【タイトル募集】(仮タイトル)弱メンタル女子の全力魂強化日記
えあむ@帰宅部彼氏
人の心を見透かす幽霊
私は日記が好きだ。他人から見たらただ日頃の出来事を綴った紙束なのかもしれない。私の日記を使った笑い話には出来ないし、有名人ならまだしも、たかが一般人の私が書いた日記など誰も興味が無いと思う。
では私が日記を好きなのはなぜか、それは私が嘘の無い唯一の場所だからだ。今ではネットでも学校でもはみ出した方が負け。悪い方に目立つと叩かれたり、誹謗中傷されたり、現実世界には感情に蓋をして、嘘をついてマウント合戦。もちろん全員が何かを成す人を貶めたりする悪人な訳ではない。ただ『言葉』という仮面を被り続け、本心を押し殺し、思っても無いことを、感情のこもっていない『言葉』を吐き続ける日々は人によっては死んでるのと一緒だ。
「まあ、悪い事だとは思ってないけど」
人間誰しも人には見せたくないものが必ずある。それが多いか少ないか、悪意をもっているか、もっていないかの違いだ。私だってもちろん悪意のある感情を相手に向けていることだってある。ただ、それを表に出さないように暮らすのが私の、いや、みんなが勝手に自分の中に作ったルールだと思う。もちろんそんなルールを作った理由は目立ちたくないから、目立って私が心の中に思っているような悪意のある言葉を一斉に色んな人間から浴びせられる、そんな恐怖に脅えているから。
私は机に向かい今日の日記をつける。高校生になってから友達が少ない私は書くことが少ない。書くことと言えば小テストの日にちや、明日の持ち物、今日起きた出来事について私が感じたことだ。日記のおかげで読んだ小説作品や漫画等を深く考えたりできる。学校での忘れ物も日記をつける習慣を手に入れてからはほとんど無くなって今は自分なりに満足した生活を送れている。
「もしかしたら私の死後、この日記が評価されて私の日記が本になっちゃったりして」
私のうるさい脳内がまたしても変な妄想をしてしまう。目立ちたくないのに承認欲求だけは1人前の私は誰かに認められたいとか舐められたくないとか考えてしまう。ただ、私の人生という物語を見て私に尊敬してくれるためには何かとんでもない事件を解決してみんなが私を見直す、そんなエピソードが必要だ。私が人を助ける活動をしているヒーローの証として日記を残すのはどうだろう。いやでも、逆か、それより自分はそんな人助け出来るような心の余裕も無ければ私の血筋...私のお父さんは少なくとも悪人だ。血筋のせいにしたい訳では無いけど
私の昔にした行いがまるで私のお父さんのような悪い行いをしていたことを思い出す。
「私なんて、誰も助けられないよ」
私の父は裏社会と繋がっている。私はヤクザの娘という肩書きになると思う。もちろん目の前で人が殺された現場を見たことは無い。父は家には帰ってこなかったし、母は何か悪いことをした訳では無いし、この家が狙われる危険は今まで無かった。そしてこれからも多分...無いと信じる。
ああ、不安だ。自分の命よりも私の数少ない友達や、私の母親がいつ何か危ないことに巻き込まれるのではないかと日々不安に駆られる。
小学生の頃私は家族のパソコンで父親の名前を検索してみたことがある。そうしたら、体を縄で縛られた男の人の目の前で女の人が頭を銃で撃ち抜かれる短い動画がヒットした、好奇心からなのか、顔すらも見ていなかった父親の姿を1度でも見たいと思ったのか当時の自分の考えはあまり思い出せないが、なんとなく怖い映像という軽い認識でその動画を見た記憶がある。一応音声は無かったけど男の人が声を張り上げて抗議していた様子が画面に映し出され、そこに私の父親と男の人が2人居た。裏切り者を裁く儀式でもしたいたのか、それとも単純にムカつくやつを殺せてスッキリしたのか女の人が殺された時3人とも手で口を隠して笑いをこらえていた事が脳裏に焼き付いている。いわゆる、ダークウェブというものに引っかかってしまったのだろう。ウイルスとか位置情報が特定されるのとかが怖くてあれ以来家族の共用パソコンには触れていないし、そもそも家族のパソコンというのは母親が勝手に決めたことで元々は父親のパソコンだったらしいし、母親はそのパソコンに触れたことは多分1度もない。私のスマホで父親の名前を検索してもあの頃の動画が出てこない。最後に男の人に銃が突きつけられて動画が終わっていた。
「私の目の前でお母さんが、紗季ちゃんが...」
母親や友達が目の前で殺されてしまうことを想像しようとしたが自分の脳がそれを拒絶している。
やっぱり裏社会というのは私には無縁の話にしておこうと思った。人を殺して笑顔でいられる
集団を見てもちろん嫌な気分はしたが、事情の知らない私があれこれ考えても時間の無駄だということは分かりきっていることだ。何より私の精神がもたない。
「やっぱりヒーローの日記路線は諦めた方がいいかな」
父親が悪い人間だということは勝手な想像だがそう感じている。だからこそ娘の私が何か人助けでも、と考えては見るもののただの女子校生。私が今何を考えていようとも世界の犯罪は無くならないし、父親を止めることは絶対に叶わないと思う。
「はぁー、嫌なことばっかり考えてしまう」
今は深夜2時、こんな時間に思考を巡らせると嫌なことを考えてしまうのは目に見えている。それでも明日の私は凄いことを成し遂げる気がする。と、ありもしない妄想や私がなにか特別な存在なのではないかと考えてしまうが、結局は自分の無力さを思い出し、自己嫌悪に陥る事が多い。
私の『ひゅうが』という名前も女の子には無い名前だ、多分父親が適当に名付けたんだろうが、正直私が男か女かも興味が無かったのは名前の時点で察しがつく。
「喉乾いちゃった」
一階が私の部屋、二階が母の部屋となっている。私は二階で寝ている母を起こさないように音を立てずに慎重に冷蔵庫に向かった。冷やしている麦茶をコップに注いで飲みほし、テーブルにコップを置く。
また音を立てずに慎重に歩き電気を消して自分の布団に入る。
目を瞑っても何か考えてしまうのが私の癖、寝ようと意識する私を、起きている脳が嘲笑っているような気がして腹が立ってくる。
寝ろ寝ろ寝ろ私、寝ろ寝ろ寝ろ
そんな意味の無いことを頭で唱えていたその時、リビングからコップの割れた音がする。
母親が起きてないか、ということが頭によぎったが降りてくる気配が無いため少しほっとする。心配性の母親は何か大きな音を立てると直ぐに駆け寄って、何かあったの!?と聞いてくるのがいつもの流れだ。
とりあえず、コップが割れた処理をしようと布団を出て、電気を付けて新聞紙を持ち手ですくいながら割れたコップの処理をする。
「お母さんごめん」
無意識の内に落ちそうな不安定な場所にコップを置いてしまったのだろう。深夜に起きていることが親にバレてしまう上にコップが割れて、怪我がなかったかと心配される様子が目に浮かぶ。あまり迷惑はかけたくないんだけどなぁ。
コップの破片を集め新聞紙を丸めておく、明日お母さんにこのことを報告しようと決意し、
もう一度布団に向かったその時、
私の日記の中が光っているのが見えた。日記の隙間から光が漏れているのが分かる。自然現象では無い、不自然な光だ。
「なんか携帯でも挟んだっけ?」
私は光ったページを開いてみると...何も無かった。前のページを見てみると、今日書いた私の日記が1番下の行まで埋められている。
「.....ことがありました。5月12日」
前のページの文章を全て読んでみたが特に異常は無かった。
「光ったこと以外特に異常なし、か」
私は辺りを見回したが特に変わった様子も無いし、ページを捲り、しおりを挟んで閉じようと思った。
「ページを捲った瞬間怖い顔がばぁんと出てくるとか、赤い文字で助けて助けてとびっしり書かれているとかそういう怖いやつは要らないからね」
私は次のページを捲ってみる。
「何も無いな」
そう思い付箋を手に取ろうとしたその時、
助けてと赤い文字で書き足されていた。そして助けて助けてと次々に誰かが書いてるようにページに文字が刻まれていく。
