あい玩『G』
木目ソウ
第1話
「おはようおはよう~」
「宿題やった? うつさして!」
「だれだよ、俺のアサガオの鉢植えたおしたの! 茎が曲がってるじゃん」
「なぁなぁ、新ガチャの百連ひいたか?」
「俺はお年玉全額課金したよ。でも、光聖天使当たんなかった~」
「ねぇきいた? 今朝も公園でパン配りおじさんが出たんだって! 早く逮捕されてほしいね~」
「あのおじさん、私みたことあるよ~。悪い人じゃないとおもう~。イチゴジャムパンおいしかったもん。それより、天狗さんのほうが怖いとおもう~。危ない爪をもってるんだって」
「しっ、待って。『呪いの人形』がきたよ……」
「息を止めなきゃ……」
灰色。
灰色に染まった空。
灰色に染まった目。
灰色に染まった日常が今日も始まるね。
(一時間目って、体育?)
教室に入るなり、かふうちゃんが手をふりながら、パタパタパタとやってきた。
「あいかちゃんオハイオ~」
「……?」
「オハイオはねー、石油がいっぱいある国なんだよ~。やっぱり将来の夢は公務員なんかよりも、アラブの石油王と結婚とかが一番現実的だよね~」
オハイオって国の名前じゃなかった気がする。石油があるかどうかはわかんないけど。かふうちゃんが話しかけると、皆はまた雑談を開始した。
一時間目はやっぱり体育だったので、朝の会が終わったら、皆できがえた。
「今日の体育なにかな~。私としてはドッチボールはイヤだなぁ」
「……?」
「当たると痛いもん! でも、あいかちゃんはドッチボール得意だよねぇ、なんせ皆あいかちゃんがどこにいるのかわかんないもんね!」
たぶん皆、意図して当てないんだとおもう。
ボールが汚れるのがイヤだとかおもっているんだ。
「わ! 首が変なとこ入った! あいかちゃん、助けてー」
(……ア、かふうちゃん。袖口の方に頭いれてる。助けなきゃ)
というわけで服を着替えて体育へ……。
まずは準備体操。
二人一組で取り組むことになっているんだけど、
「あ……私、井上さんたちとやるから」
「……うん」
私のパートナーの子は、どこかにいってしまった。
先生の方をみたけれど、一瞬目があったあと、すぐにそらされてしまった。
どうしよう……。鉄棒でもしてこようかな。
そうおもっていたら、かふうちゃんが、手をパタパタさせながらかけよってきた。
「やっほー☆皆のアイドル、かふうちゃんだぞ~♡わー、いつみてもあいかちゃんはハブられているなぁ。ちゃんとニコニコ笑顔を作らなきゃ友達できないぞ~?」
「……」
(かふうちゃんもパートナーの子に逃げられたんだね)
「かふう、犬かいたいの! 今のうちに練習しておこっ! はい、あいかワン、お手」
「……?」
(犬のまねすればいいのかな)
「……わん」
「そうそう上手! この前さー、盲導犬がテーマの映画テレビでやってたけどさー、あいかちゃんみた?」
こくり。
クラスの女の子たちが「泣けるよねぇ」といってたから、みてみた。
「あれ、かふう大嫌いっ! 最後にポチが死んじゃうでしょう? 私、映画で人が死ぬのはおっけーなんだけど、犬や猫が死ぬのはいや! 動物殺してお涙ちょうだいするんじゃーない! それならお金大好きな大人の人間を殺せ! ておもうんだ!」
子供たちは皆、悲しいことがあれば涙をながすよね。
でも私は物心がついてからかな、涙をながした記憶がない。
今年もテレビのニュースキャスターは地球温暖化を叫んでいる。涙は汗みたいに、上がりすぎた体温を冷却する効果があるのかな。
バスケの途中、かふうちゃんがつき指しちゃった。
私が保健室につれていくことになった。
「痛かった~バスケもドッチボールみたいに、ボールが超高速で飛び交うんだね~」
(あの子……わざと強いボールをかふうちゃんにパスしていたな)
かふうちゃんの家にはお金がないみたい。
制服は、入学式の時、ゴミ捨て場から拾ってきた物なんだって。
給食費がなくなると、真っ先にうたがわれるのが、かふうちゃん。
(うちにはお金はある。そのかわり、私には心がないみたい……)
汚れ、破損してしまった、愛らしいぬいぐるみを、子供たちは嫌い、捨ててしまう。
なにかが欠けている存在を子供は見捨てる傾向にあるのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます