第11話

午後20時。

 取材を終えて、ホテルに戻っていた。

 俺はエマとキッキを泊まっている部屋に置いて、エントランスにある国際電話で、ボイドさんに電話を掛けていた。

 呼び出し音が何度も鳴る。頼む、出てくれ。

「はい、もしもし」

 電話が繋がった。ボイドさんの声だ。

「ジェード・ドレイクと申します」

「……ジェード・ドレイク……あ!先日はありがとうございました」

「はい」

「それでどうなされましたか」

「……えーっとですね。不躾なんですけど、お願いがありまして」

 恐る恐る言った。

「不躾なんてございません。命の恩人、わが社の恩人の願いは何でも聞きますよ」

「あ、ありがとうございます。では、流れ星やオーロラなどを記憶したメモリーストーンとメモリーストーンの専用の機械を譲ってもらえませんか。お金は支払いますので」

「メモリーストーンと専用の機械ですね。分かりました。いつ、必要ですか?」

「明日、お願いしたいんですけど」

「明日ですね。それじゃ、魔法陣速達でお送りしますね」

「はい。それでお願いします」

 魔法陣速達。魔法が自由に使える別界・ルフェルクの宅配業者ロジュラが行っているサービス。専用の魔法陣を紙にプリントすれば指定の時間にその紙の上に物が宅配される。だから、最速で発送から5分以内に受け取る事も出来る。

「どこにお送りすればいいですか?」

「マーレンナハトのシューテルートワールにあるホテル・セレーネーに14時に届くようにお願いします」

「かしこまりました」

「あと、料金は合計でいくらぐらいですかね?」

「全て、こちらで持ちます。ジェードさんは一銭も払わなくて大丈夫です」

「いえ、払いますよ」

「駄目です。これは助けてもらったお礼です。だから、受け取っていただければ嬉しいです」

「……いいんですか?」

「はい。では、準備もあるので電話を切らせてもらいますね」

「……はい」

「失礼します」

「ありがとうございました」

 電話が切れた。とても申し訳ないと言う気持ちと感謝の気持ちが交錯して、何とも言えない感情が胸を覆い尽くしている。……これは申し訳ないと思ったらいけないのではないか。それはボイドさんがやっている事を否定している事になるのではないのか。そうだ。ご厚意をしっかり受け取ればいいのだ。それを受けてもいい資格があるのだ。

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