階では主人公が買う事ない商品なのだが、俺には他にもやる事があるので急ぐ。
慌ただしく階段を降りて、玄関へ一直線。
廊下を走る音がうるさかったのか、母親もリビングから顔を覗かせた。
「あら?二郎ちゃん、お出かけするの?」
「ちょっと買い物してくる。多分だけど、帰りは遅くなるかも。」
「まぁー!!!嬉しいわ!あの二郎ちゃんが外出なんて!休みはずっと家にいるから心配だったのよ。買い物するならお金いるわよね?いくら必要なの?」
俺が外出するのが珍しい様だ。
感動のあまり俺の手を握ってぴょんぴょん跳ねる。
この世界では彼女が実母なのは分かっているけど、転生して来た俺にとってはただの美人。
女性に免疫が無いので顔が真っ赤になりそうだ。
「ちゃんとお金は持ってるから大丈夫だよ母さん。いってきます。」
過保護な母親を振り解いて、玄関の扉を開けた。
ここから俺の物語が動き出した。
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