第一章

第一話 銀髪の魔法使い、時雨零夜

「…っ、クシュン!」


 窓から差し込む薄暗い光に、僕は思わず顔をしかめた。またか。いつものように鼻がムズムズする。もうかれこれ10年以上の付き合いになる、僕の日光アレルギーだ。


「はい、零夜、朝ごはんよ」


 母の優しい声が聞こえ、僕は布団から這い出した。窓際にある観葉植物に水をやり、カーテンを閉める。


「今日は学校休みます」

 僕はテーブルについた母にそう告げると、彼女は心配そうな顔をした。


「また体調が悪いの?今日は大事なテストでしょ」


「うん、今日は無理そう」

 僕はトーストにかぶりつく。いつも通りの平凡な朝。



 僕は、時雨零夜。神奈川に住む普通の高校1年生…と言いたいところだが、そうもいかない。僕は魔法を使える。それも、時魔法、火属性魔法、水属性魔法の3つを。


 両親も祖父母も魔法が使えない。どうして僕だけが?それは、隔世遺伝なんていうものらしい。


 魔法を使えるのは嬉しいことだけど、僕には大きな悩みがある。それは、この体だ。

 生まれたときから虚弱体質で、少しでも体を動かすと息切れがする。それに、日光アレルギーや喘息まで抱えている。魔法を使うのも一苦労だ。集中力が続かないし、体力がすぐになくなってしまう。

 魔法使いなのに、魔法をうまく使いこなせない。そんな自分が嫌だった。


 僕は鏡に映る自分を見た。銀色の髪は、家で過ごす日は乱れている。そして、僕の赤く光る瞳。母も父も黒髪黒瞳で、どこからこんな遺伝子が来たのか僕には不思議だ。


「零夜、どうしたの?」


 母の問いかけに、僕は我に返った。

「…いや、なんでもない」

 僕はうつむき加減に答える。


「そういえば、最近、友達と遊んでいないみたいだけど、どうしたの?」

「海音たちは、忙しいんだよ」

 僕はそう言い訳をした。


 実は、僕には親友が一人いる。幼馴染の東雲海音しののめかいとだ。海音は明るくて運動神経も良く、クラスの人気者だ。僕とは正反対の性格だけど、いつも優しくしてくれる。


「海音、今どうしてるんだろうな…」

 僕は窓の外をぼんやりと眺めた。

 魔法界と科学界が共存するこの世界で、僕は一体何ができるんだろう?

 そう自問自答しながら、僕は傘を手に取り、家を出た。




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