カテ先生の秘密の授業

とくさ

朝の会 麻里子の憂鬱

 私、麻里子まりこ。英語が大っ嫌い。でも、小学校の頃の成績はよかった。ABCが言えてれば良く出来ましたって褒められたから。な〜んだ、英語なんて楽勝じゃん。そう思ってたのに、中学生になってから、I am Mariko.ナイス・トゥ・ナンチャラくらいのことは簡単にできる前提の授業が始まって全てが変わった。みんなが出来て当然みたいな顔をして話し始めてたときはとても慌てた。マズイ、どうしようって。

 勉強しようとしてもどうしたらいいか分からなくて、気づいたら定期テストが来ていた。結果は…目も当てられない点数だった。他の教科の半分も点数が取れてない。あっという間に一学期が終わった。配られた通知表を、今そっとベッドの下に隠したところだ。なんで私は英語が出来ないんだろう。他の子はみんな出来ている。あの子もその子もみんな。私だけ出来てない、落ちこぼれだ。考えれば考えるほど気が滅入ってしまう。私はもう、駄目、なのかな。

 お母さんが台所からお風呂よーと声を掛けてきた。はーいと返事をして支度をする。ウジウジ考えても仕方がない。時間は止まらないのだから。私はお風呂場がある1階へ向かった。

 服を脱いで、体を洗って、湯船に浸かる。ふぅ〜とため息が出る。お母さんに通知表のこと、なんて説明しよう。怒るかな。怒るよね。どうしよう。前を向くと、色褪せたアルファベットポスターが貼ってあった。覚えてないくらい昔からずっと貼ってあるポスター。きっと、お姉ちゃんが子どもの頃のものだ。お姉ちゃんは、私と違って頭が良くて、可愛くて、背が高くて、運動もできる。正にカンペキ人間だ。さらに英語がペラペラで、今はアメリカの大学に通っている。本当に似ても似つかない。きっと血も繋がっていないのだろう。

 ポスターの方へ体を動かして、じっと眺めてみた。明るい色で、『いっしょにアルファベット』と書いてある。両サイドには青い目をした男の人と女の人がいた。2人共、ニコニコしながらこっちを見ている。気持ちが落ちこんでいる今の私には、英語が出来ない私を嘲笑っているようにしか思えない。男の人の方は、青い目と茶色い髪に青い服。女の人は、同じ青い目に金色の長い髪、緑色の服を着ていた。その下には名前と思わしき英語が書いてある。男の人の方はTom、女の人の方は…。

「k、a、t、…e?なんて読むんだろう?」

 ローマ字読みしか分からない私は、素直に読んでみた。

「男の人の方はトムでしょ?女の人は…カテ?変な名前。」

 その瞬間、笑っていたカテの顔が急にしかめっ面になった。

「え!?」

 さらに、ポスターから白い煙が出てきて、周りを一瞬で白く覆った。

「えっ!?えっ!?」

 何が起きているのか分からない内に目の前が真っ白になり、気づいたら…。

「ここ、どこ?」

 霧の中にいるみたいだった。少なくともお風呂場では無いようだ。しかもいつの間にか、服を着ていた。学校の制服だ。段々目の前が晴れてきて、学校の机と椅子、黒板が見えてきた。

「もしかして、ここ、教室?夢でも見てるのかな…。」

「夢じゃないわよ。」

「えっ!?誰!?」

 さらに霧が薄くなり、人影が見えてきた。その人は、きれいな青い目に金色の長い髪、緑色の服を着ていた。

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