摩擦
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──摩擦
ラジカル・サークルがドラッグの小売りを始め、パシフィックポイントに
「楽しい遊びがあるんだが、どうだい?」
ルサルカの娼婦を買った客にポン引きがそう勧める。楽しい遊びとはドラッグのことに他ならない。娼婦を買った客にドラッグを売り、客はドラッグをキメて娼婦を抱く。
「新しい商品が入ったけど見ていかないか?」
ある場所ではラジカル・サークルの売人が馴染みのヤク中にそう勧めていた。
“連邦”を始めとする西南大陸のドラッグの質は決して悪くない。だが、彼らは常に“国民連合”の取り締まりの危機にさらされており、商品の質は安定しない。
だが、
パシフィックポイントのヤク中の間で『最近出回り始めたドラッグは最高』という噂が広がっていき、それがルサルカやラジカル・サークルによるドラッグ売買を加速させていった。
しかし、ドラッグ市場には既に先客がいたことを忘れてはならない。
「最近、
そう淡々と告げるのには豹人族の大男で、名をニコラス・ディアスという。
軍人のように鍛えられた肉体にタンクトップとカーゴパンツ、そしてゴールドアクセサリーといういかにもなギャングの出で立ち。
それも当然だ。彼こそがパンサー・ギャング、オブシディアンのボスなのだから。
「そのおかげで俺たちの売り上げは落ちていくばかりだ。分かってるよな?」
「はい、ボス・ニコラス」
ニコラスが集めたオブシディアンの幹部たちを見渡し、幹部たちが頷く。幹部は全員豹人族だ。大なり小なり、“連邦”のドラッグ戦争に巻き込まれ、“国民連合”に逃げた経緯がある人物ばかり。
現在オブシディアンはかなり大きなトラブルを抱えていた。
それがまさに
「こんなふざけた真似をしてくれているのは、どこのどいつだ?」
「ルサルカの連中が扱っているのを確認しました」
「ルサルカが? あいつらの商品は娼婦だろう」
「そのはずなのですが、最近になってドラッグも扱い始めたようです」
部下たちは既に調査を始めていた。
「ルサルカのほかには?」
「それが……ラジカル・サークルがどうも手を出しているみたいです」
「なんだと」
ラジカル・サークルの名が出るのにニコラスがガンとテーブルを叩いた。
「ラジカル・サークルの連中がか? 連中は俺たちから仕入れてただろう?」
「は、はい。そうだったのですが、最近は俺たちからの仕入れを減らしていて……」
「舐めやがって。クソ野郎どもが」
ラジカル・サークルは行っていた小規模なドラッグ売買の仕入れ先は、これまでオブシディアンであった。オブシディアンに高い金を払ってスノーパールやホワイトフレークを仕入れていた。
しかし、最近になってその事情が変わった。
オブシディアンに何の連絡もないままに仕入れ量は減り、ラジカル・サークルはどこから仕入れたのか
「しかし、だ。ルサルカもラジカル・サークルもどうして今になってドラッグに手を出してきた?
「ボス・ニコラス。考えられるのは、この前のドラコンが攻撃を受けた件です。あれからルサルカのボスもジョセフからディミトリに代わりました。“連合国”本国と距離が近い秘密警察上がりに」
「それで連中の方針が変わったのか?」
「そこまでは。ですが、我々との友好も大事にしていたジョセフはある意味では我々にとって都合のいい人間でした。ディミトリはやつほど我々にとって都合のいい存在ではないでしょう」
「そうか。クソめ」
まだオブシディアンもハンニバルが介入したことを把握していない。ドラコンの件はルサルカ内部の揉め事だという認識が強かった。
「俺たちが取るべき手段はふたつ」
ニコラスがやや落ち着いた様子で言う。
「ひとつ。小売りを潰す。
ニコラスの示した方針のひとつは
「もうひとつは
そして、もうひとつはこのパシフィックポイントに
「これらを並行して行う。小売りの連中はるサルサとラジカル・サークルと分かっているから、連中の売人どもを殺してこい。誰が
「了解、ボス・ニコラス」
「さあ、仕事だ」
それからオブシディアンによるルサルカとラジカル・サークルへの攻撃が開始され、パシフィックポイントの犯罪組織による抗争が始まった。
オブシディアンはルサルカの経営するストリップバーに火炎瓶を投げ込んだり、ホテルにパイプ爆弾を仕掛けたりして攻撃。
また他にも盗難車に乗ったオブシディアンの武装構成員が路上にいたラジカル・サークルの売人を短機関銃で銃撃し、ハチの巣にして逃亡するなど激しい攻撃を仕掛けた。
オブシディアンは開戦と同時にあちこちを攻撃し、銃声と爆発音がパシフィックポイントに絶え間なく響く。パシフィックポイントは戦争状態で、市警が重武装でパトロールを開始する。
オブシディアンはルサルカやラジカル・サークルのドラッグの売人を拉致して、拷問し、死体を“連邦”のカルテル風にバラバラにして晒すということも行った。
マックスとレクシーの下にルサルカのディミトリがやってきたのは、そんな抗争が始まってから5日後のことだ。
「我々は攻撃を受けている。反撃しなければならない」
「オーケー。戦争だな」
ディミトリが言うのにレクシーがにやりと笑う。
「そう、戦争だ。パンサー・ギャングとの戦争だ。そちらからも戦力を出してくれ」
「落ち着け。パシフィックポイントには既に州警察や連邦捜査局も目を付けている。下手にまた馬鹿騒ぎすれば、それこそ根こそぎ摘発されるぞ」
「じゃあ、どうするんだ?」
ディミトリはレクシーにそう尋ねた。
「方法は考えてある。隠れ蓑を使うのさ」
……………………
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