異世界転生したら次男が剣と魔法の才能がなく落ちこぼれと言われていたので他の才能を探してみます ~その結果家族仲にも変化が訪れました~
namu
第一部 メリッサとミシェル
第1話 異世界転生
私は転生した。
大学に向かう途中で事故に遭ったのだ。
やりたいことを我慢し受験勉強に打ち込んだ結果、第一志望は落ち、第二志望の大学に受かった。
第一志望には受からなかったものの、受験という苦しい時期を乗り越えた私は、大学生になってやっと自由な時間が手に入るとわくわくしていた。
それなのに、何も出来ずに死んでしまうなんて……
悔しい気持ちの中、瞼が勝手に閉じられ視界が暗くなっていった。
そして目を覚ました時には病院とも違う、豪華な部屋にいた。
「メリッサ……! 目を覚ましたのか! 医者を呼べ、早く!」
知らない名前に、顔が怖いくすんだ金色の髪をした男性、こんな人知らない。周りを見れば映画や漫画で見るような、装飾の施された家具が置いてある。
ここが日本ではなく、異世界であることに気が付くまで時間はかからなかった。
⭐︎
「メリッサ様、体の調子はいかがですか?」
メリッサは白い髭を生やした初老の男性に話しかけられた。
水色の瞳を持つ、白に近い金色のホワイトブロンドの髪をした彼女は、にこやかに笑って男性に答える。
「おかげ様で良い調子です」
「いやぁ、良かった! 倒れられた時はどうなるかと心配したのだが……回復されて本当によかった」
メリッサというのは転生した彼女の今の名前である。どうやら貴族らしく、輝く髪は綺麗な縦ロールでまさに絵にかいたような貴族の姿だった。
転生前のメリッサは、体が弱く先日まで寝込んでいた。どうやら峠を越せなかったようで、そこに転生したというわけだ。
目覚めてから数日間は安静にしており、もう大丈夫だろうということで、庭でお茶をしていたところだった。
そこに庭師が話しかけてきたのだ。
彼は涙ぐみながら喜んだ後、仕事があるからと去っていった。転生前のメリッサは静かで人当たりの良い人物で使用人からも慕われていたらしい。
メリッサは紅茶を飲み、ため息をつく。
前世ではやりたいことを後回しにしてきて、何ひとつ達成できなかった。
転生したのなら、漫画みたいに異世界で何かを始めたり、学んだり新たな人生を始めることが出来ると期待した。
魔法が存在するらしく、魔法を学んでみるのも楽しそうだと胸を弾ませた。
しかし、メリッサは体が弱かったため魔法を学ばせてもらえず、転生した影響で健康になったにもかかわらず万がーのため、外に出ることも許可が降りない。
「恋とかしてみたかったなー」
ドラマのように幸せなことばかりではないとわかっていても憧れる。大学生になったらできるかな、と思っていたがそれも叶えるのは難しそうだ。
メリッサは既婚者で二人の息子がいる。
そんな状態で家を出ることは難しく、他の人と恋をしようものなら断罪、追放展開待ったなしである。
衣食住は保証されているし、生活に不自由もない。
しかし暇なのだ。毎日庭でお茶を飲むだけである。
この世界での目標もなく、スマホも漫画もない世界でどうしろと?
することもなく、ぼーっとバラを眺める。他にも花が植えられているのだが、バラの植えられたエリアが何となく気に入っていた。
そこに人の足音が聞こえた。
ふりむくと剣の先生がいた。この世界では貴族は魔法や剣の技術が重要らしく、息子たちも習っている。
「メリッサ様、ミシェル様を見ませんでしたか」
「いえ、見ていませんわ」
「そうですか……。もう稽古の時間なのに……」
ミシェルはメリッサの次男で、歳は八歳。
目を覚ました時に一度会ったが、ぱっちりとした大きい目に椅麗な水色の瞳、プラチナブロンドのウェーブがかった髪をしていてとても可愛らしい子だ。
私のお見舞いで部屋に来たときは「お母様!」とうるんだ瞳で抱きついてきたっけ。
ミシェルは今日は剣の稽古だったのね。
ただミシェルはあまり剣や魔法が上手くないらしい。
「全く、どこに行ったのか……」
剣の教師はミシェルがいないとわかると、別の場所を探しに行った。
ガサッと草の音がして、現れたのはミシェルだった。トボトボとこちらにやって来る。
「お母様……」
「ミシェル、さっき剣の先生が探してたわよ?」
ミシェルはうつむき、服の裾をきゅっと掴んでいた。
「授業行かなきゃダメ?」
小さな声でミシェルは確かにそう言った。
「ミシェル……?」
何かあったのかしら。
声をかけようとした。その時、
「ミシェル様! やっと見つけた! さ、行きますよ」
剣の先生がやって来て、そのままミシェルは剣の稽古へと連れて行かれた。俯いていて表情が暗い。
そのミシェルの悲しそうな顔が引っかかった。
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