君の声が聴こえなかったのは
鈴片ひかり
新盆に見た夢(実体験)
私の地元は新盆(7月中旬頃)なので、その日は朝から家族でお迎えに行きました。
蒸し暑い日でしたが、なんとかお墓の掃除、お花を供えお線香をあげます。
無事にお迎え後は特段何事もなく普通に就寝しましたが、気づくと夢の中でした。
やけにはっきりとした夢で、私がいたのは自宅ではなく初めて見るような家の中でした。
白を基調とした落ち着いたインテリアで、木漏れ日がレースのカーテンから漏れる優しい空間だったのを覚えています。
その時母が声をかけてきます。
母はなぜか、見知らぬ子供を抱っこしていました。
年齢は4歳ぐらいの男の子で、短髪ですがつやつやのほっぺをしたかわいらしい子でした。
最初は不安そうに母に抱き着いていたその子でしたが、いつの間にか私の元で一緒に遊んでいたのです。
急な場面展開という感じです。
私は子供の療育に携わる仕事をしているため、もはや職業病になっているのか反射的に手遊びやお腹をくすぐって笑い転げるその子の満面の笑顔がうれしくなり、一緒になって楽しんでいました。
ほっぺを突っつかれるのが好きで、私のほっぺも突っつき返す人懐っこい子でした。
純粋無垢な笑顔は天使だなぁと思わせてくれるほどです。
そんな楽しい時間もあっという間に過ぎ、いつの間にかその子は家の入口で大人の人に手を引かれて帰っていくところでした。
大きく力強い手がその子の手を引いていますが、悪い気配はまったく感じません。それが自然であるかのように私は認識していました。
私はお別れなのだと思い「また遊ぼうね」と言おうとしたのですが、その言葉がなぜか口に出せなかったのです。そしてその子はまばゆいほどの日差しの中へ帰っていきました。
そして起床後、しばらく夢の余韻にひたりつつあまりにリアルな夢にまた遊ぼうねと言えなかったことを後悔していると、あることに気づきました。
そういえば、お盆のお迎えの時に無縁仏と水子地蔵にそれぞれお線香をあげたことを。
毎回は大変だけど、お盆とお彼岸ぐらいはお線香をあげたいなと家族で話していたことを思い出したのです。
きっとあの時声が出なかったは、引き留めてしまい上に上がれなくなってしまうことを防ぐためだったのかと。
あの子が上がる前に、少しでも楽しい思いをしてくれたのであれば幸いです。
今でも余韻のようにあの子の天真爛漫な笑顔が胸に残っています。
そういえば不思議とあの子は、楽しく笑い転げていましたが声だけは発していなかったことを思い出しました。
大丈夫、その楽しさを次に生まれたときの産声として元気に発してくれることを祈ります。
君の声が聴こえなかったのは 鈴片ひかり @mifuyuid
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