第34話 リアム ~ 人生最良の日

*朝チュンありです。糖分過多なので苦手な方はご注意下さい。

*リアム視点です。



祭壇の前で待っていると教会の扉が開き、外からの太陽の光が教会の内部に差し込んだ。思わず心臓が高鳴る。


今日は俺とミラの結婚式だ。


薄暗い教会の中を照らす明るい光に包まれたミラは、花の妖精のように見えた。花冠やドレスがよく似合っている。この世の存在とは思えないほどの美しさだ。


もしかしたら、本当に彼女は妖精なのかもしれない。俺の腕の中から消えてしまったらどうしよう、などというバカげた心配までしてしまう。


ケントから派遣された王宮の料理長の腕を取って、軽やかに歩いてくるミラは誰よりも幸せそうな笑顔を浮かべている。


彼女の笑顔を見て、心が落ち着いた。大丈夫だ。ミラは現実に存在している俺の最愛の人だ。


そうだ。俺は今日ここでミラと結婚する。


一度は諦めた恋心が報われるという奇跡が起こったんだ。


ミラが近づいてくるにつれて、俺の中の幸福感が高まる。ステンドグラスから零れてくる光の中で彼女の笑顔が一層輝いて見えた。


俺の前に立つミラは頬を上気させて、とても愛くるしい。


他の人に聞こえないように彼女の耳元で囁く。


「ミラ、堪らなく綺麗だ。今すぐ抱きたい」


ぼふんとミラの顔が真っ赤に染まった。


揶揄った俺をちょっと睨みつける顔も堪らなく可愛い…。


その後、儀式は滞りなく進み、誓いの口づけを交わす場面になった。


ああ、ついに俺たちは夫婦になる。これから生涯を共にすることを誓う口づけだ。


ミラは少し緊張しているようで、不安そうに俺を見上げた。


なんて可愛いんだ。世界中の誰よりも愛おしい。


何時間見ていても絶対に見飽きないだろう。


彼女の感情豊かな瞳は潤んでいて、目じりが少し赤らんでいる。きめの細かい透明感のある肌はつい触りたくなるくらいなめらかだ。そして蠱惑的な唇。


思わず吸いつきたくなるが、今は結婚式だ。参列者がいる。ミラがキスする顔を他の人間になんて見せたくない。


俺は彼女の頬に手を添えると、出来るだけ軽く触れるだけのような口づけをした。


それなのに何故かミラの顔は真っ赤にそまり、ますます愛らしい表情になった。


「人前でそんな可愛い顔をしちゃダメだよ」


思わず耳元で囁いてしまう。


司祭が婚姻の成立を宣言すると、参列者が一斉に大きな拍手をした。


俺たちは固く手を握り、微笑みを交わした。


結婚式の後、リマの広場に二人で姿を見せると領民の熱狂ぶりは凄まじかった。


特にミラへの声援が凄い。男どもが多いな。ミラの姿は野郎どもには見せたくないんだが、ミラに心が狭いとか器が小さいとか思われないように、ここはグッと我慢だ。


パレードでもミラの幸せそうな表情が、何よりも嬉しかった。


ミラ、誰よりも君を幸せにする。


「ミラ、今日は人生最良の日だ。俺たちはこれからずっと一緒だよ」


俺の言葉にミラは輝くような笑顔で応えてくれた。


*****


結婚式の翌朝。


さえずる鳥の声でふと目を覚ますと俺の腕の中に天使がいた。


アッシュブロンドの柔らかな手触りとなめらかな肌を感じて、体の奥から喜びが湧いてくる。ミラはまだ深く眠っているようだ。無防備で愛らしい顔につい見入ってしまう。白磁のようなシミ一つない肌。形の良い鼻梁。ふっくらしたバラ色の頬。ぷるんとした唇。そして、長くてツヤツヤした睫毛が縁取る瞳は残念ながら今は閉じられている。


俺は彼女の瞳が大好きだ。生き生きと輝く瞳が俺を見る時にふわりと甘く蕩ける瞬間があって、その場で抱きしめたくなる衝動を抑えるのに苦労する。


寝顔に見惚れていると、瞼が微かに震えて目が開いた。まだ寝ぼけているようだ。


「……ん……あ、リアム……?」


舌足らずな甘い声にぞくぞくする。彼女の瞼にキスをしながら彼女の頬を撫でた。


「おはよう。体は大丈夫か? 夕べは無理させてしまったかもしれない」


何かを思い出したのか彼女の顔が真っ赤になった。可愛い。


堪らなくなってミラを強く抱きしめた。彼女の体には幾つもの花びらのような跡があり『ちょっとやり過ぎたかな』と若干反省する。彼女は自分のものだという痕跡を残したくて夢中になってしまった。


夕べ、ミラがシャツを脱いだ俺の上半身をまじまじと見つめた。


「……リアム、体にも結構傷が残ってるのね」


そう言われると確かに体にも戦の傷が残っていることを思い出した。普段意識しないからすっかり忘れていたが女性にとっては嫌なものだろうかと不安になる。


「ああ、すまない。不快だったら……」


言いかけるとミラは必死に首を横に振る。


「ううん。そうじゃないの。そうじゃなくて……」


そう言って、ミラは俺の体の傷を指でなぞるようにしながら唇を寄せた。


「みんなを守るために戦ってくれてありがとう」


そんな可愛いことをされたら男として滾らない訳がない。十代の若者のように我を忘れてしまった。しかし、十代の頃でもこんな気持ちになったことはない。これまで生きてきて最も甘美な時間だった。


「んっ……リアム、苦しい」


彼女の声に慌てて腕の力を緩める。


「大丈夫か? ごめん」


と顔を覗き込むと、彼女の赤い顔が益々赤くなった。


「……私の寝顔、見てたでしょ?」


「ああ、可愛かった」


「うそ! い、いびきとか……。白目むいたりとか、よだれ……とか。なんか変なことしてなかった!?」


焦っているミラは信じられないくらい可愛い。世界にこんなに愛おしい存在があるなんて奇跡だ。


「大丈夫だよ。ただ、可愛いだけだった」


「ホントに?」


俺は愛おしい人の頬に手を当てた。昨日も誓ったが、もう一度……何度でも誓う。君が不安にならないように。君が預けてくれた心を絶対に傷つけないように。


「ミラ、俺は……健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、何が起こったとしても、現在未来永劫、来世に至るまで永遠に君を愛することを誓う。何があっても絶対に逃がさないから覚悟して欲しい」


彼女は武者震いのようにぶるっと体を震わせた。


「もちろん! 望むところよ!」


そして、すがすがしいほどに男らしいガッツポーズを決めた後、お日様のように笑った。

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いつも親友ポジでモテない悪役令嬢が溺愛されるようになる過程 北里のえ @kitasatonoe

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