15
薄暗い階段をひたすらに降りていく。明かりは壁にはめられている石、なのか何かがが、自ら光を発しているだけ。それが一定間隔を置いて、最低限の明るさを確保をしていた。
灰色の石造りの階段の先を見つめてみるが、その先はまだ下りの階段が続いていくだけだった。
「鍛えなきゃ」
まだ先か、と気が遠くなりかけながら無意識に静は言葉をこぼした。
「鍛えるよりも先にやることがあるのでは?」
「……え、何だっけ」
「無茶無謀を控えることが先決かと」
「無茶無謀も、鍛えることで解決できると思うんだけど」
「鍛えても無謀であることには変わらないこともあるかと思いますが。このように」
この長い長い階段を下っていくため、静はゆっくりと進む必要があった。日常生活においては忘れる程度に気にすることもないが、こうも長く続く階段を下るとなるとやはり右膝に注意を払う必要があった。
手すりがあればまだ良いが、何故かこんなにも長いというのに奈緒の言葉の通り、手すりなんてものは存在しなかった。
そのため壁に手をついて進もうとしたが、その前にルイスが手を差し出して来たのだ。一瞬だけ悩んだが、こちらの方が安定するだろうし、もし、そうはならないようにしたいが踏み外した時の事を考えるとより安全なのは明白だった。
だから今、静はルイスの手に引かれながら階段を下っていたのだ。
その途中、ルイスからまさかの反撃をくらい、静はぐっと顔をしかめた。
数段遅れて着いてきているリーリアの腕の中にいるネーヴェがそうだそうだと、きゃんと鳴いた。
「ほら、ネーヴェ様もこうおっしゃっていますよ」
「味方がいないっ」
なんて悲しいことか。だからと言ってこの手を離すことはしないので、ちょっとした嘆き程度は許してほしいところではあった。
「それよりも静様、抱えていただいた方が早いと思いますよ?」
「それだけは嫌だ」
手を引かれる程度であれば問題ない。いや、多少の気恥ずかしさはあるが、それでも膝の理由がある為仕方がないものだ。けれども抱えられるほどに弱っているわけでもないし、何よりも今までそんなこと、ほとんど経験してこなかったのだ。
せいぜいこの世界に来て一回、問答無用で横抱きに抱えられたが、あれは監禁された部屋から脱出するために必要なことだった。
あれは本当に一瞬の出来事だった。気づいたら抱えられていたし、窓から飛び降りたし、なんか知らないけれども深緑の瞳がすぐ目の前にあったし。
「静様、しっかりとお足元を確認しないと転びますよ」
手を引くルイスが静に視線を向ける。静はうっかり顔を上げ、深緑を直視した。
そう、この深緑がより鮮明に見れた瞬間だった。
静は慌てて視線を足元に向け、ようとしてかかと部分がつるり、と滑った。
「あ」
静の間の抜けた声と共に、一瞬にして全身に冷や汗が一気に流れた。次にくる衝撃にせめて背中から、と慌てて身体を丸めようとした。だが、それよりも前に腕を思い切り引っ張られ、大きく、温かいものに包まれた。
「……えっと、ルイス。ありがと?」
踏み外し、気づけば静はルイスの腕の中にいた。片手はしっかりとルイスの手が握り、もう片方は静の腰付近に回り、しっかりと抱き留められていた。
あれ、もしや結構筋肉質なのか。そして着やせするタイプなのか。思ったよりも硬く、大きなルイスの身体に驚きつつも、恐る恐る下から見上げれば、何やら難しい顔をしたルイスが長く息を吐きだしていた。
そしてそのまま静を見降ろし、一言。
「抱えます」
「あ、ちょ、まっ」
静の静止の声なんて聞こえていないと言わんばかりに、ルイスはさっと静の小さな身体を横抱きにし、スタスタと階段を下って行った。
ルイスの肩越しに見えたリーリアとネーヴェはそろって呆れているように見えた。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
「次こそはっ……次こそっ」
書庫へと続く大きな扉の前でようやく降ろされた静は、即座にルイスから距離を取り、まるで負け犬のように地団太を踏んだ。
