今日も、一杯は、仕事の後に

星咲 紗和(ほしざき さわ)

本編

陽が落ち、空がオレンジ色に染まる頃、今日の仕事がようやく終わった。工場の一角で箱を折る単純作業をこなしていた私は、背中を伸ばし、大きく深呼吸をした。疲れは確かに感じるが、それ以上に手応えがある。毎日が挑戦だ。箱を折る作業は簡単そうに見えるが、実は奥が深い。効率よく、正確に、そして美しく仕上げるためには、コツと経験が必要だ。


日々の作業の中で、理解に苦しむことも多々ある。新しい技術や改善策が導入される度に、その習得に苦労する。だが、それが私にとっては、やりがいの一つだ。終わる度に、少しずつだが確かな達成感が胸に広がる。


「真面目にコツコツ取り組むことが自分の強みだ」と私は自分に言い聞かせる。しんどい時もある。体が疲れ、心が折れそうになることもある。それでも私は、この仕事が好きだ。箱を折る、このシンプルな作業が、自分に合っていると感じるのだ。


仕事終わりに向かう先は、工場の休憩室。そこにある冷蔵庫から、毎日決まってぶどうジュースを一杯注ぎ、口に運ぶ。濃厚な甘さと程よい酸味が、一日の疲れを一瞬で癒してくれる。そして、机の上に置かれたお菓子の中から、今日はクッキーを選んだ。サクサクとした食感が心地よく、至福のひとときを演出する。


「今日も無事に終わったなぁ」とつぶやきながら、ぶどうジュースを飲む。その時、隣に座っていた同僚の田中さんが、笑顔で話しかけてきた。


「お疲れ様!今日も箱折り名人ぶりを発揮してたね。」


「いやぁ、そんなことないよ。ただの箱折りだし。」と照れ笑いを浮かべる私。


「でも、あの正確さと速さは見事だよ。いつか箱折り選手権に出場してみたら?」田中さんは冗談混じりに言う。


「箱折り選手権って、そんなのあるのか?」と笑いながら答える。


「いや、ないけどさ。あったら絶対に優勝だよ!」田中さんの冗談に、私もつい笑ってしまう。


仕事終わりのこの時間が、私にとって何よりの癒しだ。明日もまた仕事に向かうために、家に帰ったら静かで安らかなひと時を過ごすことを心に決める。温かいお風呂に浸かり、好きな本を読みながら、ゆっくりと体を休める。それが私の毎日のルーティンだ。


「また明日も、頑張ろう。」私は自分にそう言い聞かせ、休憩室を後にした。工場を出ると、夜風が心地よく、星空が広がっていた。明日もきっと、同じように箱を折り、同じようにぶどうジュースを飲む。そして、その日一日の達成感を味わうだろう。


そんなシンプルな日々が、私の幸せなのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今日も、一杯は、仕事の後に 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