ゲームのモブに転生したワイ、ルンルン気分でゲームの世界を観光していたら、落ちぶれた悪役令嬢を拾ってしまう

リヒト

第一章 モブと悪役令嬢

モブへの転生

 自分の前に置かれている一つの姿見鏡。


「誰やねん、こいつ」

 

 そこに映る黒髪で赤と青のオッドアイを持った顔立ちの整った一人の少年である。

 別に見てくれは悪くなく、女の子にもモテそうな恵体……。


「オッドアイで期待した僕のワクワクを返してくれ……っ!」


 だが、そんな自分を前にして僕はがっくりと肩を落として項垂れていた。


「いや、転生者だぞっ!?見てくれが良くなったのは嬉しいが、そんなことよりもこう……せっかく転生したこの世界を楽しめる人物が良かったっ!」


 その理由。

 それは僕が転生者だったからだ。

 前世において一般通過オタクとして高校生活をエンジョイしていた僕がとある事故で亡くなってしまい、第二の人生で得た姿がこれなのである。

 これが普通の異世界転生なら、イケメンに転生出来て大成功だと喜ぶところなのだが、この世界は自分が前世でプレイしていたゲーム『アルカリアの箱』に類似した世界なのだ。

 ストーリーとしては西洋ヨーロッパ風の中世の世界でゲームの主人公が学園に通いながら、多くのイベントをこなしてヒロインと仲を深めていくというありがちなゲームなのだが……。


『おっぱいぶるんぶるんっ!』


 本作は作中に出てくる女の子キャラが全員おっぱいも、おしりも、太もももデカくて事あるごとにぶるんぶるん揺れる神ゲーであり、変態紳士たる僕は熱中してプレイしていたのだ。


「なぁぁぁぁぁぁっ!?」


 そんなゲームの世界に転生したのだ。

 どうせなら、知っているキャラになりたかった……もう、悪役でもなんでもいいからとりあえずゲームのキャラに登場したかった……っ!

 普通に悪役として断罪されてもいいから、ゲームを体験したかった。


「何でこんな知らん奴……っ!」


 何で、僕が転生したキャラは知らんイケメンやねん。

 オッドアイだぞ?普通は何か重要なキャラだと思うやんっ!?何で知らんイケメンやねんっ!


「……って、おんっ?いや、違うわっ!」


 つか、よく見たら知っているわっ!こいつ。

 ゲームのコラボイベントのストーリーでちらっと背景に映っただけのモブキャラだわっ。

 モブの癖にオッドアイでビジュアルが明らかに周りよりも作りこまれているとして話題になった奴やんけっ!

 きっと、この後に登場する伏線だろうとか言われていたのに、その後一切登場せず、ストーリーが完結しても出てこなかった奴だわ。


「ニッチすぎるぅぅぅぅ!」


 マジでちょっと話題になったモブだぞっ!何でチョイスがこいつやねん!

 

「あぁぁぁぁ……がっくし」

 

 いや、イケメンだよ。

 つか、一回死んで転生出来たこと自体喜ぶ話なのだ……それなのに注文が多いってのはわかるけど。


「なぁ……アルカリアの箱ぉ」


 それでも、やっぱり僕はゲームの世界に登場してくるキャラが良かったなぁ……。


「はぁー」


 僕は深々とため息を吐きながら、これからの事を考える。

 自分が転生したこいつの名はティエラ・スパティウムと言い、この世界のごく一般的な平民で、実に優れた人格者である両親の元に生まれた子だ。

 赤ん坊から十二歳まで生きてきたここまでの人生は楽しいものだった。

 魔法とか、この世界にある要素には心躍ったしね。


「……期待していたんだけどなぁ」


 生まれた時は、ティエラという全然聞いたことのない名前に戸惑ったものの、それでもこれから何かしらのイベントがあってゲーム本編のキャラになるのかな?なんてことを考えもしたものだが、流石に今からそれは期待できないだろう。

 だって、もうこいつが何だったのかわかったからね。

 何があっても両親のことは守りたいな、っとかイキッたことを思っていた過去の僕は一体何だったんだ?


「まぁ、でも、何時までもくよくよしていても仕方ないよね」


 この世界では成人が十五歳から。

 今の僕は十二歳。

 後、三年で成人であり、これからの自分がどう生きていくかも考える必要が出てくる……ゲーム本編に合流して、何かしらのイベントを経るなんてことはなさそうだしね。

 毎日、姿見鏡を誰やねんっ!と項垂れる日々は僕が何者であるかを思い出してしまった今、終わりにするしかない。

 今思うと、マジ不毛なことをしているな、僕。


「おーん」


 姿見鏡の前に立つ僕はその場でこれからの自分がどうするかについてぼんやりと悩み始める。

 ……。

 …………。


「そうだ、旅に出よう」


 そして、僕はふと、自分が何をして生きていくのか天啓を得る。


「この世界は美しい……っ!」


 おっぱいに、おしりに、太ももと。

 それらすべてを震わせるために最高峰のものを用意されたそのグラフィックから繰り出されるゲームの世界そのものは華やかで美しかった。

 そのゲーム世界をこの目で実際に見て回る。

 それは、非常に心躍るものだろう。


「うしっ!決めた!僕は旅人になるぞっ!」


 不肖転生者十二歳、ようやくになって僕はこの世界の住人としての第一歩を踏み出すのだった。

 

 ■■■■■


 自分の生き方を決めてから一年ほど。

 僕は心配する両親を丸め込み、たった一人で世界各地を自由に旅する生活を送っていた。


「よしっ……薬草ゲット」


 そんな僕は今、鬱蒼とした森の中、薬草を探して歩き回っている最中だった。


「ふんふんふーん」


 僕は小さく鼻歌を歌いながら、森の中を進んでいく。

 

「……ん?」


 そんなとき、ガサガサという草のかき分けられるような音が聞こえてくる。


「……何?」


 そんな音を前に、僕は足を止める……別に、この場は獣臭かったりしないし、魔物の嫌な臭いもしない。

 何処かで嗅いだことのあるような、匂いは香っているような気はするものの……それでも、それ以外に何か異変があるわけじゃない。


「何だろ」


 僕は警戒心を保ったまま音がした方へと、自分は音を立てないように注意しながら進んでいく。

 自分が音のした方に歩いて行った先にいたのは。


「……だ、誰っ!?」


 茂みに中腰となっているボロボロの姿となった一人の少女だった。

 そんな少女。


「シオン・ジェロシーア……ッ!?」


 その顔を見て、僕は驚愕の声を漏らす。

 こいつ、ゲームに出てくる悪役令嬢や。

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