勝敗なんて何もないはずだが、自分の中の羞恥心やらなにやらに中々勝てそうで勝てずに必死に耐えるしかなかった。だからあえて勝敗をつけるとしたら完全にボロ負けだ。それは負け犬にもなる。
「何か余計な事を考えているのか知りませんが、戻る時も抱えますので」
「え」
「抱えますので」
大事なことは一度ではなく二度言うのは、とても重要なことである。が、今のは違うし是が非でもご遠慮願いたい。
まるで死刑宣告のようなものをされた静はピシリ、と固まった。それを良いことにルイスはさっさと書庫の扉を開く作業に入る。
書庫の扉は複数の鍵を設けられている。一体幾つの鍵があるのか不明ではあるが、先ほどからカチャカチャカチャと音が響いている。音には迷いがなく、合間にガチャリ、という何かが開く音も混ざっている。それが複数響いた後、扉がぎぃ、と軋む音と共に開かれた。
「静様、中へどうぞ」
「え、あ、うん。ありがと」
なんて手際の良さだとぼんやりとしていた静は、片方だけ扉を開けたルイスに促され、ようやく中へと足を踏み入れた。
入ってすぐ、黒に満ちた空間が薄ぼんやりと徐々に明るくなってきた。上やすぐ横の壁の一部が白い光を放ち始めていた。
一体どういう仕組みなのか、皆目検討がつかないが、明るくなってきたおかげで、その空間の広さに静は感嘆の声が溢れた。
「……うわぁ、すご」
大柄の人の背の三倍はあろう書架が列をなして整然と並んでいる。奥がまだ薄暗いこともあってかよく見えず、そしてどの書架も隙間なくぴっちりと詰まっている。
すぐ目の前の書架に近づき、並んでいる本の背表紙を見やる。どれほどの前に書かれたものか、年代を感じる色褪せたものや、表面が僅かにひび割れているものが複数あった。
「静様、管理者から配置図を頂いております」
ルイスが胸元から片手に収まる程度の小冊子を取り出した。
配置図と言うからには何か一枚の紙のようなものかと思っていたが、どうやら異なるようだと不思議に静が見ていれば、ルイスが頁を開きつつ説明をしてくれた。
「年々増えていくため、本にしたそうです」
それぞれの頁には場所の区分を示す記号、そしてそこに何があるのかが事細かに記されている。もちろん場所の図もあるが、後ろに進むにつれ、図は大きくなるし、区分を分ける線が細かくなってきて、記号の数も膨大になってきていた。
「ねぇ、ルイス。ここって年々広がっているの?」
「はい。管理者達が数年の一度の間隔で、書庫を広げているそうです。地下であれば広げても他に影響があるわけではないので」
本は確かに年々増える一方になるだろうが、保管するためにと地下を掘って広げているとは思いもよらなかった。
確かに地下であれば、地上に比べて他の影響は出にくいだろう。だが、それにしてもやりすぎではと思わざる得ない。
「静様、どのような本を読まれたいのですか」
「神話の類について書いてある本を読みたいのだけど」
「それでしたら……、あちらのようです」
パラパラと頁をめくり、場所を確認したルイスを先頭に静達は大きな書架の間を縫うように進んだ。
神話がまとめられている場所はずいぶんと奥まったところにあるようだった。入ってすぐあたりにあっても良いのではと思ったが、何かしらの管理のルールでもあるのだろう。
それにしても、進んでも進んでも本ばかり。なんて素晴らしい場所か。一回ぐらい、こんな場所で寝泊まりしてみたいくらいには、静にとってこの場所は心が跳ねるほどの場所だった。
「こちらですね」
ルイスの足が止まり、静とリーリアもそろって足を止めて見上げる。
「……ここ全部?」
「はい、そのようです」
「多いね」
「我らが神、アルカポルスに関する本の他、各地域の神についてもまとめているようですからそれなりの量になるかと」
各地域の神、と言う言葉に静は目を瞬かせた。
「各地域の?」
「……我らが神からは、何も?」
「うん。突然だったからね、ほぼ説明は無かった」
