二組目 狩人と格闘家

「お前は大雑把すぎる! もっと慎重に行動出来ないのか! すぐに前に出て……薬草がいくらあっても足りないだろ!」

「うるさいわね! あんたが細かすぎるのよ! だいたいさっきだってあんたがさっさと毒矢を当ててれば───きゃっ!?」


 とある男女の二人組、狩人と格闘家が素材集めのために洞窟内を歩いていた時、それは起きた。ランプの薄い光が急に眩い光を放ち二人を包み込んだのだ。驚いた二人が目を開くと見慣れぬ部屋にいた。壁も、床も、ベッドさえもピンクピンクピンク。辺り一面ピンクに染め上げられた部屋だ。あまりに異様な光景に二人が固まっていると謎の声が脳内に直接響いた。


『聞こえていますか……その部屋から出るにはセッ○ス……セッ○スをしなければなりません……それ以外の方法は意地でも認めません………セッ○スです……セッ○スは全てを解決するのです……では健闘を祈ります………あ、この部屋でセッ○スしても子は出来ない仕様ですのでご安心を……』


「「は!?!?!?」」


 脳内に響く言葉に二人は絶句した。それと同時に一つの可能性に思い至る。


『セッ○スしないと出られない部屋』


 それは冒険者達の間でまことしやかに囁かれていた噂だ。とある魔族が他種族の性交渉を見るのが三度のご飯よりも大好物で色んな種族を拐っては強制的に『そういう事』をさせている、と。


「ふざけないでよ! なんでわたしがこんな堅物で、細かくて、嫌味ったらしい男とそんな事しなきゃならないのよ!」

「それは俺の台詞だ! なんで俺がお前みたいな脳筋で、ガサツで、喧しい女を抱かないとならないんだ!」

「なんだと!?」

「なんですって!?」


 性格が正反対の二人はいつものようにいがみ合うが同時に動揺もしていた。なぜならその魔族はただ二人の男女を攫うのではなく『性交渉をしてもかまわないくらい想い合っている男女』を攫うらしいという噂もあるからだ。そしてその噂はというと──。


(こいつがわたしの事を好きなわけない……)

(こいつが俺の事を好きなわけない……)


(わたしは好きだけど!)

(俺は好きだけど!)


 当たっていた。二人は自分の気持ちに素直になれないケンカップル(未満)だったのである。


「そもそも抱くってなによ。あんたにそんな甲斐性あるわけないじゃない。ドーテーが!」


「はぁ!? 女を抱いたことくらいあるに決まっているだろう! 一夜限りの関係なんて日常茶飯事だったわ! お前こそ内心ガクブルしているんじゃないか? 生娘が!」

「はぁー!?!? ありますぅー!! あんたとコンビ組む前はそれはもうヤリまくってたわよ!!」


 両者共に真っ赤な嘘である。二人とも年齢=恋人いない歴でありお互いが初恋のピュアピュアっ子である。


(え……そうなの……)

(なん、だと……)


 しかしそんな事を知る由もない二人はめちゃくちゃショックを受けていた。性格こそ正反対だが性根は割と似ているのだ。


「……ふーん。へー、ほーう……じゃ、じゃあシましょうか。減るもんじゃないし……!!」

「そうだな。この後のスケジュールもある。無駄な時間を浪費するのも惜しい。するか」

「「……」」


 先程までの騒がしい掛け合いがピタリと止まりベッドで向き合う。二人には性交渉の経験がないためどうしていいか分からず固まっていたのだ。しかしただ見つめ合うのも照れくさかったのか格闘家は目を逸し靴を脱ぐ。


「……服は着たままでいいわよね?」

「えっ」

「えっ、て何よえって」

「いや……普通裸でするものだろ?」

「……まあそうかもだけど。着たままでも出来るでしょ。それともわたしの裸が見たいわけ?」

「見たい」

「……え」

「あ」


 普段は素直じゃない狩人だが彼はれっきとした男である。好きな女の子の裸が見たいという欲望を抑えきれず即答した。建前よりも本音が先にポロリしてしまったのだ。狩人の返答に格闘家は固まった後真っ赤になってプルプルと震えながら近くにあった枕を顔面に叩き込む。


「へ、変態!」

「へぶっ」

「へんたいへんたいへんたい!」


 裸が見たいと肯定されて格闘家は羞恥心のあまり照れ隠しに何度も変態と連呼しながら枕でべしべし狩人を攻撃する。すると逆に向こうもヒートアップしてしまったようで格闘家はベッドに押し倒された。


「っ……ああそうだ!!  変態だっ、悪いか!?」

「ちょっ、何開き直って……きゃー!? どこ触ってんのよスケベ!!」


 それから接近戦が得意なはずの格闘家は口では抗議しながらもほとんど抵抗しないまま狩人にされるがまま、美味しく頂かれたのだった。




 ◇◇◇


 


「……」

「……悪かった。謝るから」


 全てが終わった後、狩人が格闘家をおんぶする形で部屋を出た。格闘家は狩人の背中に頭をグリグリ擦りつけながらムスッとしていた。


「……ケダモノ。優しくするんじゃなかったの?」

「……す、すまん……抑えられなかった……」

「…………一夜限りの関係が日常茶飯事、ねぇ……嘘ばっかり」

「なっ……お前だってヤリまくりって言ってたくせに……!」

「わ、わたしはいいの! ……ほら早く運んでよ。誰かさんのせいで動けないんだから」

「……了解」


 口では文句を言いながらも甘えてくる格闘家に狩人は緩みきっただらしない顔を見せないよう前を向き、元いた洞窟から近場の街まで移動する。その足取りはどこか軽やかなものであった。




 ◇◇◇




 そんな二人の様子を水晶玉を通して見続けている男……元凶の淫魔キブリーがいた。


「やっぱりケンカップルの事後のしおらしい姿は格別というか不思議な栄養が詰まってますな……ぐへへへへ……それにしてもあの二人は閨では素直なタイプと……特に「やっぱり胸、大きい方がいい……?」「いや……むしろこのくらいの方が好きだ……」のやり取り最高かよ……録音しといてよかった後でリピートしよ……」


 キブリーはニチャリとキミの悪い笑みを浮かべながら先程のやり取りを思い出し悦に浸っていた。両片想いの男女の感情の機微こそがキブリーにとって何よりの御馳走なのである。


「次はどんな子達を攫うか……おねーさんとショタ……身分違いの召使いとお嬢様もいいな……水晶玉クンはどう思う?」

『特に思うところは』

「えー、ツレないなー」


 キブリーの欲望は尽きることがない。しばらくは満たされても次第に心が渇いていく。自分の性分に内心呆れながらも爛々と瞳を輝かせ次の対象を選ぶキブリーなのであった。

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