#052 「気が逸りすぎじゃないか?」
「うーむ……」
純血人類同盟の連中から鹵獲した突撃銃や革製のアーマーを検分して思わず唸る。どれもある程度均質で、品質のばらつきが少ない。純血人類同盟が一定以上の規模の工業施設を有しているか、或いはうちの作業場のような高度な工作機械を有しているのは間違いなさそうだ。
「しかし、本当に皮革製のアーマーとはな……とんでもないローテクなんだが、贅沢品というかなんというか……」
合成品ではない本物の皮革製品というものは基本的に贅沢品だ。実際のところ、単純な素材としての性能は然程良いものではない……とはいえ、本物の皮革製品にはやはり独特の温かみや手触りの良さというものがあり、また維持にそれなりに手間がかかるという点で『味がある』として重宝されていたりもする。そんなある意味高級品である皮革をこれだけふんだんに使ってアーマーを作る、というのは正直俺の理解の範疇を超えているんだが。
「実際のところ、耐弾性に関しては気休め程度ってところだな。耐刃性は思ったよりも悪くはないようだが……重さの割には、なぁ?」
「ちゃんとした防弾装備の方が実用的ではあるよね」
「そりゃねぇ。とは言っても、これだけの量の革を用意できるのは流石だねぇ」
俺と一緒に純血人類同盟の装備を検分していたスピカとペトラがそれぞれ同意したり、感心したりしている。ペトラにとって純血人類同盟は紛うことなき敵なんだろうが、認めるべき部分はちゃんと認めるんだな。
「武器の方は特に言うべきことも無いが……大口径のフルサイズ弾薬だから、威力は侮れんな」
「この銃はこのタイプの弾薬を使う銃の中でも結構人気がある型なんだよね。射撃精度が良いから。ただ、簡易的なメンテナンスならともかく銃身の交換となると専用の設備が要るんだよ」
「ああ、銃身の固定方式が特殊だな、これは……専用の治具と油圧機とかが要る。これが射撃精度の向上に繋がっているのかもしれんが」
「モノは悪くないんだけどねぇ……それでグレン、この大量の銃はどうするの?」
「品質が良いのを選りすぐって一丁だけサンプルとして保管して、あとは全部潰して素材にする。こんなに大量に売り払ったらうちがあの部隊を全滅させましたって公言するようなものだからな。鎧も全部有機素材として分解する」
「勿体ないなぁ……あ、弾薬はうちの銃と互換性があるから譲ってよ」
「タダでとはいかんが、格安で譲ってやる」
幸い弾薬に出処が特定できそうな刻印などは見当たらなかったので、ペトラ達に譲る分には問題はない。ペトラ達が使っている武器は純血人類同盟が使っている武器よりもより先進的な実弾銃で、軽合金や合成樹脂を構造材として使用しているものだ。銃本体の性能もさるものながら、様々な照準器やアクセサリー類を装備できるような構造になっている。その分メンテナンスコストも上がる筈だが、彼女達の銃は整備が行き届いているように見える。やはりコルディア教会にもああいった武器を生産し、維持するだけの設備があるのだろう。
そういうところを鑑みるに、純血人類同盟よりもコルディア教会の方がテクノロジー的には先を行っているのだろうな。尤も、純血人類同盟にしろコルディア教会にしろ、現時点で俺が目にしているものが最先端、最新の装備だとは限らないわけだが。必要十分な能力を持つ二線級、三線級の装備が配備されているだけかもしれない。目にしたものが全てだと思いこんで相手を過小評価しないように気をつけないとな。
「その他の補給物資は?」
「食料や医薬品、その他補給物資に関しては出処がバレないように使う予定だ。具体的にどうするかはここでは言えんがな。ペトラ、わかっていると思うが」
「大丈夫大丈夫、うちの子達には今回の件について他言無用を徹底させるから。グレンの背中を刺すような真似はしないし、させないよ」
ペトラがそう言ってニヤリと笑みを浮かべる。言っていることは真っ当なんだが、その胡散臭い顔をやめてくれ。まぁ、コルディア教会の実行部隊というのはコルディア教会に仇なす連中を実力をもって排除するコルディア教会内の専門機関だという話だから、純血人類同盟を利するような真似はしないだろうとは思うが。
☆★☆
「それじゃあハマルとシスティアを歓迎するのと、ミューゼンの正式な加入を祝って乾杯だ」
「「「乾杯!」」」
俺の音頭でうちの女性陣――尤も、俺以外全員女性なのだが――がそう言ってコップを掲げ、歓迎会が開始される。歓迎会と言っても普段より少し肉が多めのメニューなのと、デザート代わりに某王国の甘いレーションがケーキ代わりに提供されているだけなのだが。ああいや、エリーカの作ったジャムと無発酵パンもたくさん提供されているな。俺のジャムがまた目減りする……いや、また作って貰えば良いんだがな。
しかし、野イチゴやりんごも無尽蔵に手に入るわけじゃないからな……第一防壁の外に農地を拡張した際に栽培は開始した。実に収穫が待ち遠しい。
「で、ミューゼン」
「なに?」
「やる気があるのは結構なんだが、気が逸りすぎじゃないか?」
俺の二の腕や太もも、腰回りに隣りに座ったミューゼンの触手が巻き付いてきていた。それはもう盛大に。足はともかく、腕に巻き付かれると普通に飯を食いづらいので勘弁してほしい。
「……気のせい」
「そういうことにしておこう」
ツイッとミューゼンが視線を逸らし、腕や足や腰に巻き付いていた触手が退散する。しかしその次の瞬間にはペタペタと俺の身体を触ってきているので、誤魔化している意味が何も無い。こころなしか、ミューゼンの青い肌がいつもよりも青く見える。なるほど、ミューゼンは顔を紅潮させるんじゃなくて蒼潮させるのか……血液が青いんだな、多分。
血液が赤い理由は酸素を運搬するヘモグロビンに鉄分が含まれるからだという。その鉄分が銅に置き換わったものがヘモシアニンで、こちらは青い色を発する。
そして、そんな俺達の様子を見るエリーカとハマルは実に微笑ましげな様子だ。ハマルはともかく、エリーカはそれで良いのか……? 良いんだろうな。システィアも特に気にした様子はないし、ライラもエリーカ達と同じような表情を浮かべている。なんとも言えない表情をしているのはスピカだけか。ペトラはなんか楽しそうにニヤニヤしてるし。
「早く食べてお風呂に入る」
「一緒にか?」
「一緒に」
「そうか……」
完全に気が急いているようだな。こんな調子で大丈夫なのか正直不安なんだが……まぁ、なるようになるか。
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