再生塔RELOAD

プロローグ

 真っ赤な世界。嫌な臭い。重い体。動かなくなった家族。

 これはきっと夢だ。そう思わなければ、この現実を直視などできはしないだろう。

 見回しても動いているニンゲンは自分以外にいない。倒壊した家々からは不気味な赤い液体が流れている。噎せ返るような血の匂いにあふれた村で私は一人、隠されるように戸棚の中にいた。

 母が最期に私に言った。


「貴女だけは生きていて。私のかわいい子」


 そう言って私を隠した。そして先ほど目の前で母は魔獣に食い殺されたところだ。

 脳が理解を超えている。現実を拒んでいる。

 母だったものが、魔獣に食われている間、私は黙ってその光景を目に焼き付けていた。魔獣は母を食い尽くすと、どこかに去っていった。

 蹂躙されつくしたこの世界で、私は一人、息を殺して咽び泣いた。

 扉をゆっくりと開けて外に出た。今この世界に以前の豊かさは微塵も見えない。

 憎悪しか湧かなかった。悲しみはもう一つも残っていない。

 赤い世界で私は一人、復讐を誓った。



 ▽


 天陽暦190年。下層第七集落「灰の村」。

 局地的災害事象「天罰」により壊滅。

 三原種、「赤位」を確認、討伐済み。

 なお生き残りは少女一人。

 処理屋規定に乗っ取り保護し新たな処理屋として育成を実行する。

 実行者、処理屋○○(汚い字で読み取れない)

 △



 あれから十年という月日がたった。今は天陽暦200年。

 あの時の少女も随分と大きくなった。

 白い髪に赤い瞳、二房のマフラーを巻き巨大な大砲を担ぐ。

 少女の名はカテラ。魔獣を専門で狩る処理屋の一人である。

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