イマジナリーフレンド
ボウガ
第1話
精神的におかしくなり亡くなった子供の“成仏”を手伝ってくれと妙な事を言われたAさんは、Bさんとカフェで待ち合わせた
「で、その子は亡くなったのか?精神的におかしくなったせいで?」
「ああ、そうらしいんだ、俺ももうすぐ死んじまうからさ、人のためってわけじゃないんだ、ただ、あの人をそのままにしておくわけにもいかない」
末期がんで苦しいからだを引きずって、Aさんの親友Bさん、Aさんの息子Dさんはともに、Bさんのアパートに尋ねていった。しかし、その奇妙な目的をしって、上階の人間は納得するだろうか?Aさんは疑問だった。
「まあ、この子も友達ができなくてなあ、引っ越してきたばっかりで、手を合わせることくらいしかできないぜ、幽霊を連れて帰ることだって」
「ああ、まあそこまでは求めないさ、ただ、手を合わせてくれるだけで」
アパートの階段をのぼりながら2階の一番奥、203へ。そこは彼の部屋ではなく、103、つまり彼の部屋の真上に位置する部屋だ。
Bさんは、上階のCさんとそこそこの間柄だったようだ。体の関係もあるし親しいが、はっきりと恋人同士だと認識したことはない。その奇妙さは、まず出会いからだ。
「子供の足音がうるさい」
そういって、BがCさんに文句をいいにいってからのことらしい。だがBさんが詳しく尋ねると、子供はすでに亡くなっているという。そこから奇妙なやりとりがはじまり、同情から彼女の話を聞いているうちに仲良くなったのだそうだ。
「あら、初めまして」
「はじめまして、Cさん、Bの友人のAです」
「はいってはいって、Bさんも、お子さんもこんにちは」
「こんにちは、おじゃまします」
奥へ通されるとリビングの小さな机にお茶を出された。息子は何かを恐れているようにびくびくとしている。
「大丈夫だよ、お父さんの友達なんだから」
「とも……だち」
まだ小学二年生の息子は、まえの学校で喧嘩をしたらしくひどく落ち込んでいた。独りぼっちになり、いじめほどひどくないものの、居心地が悪くなり学校を休みがちになったため、気分転換にと選んだのがこの町、そのひとつはBさんの家が近いからでもあった。
しばらくお茶菓子を食べながら話をしていると、突然 Bさんは苦しそうに胸を抑えている。
「大丈夫か?」
そう声をかけると、まるで決意をかためるように右手のこぶしを強くにぎって、いった。
「ああ、そう、だからさ……急がないと」
彼の言うように準備をした。本来ならこんな事に息子を巻き込みたくはない。だが、息子は見ているだけでいいというので、つれてきたのだ。
「それで、Cさんの息子さんはその奥に?」
和室に彼の幽霊が出る、そう聞かされていた。霊能者などを頼ってもやはり、和室が怪しいという。Bさんの願いは、Cさんの子どもの成仏である。
「ええ……」
Cさんはうつむいて、変わりにBが答える。
「あの子は、そう“精神的な問題が原因で亡くなった”それから彼女は疑われて拘置所にいたこともあった、すぐに釈放されたがな」
「こっちへ」
隣の和室に通されると、なんだか、部屋が暗いきがした。それに違和感がある、よどんだ空気が重くのしかかるような、なにか、部屋が作為的に散らかっている気がする。それに薄暗くよくみえない。昨日仕事がいそがしかったせいか、足がふらつく。みると、ろうそくの明かりが照らされた一角があり奥にはお仏壇があって、その中央に子供の写真があった。
「手を合わせていいですか?」
「まだ早い!!!」
突然、Cさんが叫んだ。
「ああ、ごめん、さっきもいっただろ?彼女は精神的な問題を抱えている」
「ん?さっき?彼女が・」
疑問に思ったが、相手はその疑問に答える様子はなかった。それにあの遺影、違和感がある。見覚えがあるような。自分の子供時代?いや、そんなわけは。
そこで、奇妙な儀式が始まった。こっくりさん用のシートを取り出した二人がこっくりさんをはじめ、息子とAさんはそれを眺める。ふと、奇妙な勘がはたらき、息子にこっそり部屋の外にでるようにいった。その時、部屋の隅に息子を隠しているポーズをとるように、上着をまるめて、隅で様子を眺めた。
「こっくりさんこっくりさん……」
二人が言葉を繰り返すと、相手も返事を繰り返しているようで、文字を一つ一つなぞっている。しばらくすると、二人がじーっとこちらを見ていることに気がついた。
「子供はどこだ!!!!!」
突然Cさんが叫んだ。Bさんもこちらによってきて、上着をとって、子供がいないことを確認して激高した。ただ、その背後でCさんがさらに叫んだ。
「やめてはいけない!!やめてはいけない!!」
Bさんはすぐにこっくりさんの元に戻る。こっくりさんは、帰ってもらうまで硬貨から指を話してはいけないはずである。すぐにBさんがもどっていく。正らぬ気配と、異常な様子のBさんにAさんは腰を抜かした。そうだ、と思い扉の近くへと急ぐ。そこで、息子によびかけた。
「大丈夫か!?」
息子は答えた。
「お父さん、お父さんこそ大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ、お父さんはな、昔から友達をつくるのが得意だったんだ、すぐにここにいる子と仲良くなる、だからみていてくれ」
「でもお父さん……そこには誰も……」
息子の言葉を遮って彼は仏壇に進んだ。
「なあ、君がだれか、どんな子かしらないが、こんな事はやめたほうがいい、早く……」
仏壇につくと、ぎょっとした。隣の部屋との間の隙間、壁やら窓やらがすべてガムテープで閉じてある、そして、部屋の中央では、もくもくと煙を立てるものがあった。
「練炭!!」
暗くて気が付かなかったが、すでに自分の体は重く、めまいや頭痛がする、息子を巻き込むわけにはいかない。すぐに119に電話をかけたが、Aさんはそこで倒れてしまった。
「これで、一緒になれるわね、あなた」
「ああ、これで“お前の友人”もできたことだろう、決して裏切らないお前の友人も」
警察が駆け付けるまで、警察官に保護されたAさんの子供、D君は部屋の中にいた。警察官が無事を確認しようとすると、ふちむいたその顔は、以前のD君とは違って、どこかいやらしい笑みを浮かべていた。
保護されたDさんは、その後、母親とあった直後から頭を抱えて。
「ヨシ君がくる、ヨシ君がくる」
と繰り返し、事件がおわったあとも、四六時中うわごとのように語り、医者はPTSDと診断したが、薬は効かず、しばらくの療養として祖父宅にひきとられたそうだ。その後どうなったかは、誰も知らない。
残されたAさんの奥さんは、夫が亡くなった事件のことが納得いかず、探偵まで依頼して調べたそうだが、どうやら、Cさんは幼少期に受けた虐待やいじめのせいで妄想にとりつかれており、よく“ヨシ君”という人形を連れて歩いているところを近所の人に目撃されていたらしい。そして彼女には子供などはいなかったそうだ。
イマジナリーフレンド ボウガ @yumieimaru
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