第24話 婚約パーティー②
「地味で愚図でのろまなお前が王太子殿下からの寵愛だなんて受けられるはずがないんだ……!」
両親からの言葉と、レアード様に妾にしてくれと必死に頼み込む令嬢達のプライドをかなぐり捨てた姿が私の身体全てを刺してくる。
なんで? なんでこうなってしまうの?
貴族令嬢達はレアード様に抱き着き、放してくれない。その姿は見るだけで吐き気がする。
「確かにラディカル子爵家から王家へ嫁ぐ者が現れるというのは……ラディカル子爵家全体からすれば名誉な事だがお前には務まらんと言っているんだ」
「そうよ、あんたには目立ってほしくないだけなの。あんたにはお似合いの嫁ぎ先があるんだから」
「レアード様! お願いします!」
「レアード様、1回だけで良いから私を抱いてーー!」
ああ、もう嫌だ。何もかもが嫌になってしまう。やっぱり私は誰からも愛されないの? 色んな人から嫌われてしまうの?
絶望と言う名の黒い靄が私の頭と胸の中を覆い尽くそうとしていた時だった。
「俺にはメアリーだけでいいんだ! メアリーを傷つける者は容赦しない!」
レアード様の大きな声に、貴族令嬢達や両親、更には弟達や周囲にいた関係ない客達までも肩を跳ね上げて驚きを見せる。
「……まずはラディカル子爵夫妻。メアリーは俺の婚約者である事に変わらない。そこまでメアリーが俺と婚約する事が不満なのか?」
「ええ、はい!」
「はあ……お前達が俺に歯向かおうとしている事はよくわかった。ラディカル子爵夫妻は不敬罪適用により謹慎処分といたす。当主代行はマルク、お前に任せる」
両親への謹慎処分が言い渡された瞬間、会場内は瞬く間に冷え切った。両親は目をぱちくりと、口をぱくぱくとさせながら慌てふためいている。いい気味だ。
「お、お待ち下さい! そ、その……!」
「待つものか。衛兵、ラディカル子爵夫妻を会場から追い出せ。マルク、後で当主代行の証明書を発行する」
「は、はい……王太子様」
両親は近くにいた衛兵達により捕縛され、婚約パーティーの会場から追い出されてしまった。離して! くらいしかろくな抵抗も出来なかった両親。本当に哀れでならない。
「そして令嬢ども。残念ながら俺は妾は持たない。今からお前達の嫁ぎ先を決めてやるからそれで手を打とう。勿論俺と王家の者とマルクとイーゾル以外でな」
貴族令嬢達は目を丸くさせながらも、この語に及んでまだ期待の表情を浮かべていた。
「ではまずはキーン伯爵令嬢、お前はジーナヴィス子爵家へ嫁いでもらおうか」
「……! ひっ。そ、そんな……!」
キーン伯爵家は王宮からわりかし近い所に領地があるけれど、ジーナヴィス子爵家は国境近くに領地がある。なので言い方は悪いがド田舎だ。
それにジーナヴィス子爵の性格は勇敢で勇ましく武勇にも優れてはいるが、とにかくひげ面のむさくるしい男で体臭がきつく、太っているというのもあって容姿面では下の下である。
どこぞの貴族令嬢によって作られた結婚したくない貴族男性ランキングでは3位に入っていたか。
「そしてソグテス侯爵令嬢、お前はザナ子爵家へと嫁いでもらおう」
「嫌ですっ! あんなジジイ……はっ」
彼女が途中で気まずそうに口を閉ざす。どうやら彼女の目線の先には、ザナ子爵がいたようだ。
「彼は妻を募集しているし、パーティーにも来ているから丁度良いぞ?」
「……っ」
ザナ子爵は62歳になるおじさん……いや、おじいさん。まあ性格自体は優しくて穏やかなのだが、ややセクハラ癖のあるところがあり、若い貴族令嬢達からは嫌われている存在だ。
それにこれまで3度結婚しているが、いずれも妻は病気や事故などで亡くしている事から「呪いの子爵」などという異名や噂がまことしやかにささやかれている存在でもある。
その後もレアード様は言い寄って来た貴族令嬢達へ次々と嫁ぎ先を紹介していった。
「王太子からの命令だ。貴様達の屋敷と嫁ぎ先の屋敷にそれぞれ手紙を送るからそのつもりで。逃げ出すなどという考えは捨てろ。良いな?」
「はい……」
めでたく嫁ぎ先が決まった貴族令嬢達は、失意の表情を浮かべながらレアード様の元から去り、半数近くはそのまま会場を後にした。さっきのザナ子爵との結婚が決まった侯爵令嬢は早速ワインを持ったザナ子爵から言い寄られているのも見えた。
「レアード様……」
「すまないな、メアリー。俺はお前を愛している」
大勢の人の前でも構わず、まるでガラス細工を触れるような手つきで私をそっと抱き寄せて唇を重ねる。唇が重なった瞬間、大きな歓声がわっと沸き上がった。
「まあ、やっぱり仲がよろしいのね!」
「王子にも期待が出来そうだ!」
ちょっとだけ恥ずかしさもあるが、こうして私へ愛を伝えてくれる事はとても嬉しかった。そして今までで一番の胸の高鳴りを覚える。
私はレアード様を愛している。レアード様のそばにずっといたい。たまらなく彼を愛している。
彼への愛の言葉が、とめどなく身体の底から湧いて出てきては止まらない。
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