第18話 婚約を認めぬ両親
「屋敷に帰るよう伝えよ。会えぬと言え」
レアード様はきっぱり私の両親とは会わないと告げた。私だって会いたくないのでこの判断は正直嬉しかった。
「かしこまりました」
使用人はそう言ってバタバタと部屋から出て行った。
「あの者はメアリーとの婚約を心の底から認めていないからな。不敬な者達に会う時間は無い」
(きっぱり言った!)
しばらくすると先ほどの使用人が慌てふためきながら戻って来る。
「王太子殿下がダメならメアリー様と会わせてくださいとおっしゃって……」
「会わさぬ。俺の大事な婚約者をそのような不敬な者達には会わせたくない。会いたいなら娘の婚約を祝ってからにしろ。と言え」
「か、かしこまりました……!」
うん、レアード様は明らかにお怒りのご様子だ。
(圧が怖い。正直両親なんかとは比べ物にならないくらい怖い……!)
だが、またしても使用人は慌てた様子でこちらへと戻って来た。もしかして会ってくれるまで帰らないと駄々をこねてるんじゃないだろうな……。
「会わせてくれるまで帰らない! と仰せで」
(やっぱり!)
やっぱり駄々をこねているようだ。そんなに私がレアード様と婚約したのが気に食わなかったのか?
『王太子殿下との婚約おめでとう。私としては誇らしいがお前に王太子殿下は荷が重いのも事実だ。ウィルソン様との婚約はとても良い話だったのにもったいないと言わざるを得ない』
『女官だなんて辞めて早く実家に戻って来るように。再婚相手は私が探しておく 父より』
脳内ではあの父親からの手紙の内容がはっきりと映し出されいている。一応は婚約おめでとう。や誇らしいが。とは記されていたがこれは形だけのものなのが改めて理解できた。
(本当に私とレアード様との婚約が納得いかないのね……! 女官の身分で婚約するのも気に食わないって感じなのかしら)
私の隣ではレアード様がはあ……。と大きなため息を吐いていた。そして私の方をちらりと見ると使用人へと目線を向けた。
「わかった。俺が出る。メアリーはここにいるんだ」
「レアード様、よろしいのですか?」
「相手するのは俺だけでいい」
レアード様はすっと立ち上がり、使用人と部屋にいた侍従を従えて出ていった。部屋には私と別の女官と侍従合わせて3人だけとなる。
「……」
(ちょっと心配だから……遠くから見てみようか)
という事で私は侍従と女官と共にこっそりとレアード様の後をつけていった。
ーーーーー
「王太子殿下! 待っておりましたよ!」
壁に隠れて聞き耳を立てていると、父親の大きな声が響き渡って来た。
「ラディカル子爵、俺は忙しいんだ。それほどの急用には思えないのだが……手短に話してくれるか?」
「わが娘と婚約を結んだ事。これを撤回してほし」
「断る」
断る。という氷の如く冷気と殺気を孕んだレアード様の声が聞こえてきた。こっそりと見ていると両親は完全にレアード様に圧倒されているようだ。
「お、王太子殿下……!」
「聞こえなかったのか? メアリーは我が婚約者だ。事後報告になってしまった事については謝罪する。だが、婚約破棄はするつもりはない。以上だ」
「お、お待ちください! 殿下!」
「なんだ? まだ話したい事でもあるのか? こちらは忙しいんだ」
「その、我が娘はまだまだ至らぬもので……その足手まといな娘です。ですから……」
「何が言いたい?」
「婚約を! 撤回して」
「断ると言っているだろう!!」
レアード様の怒号がびりびりと響き渡る。まるで雷がすぐ近くに落ちたかのような衝撃だ。
「もういい。帰ってくれ」
レアード様がこちらへと早足で歩いてくるので私達は慌てて部屋へと戻った。両親の声は響いて来ない。という事は無言。すなわちレアード様の恐怖に屈したという事だろう。
(はあ……)
部屋に戻って数秒後にレアード様が戻って来たので、私は何も見てなかったという顔をしながら彼を出迎えた。
「レアード様、ご迷惑をおかけしました……」
「いや、大丈夫だ。メアリーが謝る必要はない。さあ、仕事に戻ろう」
レアード様はそう言って、椅子に座り、書類を両手に持ってあれこれ仕分ける作業を再開したのだった。
ーーーーー
俺はメアリーの事ならほぼ何でも把握している。両親からは優秀な弟2人と比べられ心無い扱いを受け、そしてフローディアス侯爵とは夜を共にする事も会話もろくになかった事を。そしてアンナとかいう虫がメアリーを陥れようとしている事だって把握している。
なぜここまで把握しているのかと言うと、王家の諜報部隊のおかげだ。
(彼らの仕事ぶりには恐れ入る)
諜報部隊はある大仕事をやってのけた。それはメアリーの誘拐そして女官への応募である。メアリーを誘拐しフローディアス侯爵へ身代金を要求。そしてメアリーに女官として就職するように促した。
勿論想定通りメアリーは女官へと応募してきたので、即合格を出したのだ。
俺はメアリーを守る為なら悪にだって手を染める覚悟は出来ている。だからあの両親が今度メアリーへ何かを仕掛けてきたらその時は強引な手に打って出る覚悟も出来ている。
メアリーは俺が必ず、幸せにしてみせる。
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