語り部:々の二人

子子ノ子 子子子

第1話 歓迎の二重逆ドッキリ…を書く二人

僕は今、港に降り立った。

ここまで僕を連れてきたフェリーは水平線へと消えていく。

今いるここは『青々島あおあおじま』。

その名の通りこの島は青一色だ。


古家も新しい家も落ち着きのある青色に塗られていて、地面は鮮やかな青、水、白色タイルの道になっている。

まるでサントリーニ島のような島だ。

砂浜や木々はもちろん青色ではない。

あまりの景色に見とれている僕の前には『ウェルカム』のパネルを持ったがいる。


「入学おめでとー!」


「ありがとう」


プリン色の髪の女子が元気な声を上げる。


「私の名前は『来々くるくる』。あなたの名前は?」


「僕は『宮々みやみや』。よろしく」


すると次は目の下に切り傷のある体育会系の男子が声を上げる。


「俺の名前は『粗々あらあら』。好きな色は赤色だ!よろしくな宮々!」


「うん、よろしく。そっちは?」


僕は最後の同級生に目線を向ける。


「あっ、私の名前は祇々ぎぎ

祇園精舎ぎおんしょうじゃの祇に、くにつがみの祇で祇々。呼び捨てでいいよ。よろしくね」


とてつもなく分かりにくい自己紹介だ。


「こちらこそよろしく、祇々」


自己紹介が終わり、僕たちは話しながら学校へ行く。


学校は海沿いに位置していて、古めな木造だ。


―学校


「今日からここに入学します。転宮ころみや 宮々みやみやです。よろしくお願いします。」


この学校では入学の時期が決まっていない。

全員がバラバラのタイミングで入学し、卒業する。


「よろしく~」

「知的な顔立ちっすな!」

「いい子そうで良かった〜」


早速クラスがざわつく。


「よし。君で十人目の生徒だ。1人いないけど右奥の席ね」


「はい」


教卓の前に机が前5列、後ろ5列で並んでいる。前の1席が空いている。


「よろしくな」


前が粗々くん。一番端なので左は居ない。

右は少しふくよかな男子だ。


港々こうこう。よろしく、宮々。宮がふたつも続くなんて変な名前だな」


嘲笑う様な顔でそう言った。


「よろしく、港々くん。君も同じく港がふたつ続いてるね」


「ジョークだよ」


悪い奴ではないのかもしれない。


「それじゃあ朝のホームルームを終わります」

「「「ありがとうございました」」」


この学校の授業は特に優れているとか遅れているとかはない。土曜、日曜日に授業がある代わりに、授業は午前だけ。


授業はここに来る前に勉強してきたところからなのでズレはない。


僕はそのまま午前の授業を受け終えた。


―昼休憩


「宮々ご飯食べに行こうぜ!」


「ありがとう粗々くん。港々くんも誘っていい?」


「もちろん」


僕は小走りで港々くんの席まで行く。


「港々くん良かったら一緒に昼食べない?」


「今から俺も誘おうと思ってたんだよ」


僕たちが食堂に行こうとすると、天井から吊り下げられたテレビが光った。

テレビに映る人物は先生でも生徒でもない...いや、生徒は映っていたが映る人物なんて気にしなくなるような光景が映っていた。


それは―ガスマスクを付け軍服を着た性別のわからない人が女子高生にナイフを首元に突きつけていた。


そしてそのガスマスクの人はボイスチェンジャーを使った高い声で言った。


「このガキを助けてみろ」


この瞬間、僕の思考が始まり―嗜好する暇も、試行する暇もなく、終わった。


僕は落ち着いて淡々と喋り始める。

本当に心の底にたようだ。


「これは、なんのサプライズですか?」


「な、何言ってんだよナイフつきつけられているんだぞ」


粗々くんが落ち着かない仕草、声でそう言った。

僕はテレビを指差す。


「だってこれやる今がないじゃないですか」


「どういうことだ?」


港々くんがとっさに聞く。


「犯人が何かを要求してくるわけでもないのに殺すのっておかしいですよね。こんな孤島なら犯人なんてすぐに分かりますし。それに―なんでこの動画は西日が差し込んでいるんですか? 今は昼なんだしおかしすぎます。手抜きすぎでしょ」


クラスの何処かで「あっ」という声が聞こえた。


そしてその後、


「だははっははぁ!」

「あはっはっは!」

「なんだよこれ!」


みんなが一気に張り詰めた空気が抜けたように笑い出した。


「そうなんだよ。これは録画。いつもそいつがどんな人かを確かめるためにやってるんだよ。流石に今回のはひどかったぞ!撮ったやつだれだよ!」


粗々が喉をからして滅茶苦茶に笑ったあとに喋る。

しかし名乗り上げるものはいない。


「恥ずかしいのか?」


望々ぼうぼうの泣きそうな演技上手かったよね〜」


来々さんがテレビの女子を指さして感心している。


望々というらしい。


「この女子が今日来てない子?」


粗々くんに聞く。


「そうそう。昨日から来てないんだよ」


みんなが笑い合って話していたとき、祇々さんが驚きの表情を見せる。


「あっあれ、、、」


みんなが釣られてテレビに視線を戻す。

すると―ガスマスクの男が女子高生の首を掻っ切った。


首からは大量の血が流れ落ちる。

なにか薬品を塗っていたのか、そんなふうには見えなかった。


「な、何かココだけすげーリアルじゃん! ジョークだろ?」


港々くんがもう一度張り詰めた空気をかき消すように叫んだ。


「そ、それなー!」


「ここだけスゲーなーおい」


固まったみんながそれに賛同する。


「もーバレちゃったし解散だな!」


「そうだな!」


粗々くんの一言でみんなが帰り始める。

すべてが終わったかのように。失敗してしまったかのように。


だけどこれで終わりではなかった。そして犯人にとっては、大成功だった。



―「的な感じでどう? むぎちん」


「中々にいい感じだな! さすがにわかちゃんだぜ!」


放課後の空き教室、そこにはケータイで小説を創る2人の中学生の姿があった。


「今日はこれくらいで終わりだね。この続きはどんな感じにするの?」


「そりゃー流れ的に望々ちゃんには死んで貰うでしょ」


「ぬ、やっぱりか! どうやって殺すの?」


犯罪じみた会話を交わしているが健全な歓談である。


「それは……」


麦のヘアピンを右と左につけた女の子はハサミの形をしたヘアピンをつけている女の子へと耳打ちする。


「なるほどねぇ。石が流れるようだね」


「そこは流石でいいんだぜ!」


「ふっふふん。何はともあれこれが私たち文芸部(仮)の最初の活動になるわけだね!」


歓談が閑談と成り代わってゆく。


「そういうことだな!ペンネームどうする?」


「私の俄と麦ちんの麦を合わせて『俄 にわか むぎ』でいいんじゃない?」


「そのまんまだな! この小説全員名前に々ついてるから『俄 麦々にわか ばくばく』でどうよ!」


「おぉっ、いいね!」


「せっかくなら文芸部(仮)じゃなくてもっと他の名前にしようぜ!」


「例えば?」


「語り部とか...」


語り部とは...昔のことを口承で語り継ぐことである。


「語り部とかけてるって訳だね。私たちは小説書いてるんだからどちらかと言ったら『語り手』だけどね」


「ははっ。そうだな」


少女2人はタイトル『転宮 宮々の至高の思考』と書かれた小説を投稿しようと【公開】のボタンを押す。


「これができるだけ色んな人に見てもらえるといいね」


「そうだな」


[俄 麦々

『転宮 宮々の至高の思考』が公開されました]


「よし! 明日は事件が起こって謎を解く場面だな」


2人は帰りのチャイムがなったと同時に教室の扉を閉める。

吹奏楽部の部員に混じり流れる石のように今日の執筆を終わらせた。


「そういえばだけどさ麦ちん。主人公ちょっと平凡すぎない?」


「いいんだよ、あれで。奴は絶対にダメだ」


「それまた何で?」


「他の人の話をなんつってな」


「ん〜100点! 流れる石のようだね」


「そこは流石でいいんだぜ」



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