短編集という名の書き溜め。

三門兵装

憧れと失望の環の中で。

 海月っていいなぁ。ずっとそう思ってた。




 私の家の近くには小さな水族館がある。こぢんまりとした少し古めかしい水族館。そこにはもちろんイルカとかアシカみたいのはいないけど、私はすごく好きだった。




 私のお気に入りは海月水槽。ゆらゆらと潮に流されるように動くその幻想的な光景が好きだった。まるでそれは最も自由な生き方みたいで、楽な生き方に見えた。


 友達と喧嘩した時も、勉強が思うようにいかないときもよくここに来た。そしてその度に感嘆と羨望とともに思うのだ。




 海月っていいなぁ。




 でもね、いつか気づく。何物も美しい面だけじゃない。すべて何かしらの綻びを持っている。


 その日の私はいつもより陰鬱だった。上なんて見たくなかった。だから私はいつものように海月水槽の前にいて。いつもならそれで何ともなかった。だけど、見てしまったんだ、排水溝に絡まっているのに抵抗すらしていない貴方の惨めな姿を。


 なんだ、貴方も一緒じゃない。周りからの影響で何もできなくなって、最終的に動けなくなってしまうだけの。


 貴方は私の憧れだった。高嶺の花であるはずだった。

 恥ずかしがりなのに強情で、のらりくらりと自由になんて生きられない私の。違う?私が勝手に期待していただけなの?

 何事も、そうだ。のらりくらりと生きるというのは自分の意思を持てないということ。強情に生きるということは周りとうまく生きることができないということ。


 みんな一緒だ。他人に勝手に期待して、他人で勝手にがっかりする。




 どうせ私はそんなもの。どうせあなたもそんなもの。




 ねぇ、私たちは依存することしかできないのかな。

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