第4話 *
塾で会う西寺は学校での印象とは全く違っていて、どこにでもいる普通の男子と変わらない。
「普通の男子」をよく知っているのかと言われたら、そこは疑問なんだけれど……
女好きなんだと思っていたら、そうではなくて、女の子の方が勝手に近づいているのだということもわかった。
西寺は、馴れ馴れしい女の子には冷たい。
一度、私が授業の開始時間に遅れた時、私の座るはずの席に他の女の子が座っていて、西寺に話しかけているのを見た。
「ね、サボって遊びに行かない?」
「行かない」
「これワタシの番号。西寺くんのも教えて」
「いらない。もらっても速攻ゴミ箱」
「そんな言い方しなくてもいいじゃん」
「邪魔。さっさとどっか行け」
西寺が睨んだせいで、女の子は黙って教室を出て行った。
女の子がいなくなってから、さっきまで女の子が座っていた席に座った。
「今の、キツかったよ? もっと他の言い方があると思うけど」
「篠田のせいだよ」
「私?」
「篠田が早く来ないからウザイ女に絡まれた」
「それ、私のせいじゃないじゃん」
「何で遅かった?」
「掃除当番の後、先生に用事頼まれてたから」
「どうせ、誰かに押し付けられたんだろ?」
「そんなことないよ」
「どうだか」
「今度からオレに言えよ。篠田のためならそんなやつシメてやるから」
「それマンガで不良がよく言うセリフだよね。使ってるの初めて聞いた」
「篠田って、変だよな」
「それが褒め言葉じゃないのはわかる」
「いい意味で言ったんだよ。こう言えばいい? 篠田ってかわいいよな」
「はいはい、ありがとうございます」
「マジだって」
「そうですね」
「何だよ……」
西寺は少しムッとしたような顔をしていたけれど、こっちはそれどころじゃなかった。
「かわいい」なんて言われたのは初めてで、何とか動揺を隠すのに精一杯だった。
先生1に対して生徒2の個別学習塾だから、西寺が先生に教えてもらっている間、私の方は課題をやっておかないといけないのに、全然頭に入らなかった。
ようやく授業が終わって、テキストを片付けていると、他校の制服を着た女の子が西寺のところへやって来た。
今度の子は知り合いのようで、顔を見て「よぉ」とか何とか言っていた。
「侑里、お盆あけといて」
「何?」
「大上先輩がこっちに帰って来るから、集まろうって」
「場所と時間決まったらメッセージ送って」
「うん。わかった」
「それ、かわいいじゃん」
女の子がカバンにつけていたぬいぐるみを見て、侑里が言った。
「でしょ? じゃあ連絡するね」
女の子が教室を出て行くと、西寺は私を見て言った。
「彼女は同中。大学で県外行った部活の先輩が帰って来るから集まるって」
「別に、聞いてないけど?」
「なんだ。気にしてるのかと思ったのに」
「どうして私が……」
「また明日」
「うん。ばいばい」
「かわいい」って誰にでも言うんだ、って思っただけ。
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