主導権は我々の側にある

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 ──主導権は我々の側にある



 バラクラバを被ったマックスはSUVの中で3名のフュージリアーズのメンバーを視線を合わせた。マックスはサプレッサーを装備した散弾銃で、他はやはりサプレッサーを装備した自動小銃で武装している。


「装備の最終点検」


 身に着けたタクティカルベストには丈夫なポーチが大量に装備され、銃弾の他に応急手当のためのメディカルキットや手榴弾、スタングレネードが収まっている。


 マックスのそれには12ゲージのショットシェルが大量に。そして、そのひとつにはタバコが収められていた。いつものクソ不味い“お説教”タバコだ。


 それから一行はサブウェポンの自動拳銃やフラッシュライトや敵味方識別のための蛍光ライト、爆薬、それから携行する通信機材を確認した。自動拳銃は全員が9ミリの同じモデルに揃えている。


「派手にやるぞ。皆殺しだ」


「了解」


 マックスは運転手の肩を叩き、SUVを発進させた。


 SUVは閑静な住宅街を進み、サム・ゴルコフと彼の部下がいる屋敷の前まで迫った。警備の人間はひとりだけ配置されており、無断で近づいてくるSUVに止まれというように手を振って見せる。


 そこでマックスが助手席から身を乗り出し、散弾銃を発砲。警備の人間は血しぶきをまき散らして地面に崩れ落ちた。


「ゴー、ゴー、ゴー!」


 SUVは加速してゲートを破り、金属音が響き渡る。


 マックスたちは車から降車し、素早く屋敷の玄関に駆ける。


「3カウント!」


 マックスが叫び、3秒のカウントからすぐに彼がスラグ弾で玄関のカギを吹き飛ばした。これぞマスターキーとマックスが笑い、フュージリアーズのメンバーも笑う。


 それからドアが素早く開かれ、スタングレネードが放り込まれた。スタングレネードの炸裂で生じた強力な閃光と音が激痛を与え、相手から戦闘能力を奪い去る。


「突っ込むぞ」


 ドアを蹴り開け、マックスが先陣を切って突入し、フュージリアーズのメンバーたちが続く。彼らはお互いの死角を補い、目に入った人間全てに銃弾を叩き込んだ。


 マックスはポンプ式散弾銃から散弾で敵を薙ぎ払い、フュージリアーズのメンバーはライフル弾を的確に相手の胸と頭に二連射ダブルタップで仕留めていく。


「来るぞ。敵の増援だ」


「あんたの出番だろ、料理人シェフ


「オーケー。任せろ」


 ドラコンの人員が群れを成して迫るのにマックスが遮蔽物から僅かに顔を出して、その方向をしっかりと見定める。


「うわああ──っ!」


 次の瞬間、炎がドラコンの構成員たちを焼き、一気に屠った。その熱は離れた場所にいるマックスたちにもじりじりと感じられるほどだ。


「相変わらずすげえな、あんた」


 フュージリアーズのメンバーがそういうときには。屋敷のスプリンクラーが作動して、炎を消しとめようとしていた。しかし、マックスが放った粘性の炎はそう簡単には消えず、燃え続けている。


「ご機嫌だぜ。続きに行くぞ。まだステージクリアじゃない」


「了解」


 マックスたちは前進を再開し、屋敷の中を制圧していく。フュージリアーズのメンバーのひとりはサム・ゴルコフのスマートフォンの位置情報を掴んでおり、その方向へとマックスたちを誘導していく。


「パニックルームだ。爆薬を」


「ブリーチングチャージ、セット」


「3カウント」


 また3秒のカウントの末にパニックルームの扉が爆破された。


「目標を発見」


「動くな、サム・ゴルコフ!」


 マックスは散弾銃の銃口を怯えているサム・ゴルコフに向けて叫ぶ。


「お、お前たちはなんだ!? 一体何者だ!?」


「悪いテロリストだよ、クソ野郎」


 マックスがサム・ゴルコフの顔面を散弾銃のストックで殴り、倒れたサム・ゴルコフをフュージリアーズのメンバーが結束バンドで後ろ手に拘束した。


「あんたの部下のチャーリーがどうなったのか。あんたも見ただろ?」


「や、やめてくれ! 頼む!」


「そいつはできない相談だ。カメラを向けろ」


 スマートフォンのカメラがサム・ゴルコフに向けられ、マックスはマガジンポーチからタバコを抜いて咥える。


「ルサルカの連中、よく聞け。お前らの部下であるドラコンは潰した。次はお前たちだ。死にたくなければ、正しい判断を下せ」


 そして、炎がサム・ゴルコフを包み、彼が悲鳴を上げて床をのたうつ。


「主導権は我々の側にある。間違うなよ」


 マックスはそう言って撮影を終えさせた。


 この後、動画を焼いたCDがルサルカの幹部たちに届けられ、彼らは見知った顔が生きたまま焼け死んでいくという、ぞっとする光景を目にする羽目になった。


「クソが! ふぜけるなよ、クソ野郎!」


 特に反応を示したのが、ルサルカのボスであるジョセフだった。


「さっさとこいつを探し出せ! 同じように焼き殺してやる!」


 ジョセフは部下をたちを集めた屋敷のリビングで叫ぶ。テレビには焼け死んでいくサム・ゴルコフの映像が流れていた。


「ボス、捜索は続いています。ですが、まだ……」


「じゃあ、てめえは何でここでのんびりしてるんだ!」


 部下のひとりが告げるのをジョセフは灰皿で頭を殴った。部下はよろめいて倒れ、頭から血を流している。


 彼らはボスが切れているのがサム・ゴルコフの件だけではないと知っていた。彼は日に日にドラッグに溺れているのだと。


 オブシディアンの豹人族の連中が嬉々としてボスにドラッグを売りに来ているのに気付かないはずがなかった。昨日はホワイトグラス、今日はスノーパール、明日はホワイトフレークにフェンタニルを添えて。イカれてる。


 こうなる前はジョセフはいい上司だった。


 彼はとても苦労して今の地位についた移民2世だ。ライバルひしめく東部のフリーダム・シティを出て、この西部で一旗揚げようと努力を続けた。


 ライバルと交渉し、手を結び、この未開拓の西部で必死に根を下ろそうとした。連邦捜査局に嗅ぎまわられたこともあるし、市警に逮捕されて臭い飯も食った。それでも彼は諦めず、今のルサルカを作り上げた。


 彼は苦労をともにした仲間たちと繁栄を分かち合い、順調に組織を軌道に乗せていった。彼は仲間思いで、逮捕された仲間が出たときはできる限りのことはしたし、家族の面倒もちゃんとみてやった。


 そんな彼らの最初のビジネスはやはり売春ビジネスだったが、今のように国外からの人身売買は伴っていなかった。


 人身売買を始めたのは“社会主義連合国”が崩壊したときだ。


 経済難に陥った“社会主義連合国”から脱出した人間を世話している間に、彼らにもビジネスを手伝わせ始めたのが始まりで、そこから密入国斡旋を伴う人身売買まではあっという間だった。


 “連合国”本国とのやり取りが増え、人も増えた。彼の周りには見知った部下の他に元国家保安委員会や元参謀本部情報総局の軍人が並び始め、彼らの冷血な優秀さに、ジョセフは次第にコンプレックスを抱えるようになり始めた。


 そして、ドラッグに手を出した。


 昔の家族ファミリーはもう存在しない。


を見つけ出せ。見つけ出して連れてこい」


 狂えるジョセフはテレビに映っているマックスを指して言う。


「了解、ボス」


 部下たちはそんなジョセフから離反しつつあった。


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