底辺でも”主人公になれる”奇跡を信じていいですか?

@ymd_yoshino

7月4日 午前11時

「暑い…」

自分と歳の変わらないアパートの一室で耐えきれず汗だくで起きる。

今年の夏は例年以上に猛暑が続いているようで、耐熱材の乏しいこの部屋では一夏を乗り切れるか不安になるくらいだ。


サウナみたいな空気を入れ替えようと窓を開け、初夏にしては強い日差しの中、日課の一服に火を付ける。


ここまで一人語りを続けて忘れていたがこの話の主人公。

つまり自分について話そうと思う。


歳は三十代半ば、職業フリーランスのWEBデザイナー。

怠惰な20代を過ごし少しの可能性に期待して独立。

自宅でクライアントの依頼をこなして、月末に決して多くない報酬を得る。

うだつの上がらない経営状況もあり、社会人になってからずっと住み続けているアパートで、当時からあまり変わらない現状と同居している。


もちろん”金ナシ” ”彼女ナシ”

同世代の友人たちは、部下がいて家庭を築き子供を育てマンションを買う。

これまでに自分が招いてきた結果でこうなっている事実を悔やむことすら止めている。

いや、むしろ諦めているのかもしれない。

昔から”自分のケツは自分で拭く”という、変に真面目な自分ルールに囚われているせいだと思う。


最近は少し衰えも感じてきた。

酒が翌日に残る、寝起きが悪い、更には寝付きも悪い。

「食生活や運動に気を使わないとな」なんて思いながらもコンビニ飯に頼っている現状。


ここまでで大体分かったと思う。

そう、俺はまあまあのクズだ。

大丈夫、それは自覚しているしそう思ってもらって構わない。

一般社会からしたら底辺もいいところだ。


話を戻そう。

初夏の日差しは無駄に深夜まで起きていた体には眩しすぎる。

回らない頭でタバコを消す。

「やるか」そうつぶやいてまた今日も変わらない一日が始まる。


日課の業務、まずは届いているメールに目を通す。

大体が興味のないダイレクトメールだが、数件入っているクライアントからの依頼や修正を確認する。

「クソが」何度言ってもわからない担当者に苛立つ。

苛立ったところでそれに抗えない。

なぜなら報酬という何にもかえがたい対価があるからだ。

これも開業当初からの変わらない現状。

ちなみにこれも一つの日課、三方よしとは過去の話らしい。


メールにLINE、いつからかそれらに期待感や楽しみを見いだせなくなっている。

たまに来る親からの連絡、数少ない友人からの誘い。

ありがたいが気持ちは高ぶらない。


“ブブッ”スマホのバイブレーションが鳴る。

「うるせぇな」反射的に出る言葉、舌打ちしながら画面を確認する。

名前を見て時が止まった。


そこに表示されていたのは20歳の時、学生時代に付き合っていた彼女の名前だった。

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