26.親愛なるNへ
彼にはまだやりたい事があった
それは「物語を書く」という大それた事だった
一筋縄ではいかないその「夢」を心に据えた時彼は思うべくして思ったのである
(僕には何もないではないか)と
(それなのにどうしてこの僕に「夢」を叶えられようか)と
誰が為かあるいは己が為か
物語の主人公として彼の選んだ「道」はそのどちらでもなかった
だから答たる者は驚きを隠せず実は手に汗握る間もなく膝を折るしかなかったのである――
そこで彼の書いた物語は終わっていた
命尽きるまで書き続ける筈だった物語に終止符を打ったのは彼自身だった
すると彼は言った「ほら」と
言うが早いか眉間にシワを寄せ「言わんこっちゃない」と
零したのも束の間彼はとうとうペンを置いた
『・・・誰が為でも己が為でもない!私は貴女の為にこそ生きるのだ』
そうして手を取った「道」は奇しくも「運命」となったのである
全てを見ていたその者はただの賢者となりまた答えを探す旅に出たのだそう――
物語は書かれたがっていた
彼の始めた壮大な夢の中心人物とも言える物語には紡ぐという事しか出来なかった
知る由もない彼の苦悩も人生も実際知ったこっちゃなかった
だから物語は「ほら」と促すより外なかった
「さぁ!」と彼にペンを取るよう言うしかなかった・・・
彼が何を聴いたのかは誰にも分からない
しかし「物語を書く」という誰にでも出来る訳ではない事を彼は再び始めた
これから命尽きるまで書き続けるだろう物語たちを前にペンは強く強く握られた
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