【ASMR】迷い猫耳メイドを拾ったら、大の世話焼きさんでした

東夷

第1話 おはようございますにゃ

――――鏡の前で身嗜みチェックするネコット。


♪ ふにっ、ふにっ。

(尻尾が揺れる音)


「襟に、リボンにボタン……すべてオッケー! ブリムも曲がってない。それじゃあ、今日もはりきって行きましょう」


 部屋を出ると上機嫌で鼻歌を歌う。


「ふんふふ~ん♪ 今日もご主人さまにご奉仕するですにゃっ!」



――――主人公の部屋の前。


♪ トントン、トントン。

(主人公の部屋のドアを叩く音)


「ご主人さま、おはようございますにゃ。あっさですよぉ~」


 声掛けの後、数秒、間を置く。


「おっかしいにゃあ……ご主人さま、失礼しますね~」


 ガチャリ♪


 ドアを開けてネコットがご主人さまの部屋へ入る。


「やっぱりまだ寝てたにゃ」


 ベッドの傍まで来て、主人公の顔を中腰で覗く。まったく起きる気配のない主人公の顔を見て、吐息混じりの声で囁く。


「起きてるときは大人の男性なのに寝ていると子どもみたいにかわいいご主人さま……」


 乱れた布団を直す。


 寝顔を一歩引いて、眺める。


「一生懸命働いて、とっても疲れてるのに昨日の晩も私に付き合ってくれてごはんをいっぱい食べてくれたにゃ。疲れていても愚痴の一つもこぼさないご主人さまと過ごしていたら、もっともっとご主人さまのお力になり、ご奉仕したいと思うにゃ」


 じーっと主人公のことを見つめていたが、ふと時計に目をやると起床の時間になっていた。

 

「ああ、もうこんな時間。そろそろあれで起こしちゃいますか!」


 なにかを閃いたときのように両手を合わせたあと、主人公の側に寄り、耳へと吐息を吹きかけた。


「ふーっ、ふーっ……ふーっ、ふーっ」


 主人公の耳に息を吹きかけて起こそうとするが主人公は寝返りを打つ。


「おっかしいにゃ、だったらこっちにも。ふーっ、ふーっ」


 懲りずにネコットは反対の耳に吐息を吹きかける。ようやく目を開けた主人公に満面の笑みで挨拶。


「おはようございますにゃ、ご主人さま!」


 主人公に誉められて、照れる。


「今日も目覚ましありがとうだなんて、そんな当たり前ですよ。私はご主人さまのメイドですから。と言っても見習いなんですけどね」


 笑い合っていたが主人公は時計を探して焦る。そんな主人公を見たネコットは答える。


「うふふ、ご主人さま。まだ7時ですよ」



――――主人公が寝間着で洗面台の前に立つ。


「はい、どうぞ。歯ブラシの上に歯磨き粉を半分ほど出しておきました」


 主人公は、ネコットが主人公の趣向を把握していることに驚き、ネコットにお礼を告げる。


「そんなスゴいだなんて。私なんてぜんぜんスゴくないですよ、先輩たちに比べたら……。よく覚えているのは、やっぱりご主人さまのことが気になってしまってついつい見ちゃうんです。私の視線が気になるようでしたら、止めておきますが……」


 主人公は歯ブラシを加えたまま、首を横に振る。


「えっ、私に見られるとうれしい? 職場でも最近ちょっと格好良くなってきたって噂されてる? それもこれも私のおかげだなんて、ご主人さまはとってもお世辞が上手いんですね」


 ネコットは小声で独り言を呟く。


「でもご主人さまが他の女の子にモテちゃうとうれしいけど、ちょっと悲しい。ううん、私はご主人さまのメイドだから……」


 主人公が首を傾げたことに気づいて、ネコットは苦笑いで話を流す。


「あははは……なんでもないですにゃ。次はひげ剃りですよね。シェービングフォームをお塗りいたします……えっ、それはご主人さまでされる? せっかくご主人さまに触れられると思ったのにちょっと残念です。あははは、なんでもないです」


♪ ヴィーン。

♪ バシャバシャ。

(ひげ剃りの音が止み、顔を洗う音)


 主人公が顔を上げると絶妙なタイミングでネコットが差し出す。


「はい、タオルです。すっきりされましたか? えっ、太陽の臭いがする? はい! 最近とても天気が良くてお外に干すととっても気持ちいいんですよ。取り入れてしばらく経ってもぽかぽかしてますから。お顔を拭いたタオルは洗濯かごに入れておいてください。また洗っておきますね」



――――主人公の部屋。


 遅れて入ってきたネコットはスーツとシャツを手に持っている。


「お着替えご用意いたしますね。シャツにアイロンをかけさせてもらったんですけど、本当にこちらの世界の道具は便利ですね。コンセントというのでしょうか、そちらに差しておくだけですぐに使えちゃうんですもの。私たちのところでは豆炭に火を入れて、それをアイロンに……あはは、ごめんなさいにゃ……私がずっといたら、ご主人さまはお着替えできませんよね。お着替えが終わったらリビングへ来てください。朝ご飯がご主人さまに食べられたいって待ってますから」



