僕、日記
藤意太
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わかりました。なぜ、僕がこうなったのかを最初からお話しします。聞いてください。
僕は三十五歳になっても女性と付き合ったことがありませんでした。興味がなかったというわけではありません。縁がなかったというわけでもありません。強いて言うなら、恋愛の才能がなかったのです。
見た目も悪く、背も低く太っていて、仕事も出来ない。そんな男、女性は誰も相手にしてくれませんでした。でも、さすがにこの歳になって彼女がいないという事実があまりにも、悲しく、虚しく、情けなかったのです。
何とかしなければならない。そろそろ本気を出さなければならない。どうにかしよう。僕は考えに考えて、僕は、『面倒くさい』『胡散臭い』『詐欺目的の奴しかいない』『どうせ自分なんか相手にされない』と言い訳をして、登録を避けていたマッチングアプリに登録しました。ですが、そのままの自分で登録してもどうにもならないことは目に見えていたので、年収を倍にして、身長をプラス十センチ、体重をマイナス十キロ、プロフィール写真は加工して登録しました。すると、何人かの女性からメッセージが届きました。女性から連絡が来る経験が僕にとって初めてだったので、とても浮かれました。どの女性も可愛く思えました。
その中でも、一番好みだった子と連絡を取り合うようになりました。それが恵奈でした。
女性へのメールの返信の仕方はネットで調べました。後は、漫画や映画、ドラマで見た真似をしました。だって、初めての女性とのメールだったので、わからなかったので、仕方ありません。絵文字を使いすぎず、でも、そっけなくなりすぎず、相手の話をよく聞くことを心掛けました。おそらく、ある程度は上手くできていたはずです。だから、恵奈も返信をしてくれていたのだと思います。
恵奈とは色々な話をしました。好きな映画のこと、音楽のこと、仕事のこと、僕にとってそれは夢のような時間でした。胸いっぱいに甘い熱が広がり、鼻息が荒くなりました。学生時代にも、こんな風に女性と話せたらどれだけよかったか。僕は心の底から思いました。自分の好きなものを相手も好きだということがこんなに嬉しいことを、自分が話すことを相手がわかってくれて、自分が知らないことを教えてくれることがこんなに楽しいことを僕は初めて知りました。
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