「そうでしたか」
まさか知らないとは思わなかったルイスだが、表情を崩したのは一瞬ですぐにいつも真顔に戻った。
「はい。我らが神、アルカポルスは天の神。言わば主神となります。そして四人の愛娘達は主神の実子となりますので、神に準ずる存在です」
ほぼ神と言っても過言ではない存在なのだろう。だが、神ではなく愛娘だと本人も名乗っている以上、何かしら区別なりするためかと思いながら静は頷く。
ルイスは静がある程度理解しながら聞いていることを確認しながらか、その反応を見ながら続けた。
「そして他の神々ですが、アルカポルスや愛娘達がそれぞれ作り出した、もしくはそのものを神として力を与えた存在です。例えば炎や水、時といったものにも神がおります」
「ああ、うん。何となくだけど分かった。そうかぁ、なるほど。ん、それじゃあ、他の神への祈りはどうやってるの?」
「どの祈りの間でも、祈ることは問題ないとされています。ただ、信徒達の中には、とある神を祈ることを良しとしないものもいます。余計な混乱や騒ぎ等々を避けるため、特定の神の為の祈りの場以外は、主神たるアルカポルスの名、もしくは愛娘達の名を口にすることと決まっております」
「もしくは我らが神、とか?」
「はい」
神は神。複数の神がいようと、明確な名を出さなければ分かりはしない。下手をすればタブー扱いになりかねないものだが、それはこの国がそれが当たり前のものとして認知されているからだろう。加えて信仰までは禁止してはいないのだから、完全に抑圧されているものではない。
いくつもの神がいるのかは不明ではあるが名が出せないというのは少々寂しいところだ。しかし、それに至らなければならなかった何かがあったのだとすれば、これが最善ということになる。
「ちなみに聞くけど、それが決まる前ってつまり、その……結構争い事とかあったりしたの?」
「はい。もちろん」
「怖いなぁ」
信仰なおいてな争い事は世界が違えど、そこは共通してあるようであった。
ふと先ほどから大人しいリーリアに振り返り見れば、妙に膨れ面をしていた。
「どうしたの、リーリア」
「……私も、存じております」
リーリアはどうもルイスに対し、一定の負けず嫌いというものがあるようだった。もちろん全てではなく、能力差的にもルイスの方が完全に勝っているものについては弁えてはいるが、それ以外については何かしらの闘志を抱いていた。
「次、分からないことがあったらリーリアに聞くね」
「お任せください! それでは静様、どのあたりから読まれますか? 神話と言っても様々なものがございますが」
対してルイスはリーリアのその闘志には何も言わず、反応はしない。今も大人しく、むしろ面倒事を避けるようにそっと半歩ほど体をずらしていた。その好きにずずい、と前に出たリーリアが静の傍らに立った。
とくにいがみ合っているわけではない、と言う事で静はそれについてはとくに触れるつもりはなく、そのまま目の前に並ぶ書架を見上げた。この膨大な量の本、一体どこから手を付けるべきか。
「……そうだなぁ。リーリアが読んだことがある、基本的な神話がかかれているもの、かな」
「そうなりますと……、こちらになりますね」
そう言ったリーリアは、みっちりとつまっている本の中から一冊だけ慎重に抜き取った本を静に手渡す。静は最初の頁をぱらり、ぱらり、とめくった。
「……うん。これからちょっと読むよ」
「静様、せめて椅子に」
「いや、軽く読むだけだから」
壁際に間隔をあけて不適当に椅子と小さなテーブルが設置されている。読みたいときはそこを使えということだろうが、本格的に読むわけではない静は立ったまま、一定の間隔で頁をぱらぱらぱらと読み進めていく。
今はある程度の触りを理解すれば良い。読み方はあまり良いものではないが、いくつか飛ばしつつ目立つ文言等々を一気に目を通していく。
時間にして十分もない程度ぐらいか、静はぱたりと本を閉じた。
