第14話 チョコレートと満天の星
メリッサは小さなコンサバトリーにいた。
エドアルドとここで会う約束をしている。
庭に建てられたコンサバトリーから庭の花が見える。
庭にコンサバトリーがあるなんて、さすが貴族だわ、と思いながら、紙の束に目を通す。
「待たせたな」
待ち人であるエドアルドがやって来た。
彼は小箱を机に置いて、向かいの椅子を動かしメリッサの隣に座った。そしてスッと小箱をメリッサの前へ動かす。
「隣国から取り寄せた菓子だ。食べるといい」
「ありがとう、嬉しいわ!」
ラッピングのリボンをしゅるりとほどき、丁寧に包装紙を剥がす。ふたを開けるとツヤのある丸いチョコレートが顔を出す。
「チョコレート?」
「ああ、有名な職人が作ったものだ」
「へ~。では早速いただきます!」
口に入れると甘くほろ苦い。この世界のお菓子、美味しいのよね。
ゆっくりと味わうとチョコレートの中心から、甘酸っぱいベリー味のソースが出てきた。甘酸っぱさとほろ苦いチョコレートが混ざりあい、とろけあう。
「とってもおいしいわ!」
メリッサの瞳がキラキラと輝く。
「そうか、良かった」
エドアルドは満足気な顔で言ったが、その耳は少し赤い。
「残りはあとでゆっくり食べましょ」
チョコレートのふたを閉めた。今時間をかけて味わっていては日が暮れてしまう。大事なやることがあるのだ。
今日二人が集まったのは、お茶会でも、勉強のためでもない。
メリッサは紙の束をテーブルに広げる。
それはマリクとミシェルの授業の評価が書かれた紙だ。
二人は二度目の通知表を渡すことにしたのだ。今回はエドアルドも参加し、二人のコメントを書く。
紙の束は二人で教師たちに聞き取りをし、まとめた紙だ。
これを元に、通知表を作っていく。
先日、ミシェルとマリクの授業を見に行ったのもこのためだ。
「マリクはお菓子作りを楽しそうにしていますね」
マリクはお菓子作りに興味を持ったようで、自主的に料理長に習い始めた。作ったお菓子はみんなに振舞ってくれる。
ミシェルやメリッサを誘って作るときもある。
マリクの腕前は作るたびに、どんどん上がり「プロなのでは?」と思うほどに美味しい。
マリクの通知表はお菓子作りの項目を書き、星五つの評価になった。
ミシェルも絵と音楽の実力がめきめき上達している。
魔法と剣の息抜きにもなっているようで、ミシェルにとっていい影響を与えている。
これも文句なしで星五つの評価だ。
「ミシェルは魔法の授業も頑張っているな。やはり習得したい魔法があると上達が早い」
「そうね。少しずつ上達してるみたい」
「魔法というのは精神状態にも左右される。精神が不安定だと魔法も不安定になるんだ。きっと、メリッサとの習い事で気持が変わったのもあるのだろうな」
魔法って魔力だけじゃなくてメンタルもかかわるのね。体調悪いときに何かをしても上手くいかないものね。それと似たような感じかしら?
「ミシェルの心を追いつめたのは私だが……」
エドアルドはうつむき、声に力がなくなり、表情が曇った。
あわわ。どうしましょう。落ち込んじゃった。
メリッサが慌てる。
そうだわ。
「エドアルド、これを」
エドアルドが顔を上げると目に入ってきたのは紙切れ。
そこには星が四つ描かれている。
「エドアルドも最近、変わろうと頑張っているでしょ? だから星四つ!」
ミシェルが辛そうだったのは事実なので星一つマイナスで。
エドアルドの細い目が開き、ぽかんと口を開けた。
自分にあてられた通知表だと理解するとふにゃりと笑う。
「ふ、ははは。ありがとう、メリッサ」
紙を受け取り、眺め、大事にしまった。
「私はお前に励まされてばかりだな。メリッサは、星五つだよ。五つじゃ足りないぐらいだ」
エドアルドの大きな手が頭に乗った。
優しい手つきでなでられる。
嫌な感じはせず、むしろ心地いい。
「ふふ」
「私もマリクやミシェルに負けないよう精進しないとな」
「そうね」
その後メリッサとエドアルドの作った通知表はミシェルとマリクに手渡され、二人はにこにこと笑って、大成功を収めるのだった。
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