概念剣

かわくや

昔話

『むか~しむかし』


 そんな言葉から始まる物語は小さなころにずいぶん聞いた気がする。

 

 それは桃から赤ん坊が生まれる話だったり。

 子宝を願っていたら、お椀に入った赤ん坊を見つける話だったり。

 日本において、そんな童話はよく聞いたが……


「流石に人間という種が神になった話は聞いたことないなぁ。」


 僕、雲来またらい あゆむはそんなことを考えながら地上までの道のりを落下していた。

 というのも……まぁこんなサイトを覗いている方ならお察しだろう。

 

 そう、異世界転生とか言う奴である。

 学校に行き、人並みに勉学を修める。そんなありふれた僕の生活は、とある夜に感じた胸の詰まるような痛みで突然終わりを告げたのだった。

 四肢が冷え、頭痛を訴える頭を抱えながら意識を落としたかと思えば、次に気づいたのは真っ白な部屋の中で何か白い光と二人きりだ。

 そうして戸惑っていると、突然光が僕の胸に吸い込まれて気づけばこの有様……と、これだけ言えば、よく分からないままこうなったという風だが、実際の所は違っていた。

 

 というのも、光が胸に入ってきた時点で僕の知識が増えていたのだ。

 例えばこの世界において、他種族に追いやられた人間が残り何百人単位での絶滅寸前だったこととか。

 だから神のような存在が自身の権能を分け、人間という種全体を神にしたこととか。

 そんな体制が何千年も続いたため、嫌になった元人間が神の座を降りたりすることとか。

 ……つまり、今回僕が呼ばれたのはそういった元人間の後釜を埋めるためだったらしい。

 

 代用品扱いには……まぁ思う所は無いでもないが、僕も大半のラノベ主人公と大差なく、今を生きることに飽き飽きしていたという手合いだ。

 少しでも現実が面白くなるというのならそちらの方が良いに決まっている。

 そんなことを考えながら……


「開け‼‼」


 僕はバッグの前紐を掴みながらそう叫ぶ。


 バッ‼ バサバサバサ……


 それと同時にバッグからパラシュートが飛び出した。

 地表までは……まぁ、検討も付かないが、とにかく大概の生物が落下で死ぬ高さだ。

 少々早すぎた気もしなくもないが、このまま行く場所でも決めようか。

 そんなことを考えながら、僕は雲の様に一先ず空を漂うのだった。

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概念剣 かわくや @kawakuya

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