第13話 襲撃

「! メアリー!」


 私の右隣に座っていたレアード様が、私の身体を抱き締めて周囲を警戒する。


「レアード様……!」

「……戦える者は少ないか。メアリー、ここで身を隠せ」


 もしかしてレアード様も戦うつもりなのか? レアード様が武術に優れているのは聞いているが、いくらなんでもそれは危ない……!


「レアード様! 危ないですよ?!」

「いや、戦える者がいなければ窮地は脱せられない。安心しろ、必ず生きてもどる」


 レアード様はそう言って勢いよく馬車から飛び降りた。私はしゃがみ込み、頭を手で覆う。そして目を閉じた。


(とにかく無事に……!)


 今、レアード様の身に何かあっては困る。私は必死に祈りを捧げた。

 外からは剣と剣がぶつかりあって生じる金属音と、肉と骨を断つ鈍い音、そして怒号が飛び交い続ける。肉と骨を断つ音がレアード様の肉体から発せられていないのをただただ祈る。

 そして気が遠くなるくらいの時間が経過した時だった。


「メアリー!」


 レアード様の声だ。私は目を開くと、血だらけのレアード様がそこにはいた。

 

「レアード様……! ご無事ですか?!」

「心配するな。全て返り血だ」


 にかっと笑うレアード様に私はようやく心の底から安堵の気持ちを浮かべる事が出来たのだった。


「良かった……良かった……!」


 気がつけば私の目からは涙が溢れていた。


 盗賊は全員捕らえられるか殺されるかして、王宮近くにある刑務所行きが決まるまでの罪人の仮収容所に入れられた。


「メアリー、取り調べが終わったよ」

「お疲れ様でございました。して、結果は?」

「どうやらナイタル伯爵に指示を受けていたようだ」


 取り調べの結果、彼らは盗賊ではなくナイタル伯爵から指示を受けた無職の浮浪者達である事が判明した。


「なぜ、ナイタル伯爵が……?」


 ナイタル伯爵は一言で言えば地味な伯爵。王家へ反抗するようには見えない。 


「それはナイタル伯爵に取り調べを受けてもらわなければ分からない。今から王宮へ来るように指示を出す」

「そうですか……」

「メアリー、すまないがお前は自室にいてほしい。何があるかは分からないからな」

「わかりました……」


 それから夜。王宮の王の間にて行われたナイタル伯爵との問答を夕食中にレアード様から聞いた。


「ナイタル伯爵は知らないと言うばかりでな」

「そうだったんですか?」

「ああ、だがナイタル伯爵付きのメイドは俺達の婚約パーティーを妨害しようという計画があったと漏らしたんだ」


 だが、この婚約パーティーの妨害計画は証拠が見つからなかった。なんなら今回の襲撃を主導したという証拠も見つからなかった。

 その為、ナイタル伯爵は罪には問えず彼はそのまま伯爵家の屋敷に返されたのだった。


「結局証拠は何も無かったのですね」

「ああ、そうだな……」


 今食べている鹿肉のステーキが、少しだけ苦くまずく感じられた。


 結局、私達の婚約パーティーは国王陛下の判断により無期限の延期となってしまった。その為準備も取り止めになったのは少しさみしい。

 レアード様の婚約者としての仕事以外にも女官としての雑務に励む日々が続いていた日。


「メアリー様、お手紙が届いております」

「ありがとう。受け取るわ」


 手紙は2通、1通目は弟のマルクからだった。マルクはラディカル家の跡継ぎで、イケメンで優秀な人物。母親からは可愛がられ、父親からも可愛がられていた。

 まあ、父親は可愛いだけではなく嫉妬の感情もあったみたいだけど。


『メアリー様、王太子殿下との婚約おめでとうございます。弟としてとても誇らしく嬉しく思います。末永くお幸せに暮らせますようにお祈りしています』


 さすがよく出来た弟だ。両親から溺愛されてきたけど性格は至って善人で、困っている人がいれば手を差し伸べるまさに理想的な貴族令息。


『追伸 イーゾルは最近童貞を卒業しました。とはいえ相手の令嬢と結婚する予定は無いそうです。女遊びが激しいのは良くないと僕からも伝えてはいますが、姉さんからも伝えておいてくれませんか?』


 イーゾルは私の弟で次男もとい末っ子。彼もまたイケメンで優秀な人物なのだが……。まさかこのような事になっているとは。まあ元々おちゃらけたとこはあるっちゃああるけど。

 トラブルになっては困るし、女遊びは程々にするように手紙に書いておこう。


「もう1枚が両親からの、か……連名だけど書いているのはお父様でしょうね」


 どうせろくな事は書いてないだろう。でも、心の底に期待している自分がいるのも確かだ。

 散々裏切られてきた癖に、諦めが悪い女だ、私は。


『王太子殿下との婚約おめでとう。私としては誇らしいがお前に王太子殿下は荷が重いのも事実だ。ウィルソン様との婚約はとても良い話だったのにもったいないと言わざるを得ない』


 はあ、父親のめんどくささが手紙から露骨に醸し出されている。婚約おめでとう。だけで良いのに。


『女官だなんて辞めて早く実家に戻って来るように。再婚相手は私が探しておく 父より』

(めんどくさい……)


 父親への返信内容も思いつかないしむしろ書きたくない。私はマルクだけに返信を書くのだった。

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