「……うん。リーリア、これより十年以上前のものの本ってある?」
「え、あ、はい。同じ本の、ですか?」
「そうだよ。中身が多少違うかもしれないから、念のための確認。神話だから早々変わりはしないとは思うけど、時代によって書いてある表現とかが合わないとかで変わる場合があるし」
「なるほど。十年以上前、ですと……」
「もっと古くても良いよ。比較するだけだから」
さすがにそこを聞かれるとは思わなかっただろうリーリアはほんの少しばかり困り顔をしつつも、懸命に探す中、後ろからルイスが声をかけてきた。
「リーリア殿、右手に触れているその本かと」
ぴたり、と止まったリーリアは少しの間を空けてから本を抜き出し、中身を見聞する。そして静に手渡した。
「……こちらです」
「ありがとう。ルイスも」
「いえ」
ああ、怖い怖い。二人の姿を見ないように急いで静は本を開いた。横からネーヴェの視線を感じたが気づかないふりをすることにした。
それでも声を落としてはくれているが二人の会話が、この無音の書庫に良く響いた。
「ルイス様は多くを知っているのですね」
「……家の方針で、身に着けたものです」
「そうなのですか。参考までになのですが、どなたから教わったのですか?」
「旅をしているという学者からですので、参考にはならないかと。今、どこで何をしているのか不明ですし」
「学者の方が旅をしているとは珍しい……」
「護衛が二人着いておりましたので、問題がない、と」
「それならば魔物相手でも問題がありませんわね。って、そうではなく」
微妙に話題が逸れそうになる手前、リーリアが何とか話題の主導権を握り直そうとする。と、これはルイスだろう、長く息をが吐きだしたのが聞こえた。
「静様」
「んー?」
「目を通しておきたい本があるのですが、少し離れても?」
「良いよぉ」
ルイスの足音が遠ざかるのが聞こえ、うまく逃げたなぁなんて思いつつ、静は隣で控えているリーリアを見上げた。
「リーリア」
「……大変お恥ずかしいところを」
「自分で分かっているなら良いよ。それに喧嘩するなら、絶対に相手が逃げられない状況にさせてからだよ」
「参考にさせていただきます」
「そんな真面目な顔しないで、何言っているんだこいつって思ってくれるくらいで良いんだけどな。リーリアも今の内に読んでおきたい本があるなら、好きに読んでてよ。滅多に入れないだろうし」
「ありがとうございます。それでは、少し離れますが呼んでいただければすぐに参りますので」
「うん。ネーヴェはどうする? 残る? 足元にいてね」
ずっとリーリアの腕の中にいたネーヴェは下ろされると、ぐぐっと小さな身体を精一杯に伸ばし静の足にすり寄った。かと思ったら、靴の上に乗ってきた。
「抱っこしないよぉ」
くぅん。
不満げに可愛らしい声をあげるネーヴェをまるっと無視をし、静はようやく小さく口元に笑みを浮かべているリーリアを見て、小さく安堵した。
「それでは静様、少し離れさせていただきます」
「うん。何かあったらすぐ呼ぶね」
「はい」
僅かに頭を下げたリーリアは、頭を上げた瞬間に足早に離れて行った。
それを見送り、静はしゃがみ、ネーヴェを抱き上げた。
「……微々たる変化。もっと前から?」
無音の空間に響かないよう、耳を寄せなければいけないほどに小さく静は声を発せば、ネーヴェの尾が大きく揺れた。
静は無言でうなずき、本を元に戻してから、より古い本に手を伸ばした。
一冊、二冊。流し読みの要領で目を通していく。
最初の方はこのように始まる。
天の神たるアルカポルスは、このロトアロフに命を宿した。そして人々に多くを与えた。それは幸福も、不幸も同等に。その全てを与えた。そして四人の愛娘達は母たるアルカポルスにその全てを見るのだと伝えた。
我らが神たるアルカポルスは天であるがために、傍にはおらず。しかし代わりに愛娘達は全てを知る為に傍にいる。だからこそ違えてはならない。
全ては我らが神の為。全ては愛娘達が為。我らがいる。
