第3話 *
西寺とはこの先、接点なんてあるはずがないと思っていた。
でも、GWが終わって通い始めた1対2の個別学習塾に西寺がいて、同じ学校の上に同じ時間帯を選択していたから、自然と組むことになって、必然的に話をするようになった。
「前に篠田が聴いてた小泉今日子の、オレも聴いてみた」
「興味ないんだと思ってた」
「なんで?」
「そんなふうに見えたから」
「人を見かけで判断するなってガッコウで習わなかった?」
「ごめん」
「あれって失恋の歌じゃん。誰かに失恋したとか?」
「してない。恋すらしてない」
「オレとする?」
「遠慮しておきます。敵を増やしたくないので」
「もしかして両想いになれるとか思ってんの?」
そう言われて思わず睨みつけた。
「冗談じゃん」
「やっぱり、西寺と私は世界が違う。そういう冗談とか理解できない」
つい、いつも思っていたことを口に出してしまった。
「何それ? オレは篠田と同じ世界にいると思ってるけど」
西寺と私を隔てていたガラスみたいなものが、いきなり粉々になって、さっきまで向こう側にいたはずの西寺が、急に近くにいる感じがした。
手にふれることができそうな距離。
真面目な顔をしてこっちを見ている西寺の顔を、じっと見つめてしまった。
「オレのこと好きになった?」
「そんな簡単に好きにならないから」
ふっ、と笑われた。
「これ、聴いてみて。オレはこっちの方が好き」
西寺が自分のイヤホンを片方貸してくれた。
いきなり激しい曲が流れてきてびっくりしてすぐにイヤホンを外した。
「ライブとか行ったらずっと拳振り上げてジャンプしてそうな曲」
「そうなんだよ! めちゃくちゃ盛り上がるんだ。篠田も一緒に行く?」
「行かない」
「速攻で断られるの初めてなんだけど?」
「えっ? そんなに人気のバンドなの?」
「そうじゃなくて……」
「ごめん! このバンドのことよく知りもしないのに。ファンだったらムカつくよね」
西寺が、なぜかいきなり笑い始めた。
「何? なんかおかしなこと言った?」
「言ってない。普通のことしか言ってない。ちょっと、予想外の反応だっただけ。誘ったのを断られたのは初めてだったから」
「よく、わかんないけど、もうちょっと聴かせて。それから好きかそうじゃないか判断することにする」
「いいよ。篠田の好きな曲も聴かせて」
それから、お互いの好きな曲を聴き合うようになった。
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