作家に憧れて。

霜花 桔梗

第1話 お友達になる。

 わたしは「林道 楓」青春は暗いモノであった。自分の事をダメ人間だと思い、コンプレックスの塊であった。


 所属する部活の文芸部で小説投稿アプリにアップされた小説を読む毎日であった。


 今日の検索ワードは『ラブコメ』と……。


 適度に読んでいるとプロフィールに同じ十七歳の高校生作家さんが居た。すごいなー、同じ高校生で小説をアップしているなんて……。


 私はお気に入りに登録すると、その小説を読み始める。これは面白い。私は宝石の原石を拾った気分になる。


 しかし、この『橘 美彩』なる作家さん、小説の舞台設定がこの『宮本川学園』に似ている。もしかして、私と同じ高校だったりして。アプリのファンレター機能を使って聞いてみよう。


『偶然ね、同じ高校にファンが居るなんて』


 返ってきたメールに私はドキドキが止まらなくなる。


 探そう!是非、お友達になりたい。


 私は部室棟の文芸部の窓を開けて空を眺める。平凡な人生に香ばしいスパイスがかけられた気分だ。


 家に帰ると、私は『橘 美彩』の小説に夢中になっていた。その主人公は輝いている人ばかりだ。時に世界を救い。又は、くだらないラブコメの男子に、孤独な少女の主人公の人間ドラマも書かれていた。


 私はホコリをかぶったノートパソコンを取り出すと、ノートパソコンで読む事にした。スマホで読むのがもどかしくなったからだ。それはお風呂上りにドライヤーを片手に読めるからだ。


 もしも、願いが叶うなら私は隣で泣いたり笑ったりする親友に成りたい。手がかりは同じ学年で多分女子……イヤ、決めつけるのは良くない。


 でも、プロフィールに女子高生とある。ここは女子である事を信じよう。


 さて、明日が待ち遠しい。私は冷たい麦茶を飲むと明日に備えて寝る事にした。


 朝、自転車で登校すると何もかも輝いていた。教室の時計を見ると何時もより五分早い。


 これは絶好調だ、教室の後ろで雑談している男子三人組も気にならない。友達の居ない私には簡単な雑談を聞くだけで苦痛であった。


 さて、時間もある事だしスマホで読書をおこなう。勿論、お気に入り登録してある『橘 美彩』の小説だ。私は友達が居ない分、その時間を読書にあてていた。


 いいなー、こんな綺麗な文書が書けたらどんなに素敵だろう。そんな事をぼんやりと思っていると。


 担任が教室に入ってくる。朝の連絡事項の為だ。


 よし、一日の始まりだ。今日は誰よりも輝ける自信があった。


 そして、昼休み。私は高校生作家の『橘 美彩』の何か手がかりはないかと校内を歩いていた。各階にある廊下の自習フロアでノートパソコンをカタカタしている女子を見つける。


 あれは学年トップの成績でスポーツチア部のキャプテンの『長谷川 千里』さんだ。まさに容姿端麗、文武両道の学内の有名人だ。


 私が足を止めて遠巻きに観察を始めると。真剣な表情でノートパソコンをカタカタしている。よく見ていると、時々に長考して手を止める。


 声をかけたいがノートパソコンに真剣に向き合っているので近づくなオーラが出ている。どうしていいかわからずに立ち尽くしていると。


 昼休みが終わってしまう。


 あああ、かなり、『橘 美彩』に近い存在だと思うが私みたいなゴミ生徒と世界が違う。


 少し、様子を見てから考えよう。


 季節は晩秋の夕方の放課後の事である。私は体育館で行われているスポーツチアの練習を見学していた。彼女は高校の今年の中学生向けパンフレットにも載っている有名人だ。


 そのスマートで長身な体は素早く揺れていた。素敵だ、これが人を引き付ける人物の姿か……。


 放たれる気配は一流のチアリーダーだ。しかも、成績は学年トップ。これで小説まで書いていたら完璧超人である。


 お友達になりたいがこんなダメ人間の私などと釣り合わないと落ち込む。そんな事を体育館の入口付近の黒い大きなカーテンに包まりながら考えていた。


 とにかく、必要なのは勇気だ。よし、出待ちをしよう。


 そして、スポーツチアの部活が終わり、辺りは暗くなっていた。裏門の前で長谷川さんを待っていると彼女がやって来る。


 私が正面を向くと目が合う。その瞬間、夜空にシューティングスターが現れる。私はつい『お友達になりたい、お友達になりたい、お友達になりたい』と連呼する。


「その想いは私とお友達になりたいの?」

「は、はい!」

「えへへへへ、良いよ」


 私は耳を疑ったが彼女は嬉しそうである。その場で携帯の情報を交換して私達はお友達になったのである。


 別れ際に長谷川さんはハイタッチを求めてくる。オドオドとためらっていると。


「友達でしょう、気持ち良くなる合図よ」


 私はブルブルと震えながら手を上げる。


「えぃ!」


 長谷川さんは私の手に触れるとダシュで去って行く。


 これがお友達の儀式?立ちつくす私は少し照れながら考え込むのであった。


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