第12話 その後のミシェル

 コンサートから二カ月後、

「ミシェル様、最近頑張っているな」

「剣はまだまだだがな」

「運動は苦手みたいだな。でもミシェル様は知識量と音楽がすごいからな」

「演奏すばらしかったな」


 ミシェルのことを話しながら歩いていく使用人を見送り、メリッサはほほえむ。

 コンサート以降、ミシェルは見違えるほど元気になり、やる気があふれている。

 魔法と剣の授業も再開したぐらいだ。どうやら、覚えたい魔法ができたらしい。



 先日、メリッサは空いた時間に魔法の授業をエドアルドと見に行った。


 ミシェルは熱心に魔法の練習をしていた。

 呪文を唱えると手のひらから炎が出て、すぐ消える。上手くいっていないのか首をひねり、教師のアドバイスを聞きもう一度呪文を唱えた。


 魔法を出す瞬間魔法陣が現れ、ぽうっと光る。ああ、綺麗。そのメリッサからしたら非現実的な現象に目を奪われた。


 エドアルドが言った。

「コントロールが上手くなっているな。魔力の流れが良くなっている」

「魔力の流れ、ですか?」

「あぁ。メリッサは魔法は習っていなかったな」

「ええ体が弱くて習わせてもらえませんでした」

「魔法に使うのは魔力だが、やはり体のエネルギーを使うことになるからな。無理はしない方がいい。体が弱い者が魔法を使って倒れる、というのは滅多に聞かないが万が一があるし、魔力切れを起こす可能性もある」


 エドアルドが魔法の解説を始める。


「へぇ。魔法って奥が深いのね」

「知識として勉強してみるか?」

「いいの?」

「魔法を使うのは心配だから座学だけだが。私が教えよう」


 えっ? 


 メリッサは目を丸くした。エドアルドが教えてくれるって? なんで? 習い事みたいに家庭教師でいいんじゃないの? 


「忙しいでしょう?」

「問題ない、最近スケジュールを考え直した。時間の余裕はある」


 なぜかしら、食い気味に言われたわ……

 でも魔法も学べるなんて、うれしい。


 話が私の話になってしまったわ。

 閑話休題



 ミシェルが剣と魔法の授業を再開するにあたって、時間の都合で続ける習い事と辞める習い事を選ぶことにした。


 続ける習い事にミシェルが選んだのは絵と音楽だった。ダンスは社交界での教養として習う日まではやめることになった。

 ミシェルは「ダンス、いつかやらなきゃいけないのかぁ……」と渋い顔をしていた。


 ミシェルは稽古や習い事で学ぶだけじゃなく、図書室にも通っていろんな本を読み、着実に知識を蓄えていった。


 ミシェルのこれからが楽しみだ。



 ミシェルは今、覚えたい魔法があり、授業へのモチベーションが上がっている。


 覚えたい魔法というのは絵画の授業でラミが使っている定着魔法だった。

 今までラミがかけてくれていたが、自主的に絵を描くこともあり、自分でできるようになりたかった。


 やる気があってもすぐ上手くなるわけじゃない。絵と同じように、基礎からしっかりと学びなおすことにした。


 焦らず、ゆっくり練習していく。

 いい感じに力が抜け、心の余裕があるからか、前よりもやりやすい気がする。


 ある日、授業にメリッサとエドアルドが見に来ていた。

 見られているのは少し恥ずかしいが……


 二人は木の陰から覗いていて、隠れてるようだが一本の木に二人、しかもエドアルドのしっかりした体格を隠すのは荷が重く、ばればれなのが少しおかしかった。


「お父様、お母様、来てたんですね」

「えぇ!」

 メリッサがニコニコして言う。いつもよりご機嫌だ。


「ミシェル、頑張っているな。前よりコントロールが安定しているぞ」

「そう、ですか?」

「あぁ」


 お父様に褒められた。

 前より上手くなっているのは気のせいではなかった。しかもエドアルドに言われたのだ。


 ミシェルは自分の頑張りに手ごたえを感じていた。

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