そして続く話は、アルカポルスが天で行うあれやこれ。愛娘達、それぞれの話が長く長く続いて行く。
中身はほぼ変わらないが、使われている文言が変化していっているのは確認ができた。とはいえ、今はまだそのぐらいだ。
歪み続けている。いつからか。よりもっと前だろうか。それともこれではないのか。
さすがにネーヴェを抱えたまま読むという器用な事は難しかった為、椅子に座って本を読み始めてどれほど経ったか。ぐるぐると思考が淀み始めたのを感じ、静は本を閉じて深く息を吐きだした。
「……次で最後にするか」
いきなり根をつめすぎるのもよろしくはない。次、中身を確認したら休憩するか、今日はこれで終わりにしようと決めて静は別の本を手に取る。
そして開こうとして、違和感に気づいた。
「……んー……?」
気づいたのは表紙を見たからではない。側面を偶然目にしたからだ。僅かだが、隙間があった。
静は目元を抑え、心を落ち着かせようと深く息を吐きだして、そしてその箇所を開き、間を少しばかりおいてから閉じた。
「……ネーヴェは少しここにいてね」
きゃん、とお利口に返事をしてくれたネーヴェを椅子に置き、見ていた本をかかえて立ち上がった。
静はこの本があった場所にもう一度向かい、周辺の本を見渡す。そして目についた本を抜き取り、開いては閉じて戻し、また別の本を抜き取っては開き、これは積み重ねる。
他の書架も見て回る。腕に抱える本同様に歴史がある本の背表紙が並んでいる。どれも神話に関することで、次の書架の背表紙を見るに、他地方にいるという神や、関わる歴史の本が並んでいる。
が、その中で静は違和感を感じた。
アルカポルス、愛娘と各神々にまつわる本が並んでいる棚だ。関係性が記してあるのだろうと予測し、手を伸ばす。
が、手は何も無い空間を撫でただけだった。
静は深く息を吸った。
「リーリア! ルイス!」
静の鋭い声が瞬く間に広がった。声を聞いてか、最初にネーヴェが駆けてきてくれた。そしてリーリア、ルイスはほぼ同時ぐらいに書架の間から慌ただしい音と共に駆けつけてくれた。
静は横目で二人の姿を確認した後、静はまた本が並べられている空間へ手を入れた。
「これ、どういうことだと思う?」
二人が息を呑んだのが聞こえた。
その様子から、二人もまた静と同じ光景を見ていることになる。そして異常なことが起きている、と。
静は腕を戻し、二人に顔を向けた。
「これらの本、一部の頁がないものが見つかった。塗りつぶしがあるところもある」
「そんな……、大神殿の中ですのに、そんなことが……!」
リーリアが信じられないと言うように、酷く動揺を見せた。
そんなはずが無い。あり得るはずがない。
けれども、それならばこの現実は一体なんだと言うのか。
静は受け止めきれないリーリアをそのままに、ルイスを見やる。
「ルイス。一先ずこれについては秘匿にすべきだと思うのだけど、どう思う」
「はい。私も、そのように思います。もちろん秘匿にせず、すぐさまに周囲にこれらのことを報告をあげればすぐさまに神殿は動くでしょう。しかしそれは相手も同じこと。さらに言えば、内部に敵がいることが確定している以上、何かしらの妨害はもちろんですが、静様達に危険が近づきやすくなります」
「そうだね。リーリア、そういうことだから、ここにいるうちに落ち着くことは出来る? ちょっと座ろうね。いい加減この本持つの疲れたし」
「持ちます。リーリア殿、動けますか」
静がずっと抱えていた数冊の本をルイスがほぼ奪うように持っていかれたが自由になった手でネーヴェを抱え上げ、そしてリーリアに無理やり持たせ、腕を掴んだ。
「え、え?」
「ネーヴェが抱えてほしそうだったからさ、お願いね。ほら行こう?」
未だに動揺を隠せずに動けずにいたリーリアを半ば無理やりに静は腕を引き、先ほどまでいた場所へと足を進めた。
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