第4話

スーパーで弁当を買い、自宅に向かっていた。

 夜になり、近所の家からはそれぞれの家庭の晩飯の香りがする。その香りがちょっと羨ましく思える。家族みんなで晩御飯を食べたのはどれくらい前だろう。覚え出せない。でも、両親は忙しいから仕方が無い。うちはうち、よそはよそだ。

 家の前に黒色のリムジンが停まっている。

 リムジン?なんで、我が家の前にリムジンが停まっているの。怪しくない?怪しすぎない。怖い。ただただ怖い。警察を呼ぶか。でも、もし、もしも知り合いだったら悪いしな。

リムジンを買える知り合いはいなかったと思うけど。他の芸能事務所の社長さんかもしれないし。

 知り合いじゃなかったら、逃げて通報すればいいか。今思いつく最善策だ。よし、それで行こう。

 僕は家の前に向かう。すると、リムジンの助手席の窓が開いた。

「貴方が真音仁哉(まおとじんや)様ですね」

 中年男性はリムジンの助手席から顔を出して訊ねて来た。鼻は外国人のように高い。どことなく胡散臭い顔。何と言うか、人間に化けた何か、そんな感じがする。でも、そんな事口が裂けてもいえない。

 スーツを着ているから、父さんか母さんの知り合いかもしれない。でも、なんで、僕の名前を知っているんだ。

「は、はい。そうですけど」

「貴方を迎えに来ました」

「どう言う事ですか?」

 僕の身体の危機管理センサーが反応している。これはやばい奴だ。逃げないと。

 ……なんでだ。身体が動かない。怖くて動かないんじゃなくて、何者かに行動を制限されているようだ。

「私達には貴方が必要なのです」

「僕には拒否権がありますよね」

「ないです。貴方は私達の指示に従わないといけない。大声を出されたら面倒なので、ちょっと口を塞ぎます」

 中年男性は僕に向かって、掌を向けた。すると、僕の口は何かに塞がれた。

 やばい。どうにもできないぞ。死ぬのか、僕。

「お前達、彼を車に早く入れなさい」

 リムジンの後部座席のドアが開き、車内からサングラスをかけたスーツ姿の大柄の男が二人出て来た。

 スーツ姿の男二人は僕を担ぎ、リムジンの後部座席に運んでいく。

 ちびりそうに怖い。これから、どうなるんだ。これって誘拐だよな。両親に身代金を要求するつもりなのか。

 リムジンの中は豪華だ。でも、もっと違うシュチュエーションで乗車したかった。こんなシュチュエーションだから全然嬉しくない。

 リムジンの後部座席のドアが閉まり、動き始めた。

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