せっかくだからカレーでも。
青蛇でれら
第1話
「寒っ。」
コタツから出られない。特に面白い訳でもないバラエティ番組をダラダラと観ている。
30歳独身。恋人なし。結婚?興味なし。
冬はコタツが恋人。
こんなズボラ女の家を訪ねてくる人など居やしない。
「ピンポーーン!!」
なんだって?! こんな時間に……何かの勧誘か……?そーっと足音立てずに……玄関ドアの穴をのぞく。
「なんだー。お姉ちゃんか。」
「どうしたの?こんな時間に……」
「ちょっと聞いてよ典子!」
どうせ旦那の愚痴でしょ。
1時間半が経った。
家庭の愚痴を散々聞かされ、疲弊した私は腹が減った。
「ねぇせっかくだからカレーでも食べない?」
「カレー……そういえばさぁ!」
「まぁまぁ。腹が減っては戦は出来ぬ。カレー食べよう。作り過ぎちゃってさ。」
「これ……」
そういえば姉は鍋を抱えてウチに来た。
もしかして……?
「カレー……」
「え!?」
「グリーンカレーだけどね…」
「えっいいじゃんグリーンカレー!私グリーンカレー食べたい!」
「旦那は普通のカレーが食べたかったみたい……」
「じゃあ私は典子が作ったカレー食べようかな。」
その晩は予期せぬカレーパーティーになった。
「このグリーンカレー本格的じゃん!トロリとしたナスとシャキシャキのタケノコがたまらなーい!」
「辛いけど、まろやかだし何入ってるの?」
「ココナッツミルクがたっぷり入ってるから、まろやかになるの。あとナンプラーとバジルも入ってる。」
「なるほどー。こんなに手が込んでるのに、食べてもらえないと、ちょっと寂しいね。」
「でも旦那の気持ちも、少し分かった気がする。あんたの作ったカレー実家の味がする。なんかほっとするわー。」
「豚肉と玉ねぎが甘くて美味しい。」
「私達 、大人になったんだね……」
「実家の味が懐かしいなんてさぁ。」
そう言ったお姉ちゃんの横顔は少し寂しそうだった。
「私はまだまだ大人になれてないけどね。お姉ちゃんは結婚して母親やってて偉いよ。」
「結婚して母親になっても大人になれたとは限らないのよ。」
そんなものなのかなぁ…
「でも今日は来て良かった。作った甲斐があったよ。」
「また作ってよ。グリーンカレー。」
「妹が食いしん坊で良かったわ。」
「まぁね。」
みんなそれぞれ事情を抱えている。
そしてみんなそれぞれカレーの味も違う。
心も身体も温まる。そんな夜だった。
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