――――リビング。


「にゃっにゃにゃ~ん♪」


 主人公が着替え終わり、リビングへ行くとネコットは鼻歌混じりでキッチンで炒め物している。主人公が席についたと同時に炒め物をお皿に乗せて、主人公の隣へと寄る。


「こちらではフレンチトーストって言うんですね。卵に牛乳、バターがた~くさんあってびっくりしました」


 ネコットは主人公がトーストを口に運ぶ仕草を上目遣いで不安げに見つめる。主人公が一口、二口と食べ進めて行ったところで、ネコットに美味しいと声をかけた。


っぺが落ちそうなくらい美味しい? 良かったですぅ、ご主人さまのお口に合わなかったらと不安でいっぱいで……」


 コンコン♪


 ネコットは茹でたまごを手に取ったあと、主人公に渡すが殻の裂け目から、汁が出てくる。


「ふぇぇーーっ!? 卵が固まってないなんて、どうしようどうしよう。えっ、温泉たまご? お醤油を少し垂らして……食べると美味しい? あ、ありがとうございます、ご主人さまは私のミスを庇ってくださるお優しいお方ですにゃ!」


「お芋さんとベーコンがあったので一緒に炒めてみたんです、それとお野菜もサラダにして……。ふにゃ!? ご主人さま、どうされたんですか? そんな泣いちゃうなんて。そんなに私のお料理が不味かっ……えっ、いつもはゼリーか、カロリーバーのどちらかしか食べてなくて、私の朝ご飯に感動されたんですか? はい、でしたら毎日お作りいたしますね」


 主人公が途中でフォークを持つ手を止め、ネコットに訊ねた。


「私ですか? 私はご主人さまがお仕事に行ったあとにいただきます。お気持ちはスゴくうれしいんですけど、やっぱり私はメイドですから。ご主人さまに美味しいって言ってもらえるだけでお腹いっぱいになります」


♪ ぐう~。

(ネコットのお腹が鳴る音)


「あはあはははー……お腹鳴っちゃいました……ふぇぇ~ん、格好つけたつもりがダメダメですね。えっ、ひと切れもらってもいいんですか? あ、ありがとうこざいますにゃ! ご主人さまの手からもらえるなんて、私……とってもうれしいです。あ、あ~ん、ですか!? あ、はいっ」


 少し咀嚼の間を空けて、


♪ ゴクリ。

(ネコットの嚥下の音がした)


「私が作ったものなのに、ご主人さまからいただくとより美味しく感じられちゃうの、なんか不思議です。今度は私がご主人さまにあ~んする番ですね。あれ? いまはいいんですか、そうですか……」


 残念そうにするネコットだったが、次こそはご主人さまに「あ~ん」する機会を女豹のように狙うつもり。



 食事を終えた主人公は手を合わせ、ネコットに謝意を伝える。


「私のおかげで……時間を有意義に過ごせてる気がする? そ、そんなぁ……私なんてなにもできないですからぁ……そうやってご主人さまはすぐに私をおだててくるんですから!


♪ ふりんふりん。

(猫の尻尾が揺れている音)



――――玄関にて。


「行ってらっしゃいませ、ご主人さま。えっ? 会社に行くのは憂鬱だけど、私にお世話してもらって見送られるのは楽しみで仕方ない、ですか? あ、はい、ありがとうございます! ご主人さまにそう言ってもらえて励みになります」


 ネコットにスーツのジャケットを着せてもらい、鞄を手に取った主人公は家を出ようとする。


「ご主人さま、こちらをお忘れですよ」


 布に包まれたランチボックスを主人公へと渡す。ランチボックスを受け取った主人公はホルホルし始めた。


「私がお世話になる前まではコンビニ弁当で済ませていたから、うれしくて感動されちゃつたんですか……大丈夫ですよ、慣れるまで私がお渡ししますから」


 主人公はぼそりとある一言を呟く。それを拾ったネコットは一瞬なんのこと分からなかったが理解が進むと慌てる。


「愛妻弁当? ふ、ふにゃあぁぁ! そ、そんな……ご主人さまが私の旦那さまになるだなんて……そんな、そんな、は、恥ずかしい……は、早く会社に行かないと遅れちゃいますよ」


♪ カチャリ。

(玄関の鍵を閉める音)


 ネコットは主人公の背中を軽く押して送り出し、玄関の鍵を閉めたが恥ずかしさのあまり、玄関で膝から崩れて座り込んで一言。


「ご主人さまと私がそんな夫婦だなんて……ふにぁぁぁ……本当にそんなことになったら、し、しあわせかもにゃぁぁ……」


♪ ふにっ、ふにっ。

(尻尾が左右に揺れる音)

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