怖くないと言ったら嘘になるが、思っていた怖さとは違ったので少し拍子抜けしてしまう。
それより、なんで?という感情の方が大きかった。なにか幽霊でもイタズラしてるのかな?と思い。私は傍にあった筆箱を開き、シャーペンを手に取り日記に文字を書いてみる。
『何してるんですか?』
私が右のページに書くと左に書き足されていく助けてという赤い文字が止まった。
すると私の文字の下に
『驚きました?』
と書き足されている。それに私はほんとに幽霊いるんだ、と驚き
『うん、びっくりした』
とその右に書いてみる。そうしたら返事が来る。まるで隣に誰かが居て文字を書いているようなそんな感じだ。
『驚いたのは本当みたいですが、【助けて】にはあまり驚いていなかったようですね。』
私の心が見透かされている。凄いと関心しつつ私も文字での会話に夢中になってしまう。
『貴方は一体何なの?幽霊?』
私は深夜だということも忘れるくらい返事にワクワクしていた。
『私はあなたに取り憑いた魂、まぁ、ほぼ幽霊みたいなものです』
「幽霊、ほんとにいたんだ」
私はとあることが気になり喋ってみる。
「ねぇ、声、聞こえる?あと、貴方は話せる?」
すると日記に文字が書かれていく。
「ええっと、あなたの声は 聞こえます、が」
文字を書いているスピードが人間にそっくりだ。幽霊だから直ぐにコピーアンドペーストみたいに文字が貼り付けられると思っていたのだが、予想を裏切られた。
『あなたの声は聞こえますが、私は今のとこ話す手段がありません』
なるほど、文字で会話するタイプか
『お母さんが起きたら嫌だし、私も文字で会話します』
夢中になってしまったがまだ深夜、もし私の声が聞こえてしまったら1人で会話するなんて奇妙だと怪しまれてしまう。
『今のとこって何?将来的に言葉で会話できるの?』
『私には特殊能力があります。人の心を文字から読み取る力です。今はこれだけですがもしかしたら進化するかもと期待を込めて、今のところと書きました』
すごい、だからあの時赤い文字に驚いてないのが分かったのか?というか、幽霊なのに期待を込めて、とか、いや、まあいいや。
『私が次にする質問、分かる?』
人の心が分かる能力が本当なのか一応挑戦状を叩きつけてみることにした。
『性別はどっちか?でしょうね、性自認は男です』
合っていた。どうやら能力は本当みたいだ。
『肉体とかもったことある?幽霊なんでしょ』
『はい、死んだ頃の記憶も前世の記憶も全部無いですが一応自分が肉体を持っていたという記憶は何となく覚えています』
今、私は男に取り憑かれいることが分かった。そう、分かったからには聞くことは1つ。
『かっこいいの?あんた』
そう、まずはルッキズムの権化とも言われる私からの二個目の挑戦状!もしこれでイケメンと書いたら自意識過剰のブサイク認定。もしこれであんまりかっこよくないと書いたら自分に自信の無いブサイク認定。さぁ、どうでる。
『お前、これ何書いても酷いこと言われるの確定じゃないか』
そうか、心が読まれているのか。でも実際キモイおっさんに取り憑かれいると考えたら私の体が悲鳴をあげちゃう。自分のこれからのために聞くのは当然の義務だと思う。
『ていうか急にお前とか言ってきたな』
こいつ失礼だぞ、女性に対してお前とか。もうちょい礼儀というものを知らないのか。
『はい、減点、これでキモイおっさんだったら体から出てってもらうからおっさんに心見透かされてるとかキモー、ホラーじゃんホラー』
『キモイおっさん可哀想!!』
『私はそうは思いません!!』
こいつキモイおっさんを庇うってことはキモイおっさん確定じゃないか。あーもうめんどくさい。
『じゃあ自分の姿書いてみてよ』
日記のページを1枚破り、机の上に置いた。
『もう夜遅いから寝る!』
私は布団を被り目を瞑った。
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